与謝野産の米と野菜で作った加工品で雇用を生み地域を守る
2018年11月05日
京都府与謝野町は、鬼伝説で有名な大江山にほど近く、北は扇状地が日本海に抜け、三方を山々に囲まれている。平成29年に日本遺産に認定された丹後ちりめんの町として古くから知られており、今も日本最大の絹織物産地であるとともに、加悦谷平野に流れ込む豊かな水の恵みが大地を潤すことから、おいしい米や野菜の生産地でもある。「とにかく地域の農家が元気になることを第一に考えながら経営してきました」と語るのは、(有)誠武農園代表取締役社長の西川誠司さんだ。
米3haと野菜のハウス2棟から始まった
「与謝野の谷で育まれる元気な野菜を皆様に」と発信する誠武農園は、平成2年に西川誠司さんと安田武明さんが共同で立ち上げた、米と野菜の生産を主体とする農業法人だ。当初は水稲3haとハウス2棟でコマツナなどの野菜を生産していたが、転作が強化されたため、米に代わる品目としてトマト、キュウリの生産を始めた。平成13年には京都府認定のエコファーマーを取得し、同時期に組織を有限会社化した。平成17年度に優良担い手表彰コンクールにおいて、全国担い手育成総合支援協議会会長賞を受賞した。また、平成21年には京都府農林水産業功労者として表彰された。
左上 :鬼伝説の大江山が近く三方を山に囲まれた与謝野盆地は、大地を豊かな水が潤し、良質の土を作っている
右下 :西川さん(左)と、創業者で共同経営者の安田武明さん(右)
3haからスタートした水稲は現在23haに拡大し、ハウスは38棟にまで増設された。一方、人手不足は深刻だと言う。「多くの地域でも問題になっていると思いますが、大学に行った若者は帰ってこない。地元に就職先がないのが一番の問題です」。そこで若手の育成に取り組もうと、平成7年度から積極的に農業研修生を受け入れ、多い年には3人を受け入れてきた。
誠武農園設立から四半世紀が過ぎ、地元の過疎化、会社の世代交代などの問題、そしてこれからが正念場だという地域と会社の生き残りをかけて、経営のあり方を模索してきた。その過程で6次産業化への取り組みが始まり、会社のステップアップのきっかけとなったのである。
乾燥野菜による6次産業化へ
平成25年、京都市に本社がある株式会社真田から、「誠武農園の野菜を使って、乾燥野菜を作れないか」という問い合わせがあった。「これからすべての商品を国内産にしたいと思っているが、できれば京都産の野菜を使いたい、と会社の方が訪ねてきた」。(株)真田は創業100余年の老舗乾物会社で、200種類以上の商品を「山城屋」という屋号で扱っている。
それからの展開は早かった。6次産業化への申請書類は農園スタッフと(株)真田が協力して作成し、認定されると乾燥工場の建設が始まった。敷地は西川さんの親類の土地を活用し、翌26年には乾燥工場が稼働を開始した。野菜を乾燥させる技術のノウハウはなかったが、(株)真田の指導を受けて商品化することができた。「乾燥させる野菜は鷹の爪トウガラシにゴマ、それに、きざみニンジンです。ニンジンは『雪の下人参』なので、甘味があっておいしいのです。それに、原料はすべて地元産です」。
左上 :誠武農園が生産・加工し、京の乾物屋として人気のある山城屋の乾燥野菜
右下 :京都産の野菜にこだわる山城屋と契約している赤とうがらし。有機栽培で育てられている
徐々に品目が増え、京野菜である聖護院大根が新たに加わった。ダイコンを千枚漬けのようにカットして切り目を入れた商品で、普通のダイコンと違い、とろみのある食感に人気が集まっている。また、これまで廃棄していた聖護院大根の葉も今後、乾燥野菜として商品化をめざしている。「大根の葉には栄養素が含まれているので、健康志向の消費者に好まれるのではないかと思っています」。他から仕入れたゴボウは乾燥させて、パック詰めして出荷している。また、まだ試験段階だが、丹後農業改良普及センター等からの提案で、京野菜として人気の九条ネギの乾燥野菜生産に取り組み、まもなく商品化されることになりそうだ。「いずれは地元で収穫された野菜100%の乾燥野菜の商品化をめざしています」。
雇用は現在、生産現場に正社員9名とパート9名、乾燥工場は正社員1名で、パート8名が働いている。地元からもっと正社員を雇用したいと思っており、そのためには、乾燥野菜工場の拡充と、生産性を高める新たな取り組みが必要だと考えている。
左上 :収穫前のキュウリの栽培管理をする女性スタッフたち
右下 :ハウス内で育つコマツナとミズナ
左上 :トマトの選別作業でも女性スタッフが活躍
右下 :社員・パート合わせて27名を超えるスタッフがいる誠武農園
新商品開発と、海外市場をにらんだ取り組み
米の販路にも特徴がある。23haの水田では『京の豆っこ米』と名付けた米を育てている。「おからを主原料に、米糠、魚あらなどの天然成分を発酵させた有機質肥料『京の豆っこ』を使って栽培した丹後産コシヒカリです。地元にも流通しています」。また、地元の卸売業者を通じて海外展開にも積極的に取り組み、香港の航空会社の機内食にも使われている。国内はもとより、海外に目を向けて販路を広げ、さらにはヨーロッパ市場をねらった販路拡大をめざしている。
野菜を使った新たな加工品も生まれた。西川さんの長男である取締役の忠宏さんが中心となって取り組んでいる「のむ小松菜」「たべる小松菜ドレッシング」である。「年明けから6月くらいまでが、コマツナがよく育つ時期。とれすぎて廃棄することもあり、もったいないと思っていた」。「のむ小松菜」は、青汁感覚で飲みやすくしたもので、平成25年度に開発した。
左上 :青汁感覚の「のむ小松菜」は、コマツナと地元京丹後産の梨の果汁と合わせ、おいしくて栄養たっぷり
右下 :コマツナ20本を使った「たべる小松菜ドレッシング」は、サラダはもちろん冷奴、ポークソテーや焼き肉、餃子などにオススメ
小松菜のジュースは、リンゴやバナナを加えることが多いが、地元京丹後産のナシ果汁と合わせ、独特のまろやかな味に仕上げた。
「たべる小松菜ドレッシング」は、1本あたり小松菜20本を使い、米酢、タマネギ、ショウガ、ニンニク、レモン果汁などを加えたヘルシー志向のドレッシングで、大手百貨店などから引き合いがある。
今後は、小松菜だけではなく、ニンニクを使った「焼肉のタレ」の製造をスタートさせるという。「ニンニクは、おいしさの違いがよくわかる食材なので、ニンニク好きの私が選んだものをタレにして、大いに楽しんでもらいたい」と忠宏さん。
「今は品目が多いので、絞ることが必要かな。そして、確実に売れる商品を作っていきたい」。父から子へ経営がうまく引きつがれ、新たな展開が始まろうとしている。(ライター 上野卓彦 平成29年7月7日取材 取材協力:京都府丹後農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」平成29年10月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
有限会社誠武農園 ホームページ
京都府与謝郡与謝野町字滝3047
電話:0772-43-2319