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農業経営者の横顔



国産の鶏、地元産のエサにこだわった「さくらたまご」と、タマゴたっぷりのスイーツが人気

2015年12月22日

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小川洋輔さん (鳥取県西伯郡大山町 有限会社小川養鶏場) 


 中国地方の最高峰である大山(だいせん)(標高1792m)。山麓にわき出る清澄な名水がしみこんだ肥沃な大地に、高原の樹木をすいて吹く風と、北の日本海を渡って来る海風とが交じり合い、多くの山の幸、野の幸を育む。

 この大山の麓で純国産の鶏にこだわり、エサも地元産の飼料を使う「さくらたまご」などを生産する小川養鶏場の小川洋輔さん(43)は、3年前にタマゴをたっぷりと使ったスイーツを販売する「たまご屋工房 風見鶏」をオープン。一度食べたら忘れられない味と食感が、リピーターを増やしている。最初の店舗設立にあたっては国からの支援を、今年5月にオープンした2号店は鳥取県からの支援を受けている。


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大山(・鳥取県大山町役場観光商工課提供)と風見鶏1号店正面(


鶏卵の供給から、新たな展開へ
 小川養鶏場は、小川さんの母方の祖父が境港市で経営していた養鶏場が母体で、昭和37年頃から、国産のエサにこだわった鶏卵を生産してきた。その後、昭和46年に大山町に養鶏場を開設し、京都生活協同組合に出荷を開始した。この頃から、純国産の鶏と地元産のエサを使った「さくらたまご」の生産をスタートさせ、注目を集めた。


 昭和57年には本社を大山町に移して増羽体制を確立し、鳥取県生活協同組合をはじめ、県内のスーパーマーケットに出荷するようになった。しかし養鶏業界にも不況の波が押し寄せ、多くの同業者が事業から撤退。小川養鶏場では、鶏卵の75%を鳥取県生協に、残りをスーパーや道の駅などに出荷することになる。「ところが最近、大規模スーパーなどができて、タマゴの価格が安いですから若い世代はそちらに行きますし、今までお付き合いいただいたお客様も高齢化しています。生協さんや地元のスーパーにいつまでも頼り切っていて大丈夫か? という心配がありました」と語る小川さん。祖父から父へと受け継がれた会社は、現在父が社長であるが、会社経営は小川さんが担っている。


 養鶏業界で生き残りを図るために小川さんが考えたのが、タマゴをたっぷりと使ったスイーツの店づくりだった。「鶏卵の販売がどんどん減っていくのを見て、これではダメだと。では、どうするか。自分たちのところで鶏卵を売っていくというスタイルを確立すれば、ずっと続けていけるのではないか」と考えた。


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左から上から  さくらたまご、こめたまご、もみじたまご


 すでに平成21年から、小川養鶏場では地域の水田の有効活用と輸入トウモロコシの高騰への対応として、飼料米を鶏のエサにする取り組みを始め、卵黄が白い「米たまご」の販売を開始。同時に、農商工連携で、「親鶏スモーク」や「さくらたまごマヨネーズ」を商品化し、鳥取県経営革新計画の鳥取県知事承認も受けた。この流れの延長線上にあるのは何かと考えた小川さんは、「タマゴはうちで生産しているから、たくさん使える。原価を抑えることができ、有利ではないか」と発想。それが「たまご屋工房 風見鶏1号店」のオープンに結びついた。


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 :飼料用米ホシアオバの圃場 /  :小川養鶏場の鶏舎


1号店、そして2号店をオープン!
 スイーツショップ設立に向けて動き始めた小川さんだったが、自己資金でまかなうことは無理だとわかっていた。鳥取県の商工会に相談したところ、農林水産省が6次産業化の支援活動を行っていると教えられた。県農林局西部農業改良普及所大山普及支所員に手伝ってもらい、応募。一次審査、二次審査を無事に通過、最終審査に残り、小川さんは上京。支援が決定した。「まさかとは思いましたが、最終まで行き、"いいですよ"ってことになりました。提出しなければいけない書類がたくさんあって、私だけではとても書けなくて、普及所のスタッフの方にはずいぶんお世話になりました(笑)」。


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 :風見鶏1号店の店内 /  :さくらたまごのスープ


 この結果、小川養鶏場は国から半額補助を、県からも一部補助金の支援を受け、平成23年6月10日に店舗をオープンする。さらに平成26年5月には米子市内に2号店を開設した。2号店は鳥取県からの補助金支援を受けた。申請のサポートをした西部農業改良普及所大山普及支所の中西由美花普及員は、「1号店開設が自社の経営発展につながっている上に、雇用の創出、地元産品である茶、ブルーベリーなどを活用など、地域への波及効果も大きい。県としても応援していかなければいけないと考えました」と語る。


