地産地消で直売。買う人のニーズを汲み、自社農産物による加工品を展開
2014年04月23日
滋賀県甲賀市水口町の(有)るシオールファームは、平成6年の設立。立地は琵琶湖の南、三重県境に近い平場地域で、現在の経営面積は約100ha。水稲65ha、生産調整30ha、作業受託25ha、野菜(ブロッコリー・ハクサイ・キャベツ・ダイコン・カボチャ・ニンジン等)2ha、イチジク、花き等の土地利用型複合経営を行う大型法人だ。
従業員はパートも含め17名。代表取締役の今井敏さん(44)は平成20年9月、義父で創業者の徳地好雄さんから社長を引き継いだが、最初の仕事として直売所を立ち上げた。事務所に隣接する直売所「農家のお店 るシオール」では、米や季節の野菜等の農産物、自家産農産物を原料にした加工品等を販売。県内のみならず近県の人もやって来る、評判の直売所である。
左上 :「農家のお店 るシオール」 / 右下 :直売所で接客する今井さん
「自分たちの力で何かしたかった」共同ファームを設立
JA職員だった今井さんは、非農家の出身。平成5年、25歳のとき結婚するにあたって義父となる徳地好雄さんから「農業をしてほしい」と乞われ、就農した。
翌年、るシオールファームの設立とともに取締役になったが、後継者は後継者。経営の中心ではない。同じように地域の若手後継者は皆、自分たちで何かをやりたいと感じていた。平成10年に後継者9名で、転作地の期間借地および作業請負を行う(有)共同ファームを設立、今井さんは社長になった。「同世代で楽しみながら行う作業は面白かった」。それぞれが家の農業を行うかたわら、共同ファームで年間のべ60日間の仕事をする。水稲、麦、大豆の3部門の独立採算制。共同作業と適期作業で効率を上げ、生産性と利益を追求する。平成18年には全国農業コンクール全国大会で優秀賞を受賞した。
左上 :総出で育苗ハウスのビニール張りを行う(共同ファーム)
右下 :米の品種は「コシヒカリ」「きぬむすめ」「ミルキークイーン」など。県の環境こだわり農産物の指定を受けている
納期どおりに仕上げる仕事ぶりが認められ、現在は米9ha、大豆と小麦各100haのほかに収穫の請負が小麦120ha、大豆250ha。ソバの収穫も請け負う。集落営農組織や専業農家等の顧客が中心だ。ヘリ防除は1000haとなり、23年度からは県外へも行く。
直売所には、売る喜びと消費者との接点がある
土地利用型農業のスケールメリットを極める一方、「共同ファームでは、作るだけで売る努力をしたことはなかった。経営を引き継いで、作るだけでなく売る楽しみがあることに気づいた」と今井さん。「新鮮な旬の農産物を気軽に買える」をコンセプトに、まずは自慢の米と野菜の直売を始めた。冬場の安定収入確保にもなると考えた。
農業地帯でありながら、周辺には住宅地も多い。直売することで、さまざまなニーズを知ることができる。買う人との会話をきっかけに、きぬむすめやミルキークイーンを作るようになり、加工品の製造販売にもつながった。
今井さんの一押しは、規格外のタマネギを使って作る「玉ねぎドレッシング」。発売以来、2カ月で1800本売れたという人気商品だ。廃棄か買いたたかれるはずだった農産物が付加価値を生んだと話す。
また、自家製コシヒカリから作る「オリジナルおかき」は単価250円ながら、昨年度は120万円を売り上げた。この2商品を業者に製造委託しているのは、バラツキをださないため。その一方、自社の加工場で作るのはポン菓子(米、黒豆)と、漬物、寿司、赤飯、おはぎなどの季節商品。加工が長年の夢だった義母の絹子さんが作る「黒豆の寿司」等のオリジナル商品は、隠れた人気商品だ。
右 :タマネギをふんだんに使用したドレッシング3種と、玉ねぎソース、にんにくたまり醤油
「利益を出す商品」と「人を呼ぶ商品」
加工品には「利益を出す商品」と「人を呼ぶ商品」の2種類ある、と今井さんは言う。「玉ねぎドレッシング」と「オリジナルおかき」の委託商品は、利益を出すために売りに出る必要があり、直売所だけでなく、サービスエリアの売店やイベントでも販売する。それに対し、手作りの寿司等は直売所限定の販売で、楽しみにしているお客さんに「今日はあるかしら」と足を運んでもらう商品。だから、高く売るつもりはない。
米粉を売っていく必要も感じており、まずは米粉を使った加工品をと、プロのパン屋に委託して試作をしている。米粉などの新しい食材は、消費者に認知してもらう工夫が大切だと考えている。
左上 :るシオールファームの直売店、「農家のお店 るシオール」店内では、自慢の米や野菜、加工品が売られている。左は今井敏さん
右下 :自家製コシヒカリの「オリジナルおかき」と「ポン菓子」
輸出も視野に。商談会で香港へ
平成24年11月、滋賀県の事業で実施された、香港での輸出商談会に参加した。滋賀県産の農産物は今まで特にPRの必要はなかったが、TPPに向かう動きもあり、これからはPRする必要があるのではないかと感じている。今井さんが香港へ持っていった商品では、玉ねぎドレッシングと米が、バイヤーやレストランのシェフに評価された。「海外で評価され売れれば、世界で認められたことになる。それが国内で売る場合の武器、ブランドにもなるだろう」と言う。今後の展開が楽しみである。
左上 :土山サービスエリアでもドレッシングを販売
右下 :輸出商談会に出品した、るシオールファームの商品
今井さんの販売の原点は直売所だ。「時間をかけて遠くから運んできたものよりも、ここで作った米や野菜のほうが新鮮でおいしいはず。それを分かった上で、私の作った農産物、加工品を選んでもらえればうれしい。自分は本物を、そして安心で安全なものをつくっているから」と胸を張る。これからも経営感覚を磨き、新しい技術に挑戦しながら米や野菜、加工品を作り、売る。その先には世界の市場も見えている。
(水越園子 平成24年11月22日取材 協力:滋賀県甲賀農業農村振興事務所農産普及課)
●月刊「技術と普及」平成25年3月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
(有)るシオールファーム ホームページ
滋賀県甲賀市水口町北脇1901
TEL・FAX 0748-63-8851