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農業経営者の横顔



地域資源を生かす工夫重ね、来園者20万人の農業公園に成長。観光農業で地域農業を守る

2015年06月26日

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奥田 哲生さん (奈良県三郷町 株式会社農業公園 信貴山のどか村代表取締役) 


 奈良県と大阪府にまたがる生駒山地の信貴山、その標高350mに40haの広さを持つ(株)農業公園 信貴山(しぎさん)のどか村(以下、のどか村)は、キャッチフレーズの「心豊かな自然を体感しませんか!」をそのままに、一日中楽しめる人気の観光/体験スポットだ。国の事業による全国3番目の農業公園として昭和62年5月に設立、営業を始めた(全施設の完成は平成4年6月)。来園者は年間20万人、従業員は正社員20名と地元雇用が中心のパート約40名。
 8代目社長の奥田哲生さん(64)は、「観光農業施設間の競争や景気低迷が続いた間も、客数の減少が少なく、ここ数年黒字経営が続いている。20年以上前から6次産業化を進め、地元産にこだわりながら『お客様に喜ばれる』を追求して、常に新しいものを提供してきた」と話す。


集落(地域)ぐるみの農業公園として発足
201506_yokogao_nodokamura_2.jpg のどか村設立前の地域の農業は、標高を生かした農産物の味が良いと評価が高い一方、担い手不足と山間地ゆえに機械化、大規模化ができないという悩みを抱えていた。地域の農業を守り、信貴山という立地を生かすには、都市住民の憩いの場として観光農園を作ったらどうかと当時の町長(地元出身)が提案。集落で話しあいを重ね、集落全戸、40余の農家が社員となり、有限会社として出発した。第3セクターを選ばなかったのは、公に頼らず自分たちで経営に責任を持ち、発展させていくという決意の表れだった。
右 :のどか村の総合案内センター


農産物はのどか村内で栽培、加工、販売
 のどか村が提供してきた食事や体験、加工品等は、6次産業化の先取りと言える。だが意図したわけではなく、「のどか村の運営を考えたらそうなった、そうせざるを得なかった」と奥田さんは言う。
 のどか村で生産される農産物は、味覚狩り、野菜の収穫体験、直売、レストランやバーベキュー等により、のどか村内で販売、消費される(一部の野菜は学校給食や産直市、朝市へ出荷される)。使い切れない、また売れ残った農産物を活用するために、ジャム、梅干し、干ししいたけなどの農産加工に取り組んだ。新しいものでは、ハーブ園のハーブを使った「ハーブクッキー」や「のどか村の天空たまごプリン」が人気である。これら加工品は野菜や卵等とともに、園内・総合案内センターの販売コーナーで販売されている。


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 :総合案内センターにある販売コーナーでは、のどか村産の野菜と加工品だけでなく、奈良県各地の特産品も販売されている
 :「みかんゼリー」と「のどか村の天空たまごプリン」。プリンは甘すぎず、卵の味が濃いのにさっぱりとした後味


 のどか村の加工は、「残った農産物の利用」であり、イチゴ摘み取りや卵拾いが盛況であれば加工に回せる量は減る。そのためジャムやプリンの数は一定ではないし、売り切れ御免の時もある。「原料を外から入れればもうかるだろうけれども、それはして来なかったし、これからもするつもりはない」と奥田さん。
 あくまで村内産、村内消費にこだわっていく。そのひとつが廃鶏を利用して女性をターゲットにしたメニューの考案だ。バーベキューハウスの溶岩板焼きで、卵を産み終わった鶏を「油の少ないヘルシーな鶏肉」とうたい、村内産野菜の食べ放題と一緒に提供している。


参加型体験で満足感
 体験で人気があるのは、鶏舎に入って自分で拾った産みたての卵をかまどご飯で食べる「天空卵かけご飯」だ。「かまどご飯」は屋外に設けられたかまどで薪を燃やして炊く。釜の蓋が取られ、ご飯から湯気が立ち上ると、かまどを囲んで集まった人たちから一斉に歓声があがるという。目の前で炊きあがった炊きたてのご飯に「自分で拾った」産みたての卵をかけて食べるという、「参加型」の体験に皆、引きつけられるのだ。ピザ用のかまどで焼かれる、のどか村野菜トッピングの「石窯ピザ」も人気のメニューになっている(どちらも土日祝日限定)。それぞれの石窯は、ともに職員が手作りしたというから驚く。また、「イチゴジャム教室」(期間限定)も好評だ。


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 :にわとりの庭では、たまご拾い体験ができる
 :社員手作りの石窯で焼かれた人気のピザ


集客に知恵をしぼる
 春秋の行楽期に来園者が多いのは当然だが、一年中集客するための工夫も重ねている。冬場の目玉となるイチゴ狩りは、1月上旬に始まるように栽培する。外は寒くても15棟のイチゴハウスの中は温かく春のようで、県育成品種の「古都華」「赤星いちご(品種はアスカルビー)」と、「章姫」が赤く大きく実っている。イチゴ狩りは先着順で、30分食べ放題だ。


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 :休日の広場は家族連れでいっぱい
 :子供たちが元気に遊ぶアスレチック


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 :しいたけハウスではシイタケの摘み取り体験ができる
 :期間限定のソバ打ち教室


 来園者は奈良県内と大阪府から来る人が半々で大部分を占め、次いで多いのが滋賀県という。海外からのお客さんが最近増えているとのこと。取材当日は、台湾からの女性グループが弁当を広げていた。また、リピーターが多いのが特徴で、そんな彼ら彼女らを飽きさせない新しい企画を次々に打ち出してきた。「2年ぶりに来たらまた新しいものができているね」という声がうれしい、と奥田さんは顔をほころばせる。


「こんにゃく」を特産品に!
201506_yokogao_nodokamura_5.jpg 今進めているのは、「蒟蒻芋の栽培とその蒟蒻芋を活用した加工・販売」だ。農水省の平成25年度農山漁村6次産業化対策事業の認定を受け、のどか村では初めての蒟蒻芋栽培に昨年から取り組み、「のどか村特産こんにゃく」の商品開発と加工を準備中である。コンニャクの新商品がのどか村の販売センターに並ぶ日も近い。「こんにゃく体験教室」も開きたいという。また、町や農業委員会とも連携して、コンニャク栽培による町内の遊休農地の解消と、ゆくゆくはコンニャクを三郷町の特産品に育てていきたいとのこと。
右 :こんにゃくのコーナー。加工品はいずれ村内産に置き換わる予定


 次々と新しい取り組みを続ける、のどか村。平成11年農林水産祭(むらづくり部門)で内閣総理大臣賞を受賞した経営は、今なお進化し続けている。(水越園子 平成26年2月4日取材 協力:奈良県農業総合センター普及研修部普及技術課、奈良県農林部農業水産振興課)
●月刊「技術と普及」平成26年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


(株)農業公園信貴山のどか村 ホームページ
奈良県生駒郡三郷信貴南畑1-7-1
TEL:0745-73-8203
FAX:0745-72-9251