素人発想のスイーツ作り
201511_yokogao_kazamidori_6.jpg 現在の従業員は生産部門が10名、加工・販売部門が14名。平均年齢は生産部が40~50歳代、加工・販売部は20歳代と若い。昨年度の1号店の来客数は月平均で4000人前後、1人あたりの購入単価は1100円前後で、1号店だけで年間約5400万円の売上げがある。また、年間売上げでは、鶏卵の生産収入は平成24年度実績で約1億5000万円、加工・販売部門は「風見鶏1号店、2号店」を合わせて平成26年度は約9600万円を計画。総額売上げは約2億5000万円を見込んでいる。
右 :風見鶏2号店外観


 「今年は2号店がオープンしたので、昨年度より2割程度売上げが上がると思います」と小川さん。しかし、倉吉と米子を結ぶ幹線道路脇で交通量の多い立地にあった1号店は、平成25年12月に山陰道が全線開通した影響で顧客が減少しはじめている。米子市内の2号店開設はその対策の一環でもあった。5月のオープン以来、2号店には着実に顧客がつき、小川養鶏場の鶏卵を求める声も聞かれ、米子市内のスーパーでの販売も期待できる。


 現在、店の販売品目は、シュークリーム、ロールケーキ、プリン、カステラ、焼きドーナツ、マドレーヌ、ズコット(チーズケーキ)などのスイーツと、4種類の鶏卵「さくらたまご」「米たまご」「もみじたまご」「若草たまご」など。「子ども連れの女性のお客さんが多いですが、男性客が多いというのも、うちの特徴なんですよ」と小川さん。取材中も中年の男性客がロールケーキとシュークリーム、そしてプレゼント用に「さくらたまご」を買い求めていた。女性販売スタッフは、「男性が入りやすい雰囲気なんでしょうか。一人で来られて、コーヒーを飲みながらマドレーヌを店内で召し上がられていたりします」とほほえむ。「うちの店には、プロいわゆるパティシエ(お菓子職人)がいません」と小川さん。パティシエのカラーが出るようなスイーツを作るのではなく、「とにかくタマゴをたくさん使ったメニューを作る。素人の発想の方が、いろいろ楽しいメニューが生まれて来ます」。また、今年の夏からはじめた「たまごかけごはん」も好評で、リピーターが多いそうだ。


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たまごかけごはんの看板()とプリン(


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焼きドーナツ・プレーン()と1号店の加工場(


夢は「自分たちで生産したタマゴを自分たちで売ること」
 小川養鶏場では、スーパーや小売店に生産した鶏卵を出荷しているが、小川さんの最終目標は"生産した鶏卵はすべて自分たちで販売すること"。「現在、稼働している鶏は2万6000羽程度。今後、鶏卵の需要が増えるのであれば増羽していきたいですが、逆に規模を縮小しても自分のところで販売し、それで売上げが同じであれば、事業として充実するのではないかと考えています」と語る。その思いの奥には、耕作放棄地を甦らせるための飼料米生産というビジョンがある。


 「僕には地産地消への思いがあって、近くで収穫された飼料米をうちの鶏のエサにする。輸入飼料の価格は今後値下がりすることはないでしょう。食料自給率を上げることからも、地産地消の考え方が大事だと思います」と熱く語る。そして、生産から加工、販売へと6次産業化のコマを進めた小川さんは最後にこう締めくくった。「6次産業化に必要なもの、それは"覚悟"だと思います。大変な思いをしますが、夢があります。まだまだですが、夢の実現のために"覚悟"をして、頑張って行こうと思っています」

 また大山普及支所では、西部家畜保健衛生所とともに、新たなステップとして農場版HACCP(※)導入に関しても支援をスタートさせている。(上野卓彦 平成26年9月11日取材 協力:鳥取県西部総合事務所農林局西部農業改良普及所大山普及支所)
●月刊「技術と普及」平成26年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


 HACCP:
原材料の受け入れから最終製品までの工程ごとに、微生物による汚染、金属の混入などの危害要因を分析(HA)した上で、危害の防止につながる特に重要な工程(CCP)を継続的に監視・記録する工程管理システム。


たまご屋工房 風見鶏 ホームページ
鳥取県西伯郡大山町名和696-1
TEL 0859-54-5055