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農業経営者の横顔



田んぼの中の小さなパン屋「米豊霧」。集落の拠点になって地域に貢献したい!

2019年03月05日

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福田ちず子さん(写真左) (広島県三次市 株式会社福田農場)


 中国地方のほぼ真ん中に位置する三次(みよし)市は、中国山地から流れ出る清流が土地を潤し、肥沃な農地が広がる。株式会社福田農場は、米作りを中心に野菜や穀物を生産し、広島県で育成された品種「あきろまん」を使った米粉パンを、直売所「米豊霧(まいほうむ)」で販売している。


農業だけれど"NO"ではなく、"YES"で応える
 「嫁いで来た頃、主人は養豚をやっていました」と、福田農場の役員を務める福田ちず子さん。昭和47年、ご主人の福田一夫さんは個人経営の小さな農家だった。「ところがオイルショックや企業の養豚業進出で、苦しい状況になってしまったのです」。
 ちょうどその頃、地域で圃場整備が始まった。小さな農業機械しか持っていない集落の人たちから、若くて元気な福田夫婦に全面作業受託の依頼があり、引き受けることになった。「農業だけれど、"NO"とは言えないですよ。農地は地域の財産で、それを預かるのだから、信頼関係を築かないといけません。それで集落が元気になるのなら、大きな声で"YES"って返事しないとね」。養豚業は昭和60年頃まで続けたが、平成元年に牛に切り替えた。そして、稲ワラを餌とする循環型の経営に転換した。さらに、作業の受託面積が増加したことを受け、水稲に絞り込んだ。
 現在の面積は水稲50ha。福田さん夫妻と一之さん、千加子さんの長男夫妻、正社員3名に加え、農繁期には多くのパートを雇用している。


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左 :「米豊霧」の外観。三次駅から車で5分。なだらかな田園地帯のなかに白いお店が建っている
右 :店内には多種多様の米粉パンが並ぶ。もちもちとした食感は小さな子どもからお年寄りまで好評

6次産業化認定制度を活用して整備
 福田農場が法人化したのは平成19年。集落全体で法人化するのは難しかったことから、福田農場が株式会社を起ち上げた。社長には一夫さん(現在は一之さん)が就任し、ちょうどその頃Uターンした長男夫婦と、ちず子さんが役員となった。
 平成21年、広島県内で6次産業化認定農家を出そうという動きがあり、普及指導員から「認定を受けませんか」と打診された。「6次産業化については全然知らなかったけれど、それ以前から、餅と味噌の生産加工販売をしていたので、私たちにぴったりの制度だと思いました」とちず子さん。


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左 :和気あいあいとした雰囲気の従業員のみなさん
右 :小豆の収穫風景。男性スタッフ総出で一気に刈り取る


 ちず子さんは、農家の奥さんは農作業よりも、生産物を加工して付加価値をつけて売るのがいいと考えていた。当時、三次市と広域商工会が立ち上げた組織"米粉プロジェクト"を知っていたこともあり、長男の妻の千加子さんに米粉パンを作ってみないかと勧めたところ、「やってみたい」とすぐに返事があった。普及指導員の協力を得て、早速申請書類の作成に取り組んだ。

 従来からの餅、味噌に加え、米粉パンの製造販売が6次産業化の対象となり、平成21年5月に認定された。福田農場の事業に対して、広島県と三次市から半額助成があり、味噌加工場とパン工房の器具や販売所に必要なトイレなど、ハード面の整備をした。
 また、国の補助金を講師派遣にあて、米粉パンの商品開発、販路拡大や直売所のレイアウトなどに助言をもらった。
「トイレの設置は、最初ダメだと言われたのです。でも農業新聞で『直売所にトイレは必要』という記事を見つけて、それを提出したら許可が下りました」。集落の人たちが集まる場所作りが目標だから、トイレの設置はとても重要なことだった。


小さなパン屋さん「米豊霧」を実現
 千加子さんにはパンの製造経験がなかった。米粉を使ったパンは製法が難しく、専門家の指導のもと、製造ノウハウを学んだ。また、1日の売上目標額に見合った器具導入の指導を受け、試作品を何度も作り、ようやくおいしい米粉パンが完成した。店名は、霧の町である三次市にふさわしく「米豊霧」=「まいほうむ」として、平成24年にオープンした。
 白大豆を収穫した後に植える「あきろまん」が米粉パンの原料で、無肥料で育つという。この米粉パンに、畑で収穫したホウレンソウ、コマツナ、ゴボウなどを使って調理パンを商品化。あんパンの餡も自家製だ。また、3年前から週に4日、ワゴン車2台でパンの移動販売をおこない、着実に顧客を獲得し、売り上げが伸びている。


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左 :「もちもち♡ふあふあ」という食パンはすぐに売り切れるほどファンが多い
右 :米粉パンは小麦製のパンとは異なり、製造が難しいが、そこは熟練の技。毎朝10時においしい米粉パンが焼き上がる


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左 :ベーコン、ウィンナーのサンドは若者に人気
右 :岩塩使用の、後味さっぱりの塩クッキーなども販売


ありのままの農業を体感してほしい「収穫感謝祭」
 地域貢献に情熱を傾けることが使命というちず子さんが大切にしているイベントが、毎年11月に開催する「収穫感謝祭」だ。手刈りの稲刈りやハザ掛けなどの農業文化を知るためではなく、福田農場がふだんおこなっている農作業をありのままに体験してもらいたい、米はこんなふうに作られていることを知ってほしいという思いから、平成10年に始まった。今回、19回目になる収穫感謝祭には、地域の人々や県立広島大学の農林業ボランティアサークル「ファーマーズハンズ」の学生を含め179人の参加者が集い、秋晴れの一日を大いに楽しんだ。
 「今年は中学生の参加者が多くてにぎやかでした。農業初体験で、戦車のようなコンバインに興奮し、家族で餅つきをして餡子餅を食べる。家族の絆が深まるのを見て、ほほえましくて」。

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左 :収穫感謝祭でお客様を迎える福田夫妻と長男の一之さん
右 :子どもたちから大人まで大人気の芋掘り


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左 :つきたての餅をきれいに丸めて、あとは食べるだけ
右 :ジャンパー姿のスタッフがお客様を明るくおもてなし


 餅つきやバームクーヘン作り、コンバイン試乗など、多彩な体験プログラムを、参加者は休む間もなく楽しんで回るという。コシヒカリ、あきろまん、ひとめぼれの3種類のおむすびの品種当てクイズでは、地域の養鶏場の卵が賞品になるという、ユニークで楽しい企画もある。こうしたイベントは準備を含め労力のいることだが、地域が元気になり、親戚や同級生が顔を合わせ交歓する場になればうれしいと、ちず子さんは語る。

 「福田農場が集落の拠点でありたいと強く思います。地域の人に、福田があるから安心だね、と言ってもらえるのが夢だし、都会へ出て行った人が帰省したとき、立ち寄ってくれる場所でありたい。収穫感謝祭のチラシに『ごはんの故郷へおいでください』というコピーを載せたとおり、ここが故郷だと思ってもらえたらうれしいです。何かあれば福田農場へ、米豊霧に行こうよと思ってもらえるようになればいい。トイレも完備していますしね」とちず子さんはほほえんだ。取材中、「米豊霧」には常にお客さんの姿があり、情報交換をしたり世間話をしたり、すでに立派な拠点になっている。(ライター 上野卓彦 平成29年11月15日取材 取材協力:広島県北部農業技術指導所〉
●月刊「技術と普及」平成30年2月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社福田農場 ホームページ
住所 :広島県三次市和知町2682-2
電話 :0824-66-2765