東北の元気なメロン大産地 最新鋭の選果機導入で「つがるブランド」の底上げはかる
2013年12月10日
新岡正市さん(青森県つがる市 JAごしょつがるメロン部会長)
青森県つがる市(旧木造(きづくり)町)と鰺ヶ沢(あじがさわ)町を中心に、メロンの一大産地があることをご存じだろうか。かつて「屏風山すいか」で名をはせた屏風山地域は、今や全国有数の露地メロン産地でもある。日本海をのぞむ海岸線に沿った砂地で育まれるメロンは、昼夜の温度差がある気候ゆえに糖度が高く香りよく、品質の良さで市場の評価が高い。
産地のある青森県西北地域は津軽平野が広がる稲作地帯で、トマトやメロン等の野菜栽培も盛ん。ただし冬季は雪に閉ざされ、強い冬型の気圧配置が続くため降雪が多く、また強い西風の影響により地吹雪が発生する地域だ。
右 :屏風山地域にある新岡さんの圃場。緩やかな斜面に広がる圃場には、日本海からの風や東からやって来るヤマセが強く吹き付けることも
露地作の高品質メロンを栽培
作業の合間に頭を上げると、岩木山が目の前にある。「自然の中、こんなにいいところで働き、おいしいメロンを作ることができて、いい仕事だ」。新岡正市さん(63)は、つがる市木造菰槌(こもつち)の出身で就農40年。就農当時はスイカ作だったが、病気が広がったためメロンを作るようになり、以来、メロン栽培ひとすじだ。露地メロン(トンネル栽培)1.5ha、小玉スイカ10a、水稲9haを作る。メロンの品種は「タカミ」を中心に、「ホームラン」「キスミー」など。
左 :収穫間近のタカミメロン
地域の作型(トンネル栽培)は、播種が2月下旬~3月中旬、定植が4月上旬~5月上旬、7月中旬から1カ月間が収穫期である。今年は4月末に、新岡さん曰く「今まで経験したことがない低温だった。異常気象だね」という春の嵐に襲われた。定植したばかりの苗が寒さに痛めつけられたが、なんとか持ちこたえ、無事収穫を迎えようとしている。
雇用は、定植や収穫などの人手が必要なときのみ。日々の管理作業は、夫婦2人で行っている。1.5haは広いが、2カ所にまとまっているので作業効率が良い。メロン作りで一番大変なことは、「トンネル張りだね、手作業だから」。栽培上、一番手間がかかるのは、交配。病害虫は、予防を徹底して被害を抑えている。鳥獣害には頭を悩まされており、カラスの被害が一番多く、次いでタヌキやネズミ、最近ではアライグマも出没している。
右 :新岡さんの「魔法の棒」。腰をかがめることなく、立ったままで、シートを傷めることなくひょいひょいと開け閉めする。毎日の作業で1万5千歩は歩くという
最新鋭の選果機でグレードアップ狙う
丹精込めて作られた新岡さんのメロンは、今年は7月19日から約1カ月間、中京・大阪市場にむけて出荷される。今年は特に、品質の評価に期待が集まっている。というのは、去る7月10日に、JAごしょつがるが新型のメロン選果機を導入し、稼働を始めたばかりだからだ。
左上 :JAごしょつがるメロン選果場 / 右下 :最新鋭のメロン選果機
この選果機により、1)充実度センサーで「体積とにがみ」を、2)内部品位装置で「糖度」を、3)画像処理装置(カメラセンサー)により、ネットの粗さや割れ等の「外観」を測定できるようになった。測定後、区分けされたメロンはラインに沿って運ばれ、自動箱詰めされる(一部手詰めラインもあり)。1日8時間の稼働で9100ケースの仕分けが可能という最先端の能力を持つ。
「センサーが充実することで、品質保証の質を高めることができ、市場からの信頼がさらに上がるでしょう。『つがるブランド』の発信と、さらなるグレードアップをねらいたい」と、JAごしょつがる木造総合支店販売指導課の片山和善さん(写真右)。品質のばらつきが減り、「高い」「低い」が揃うことで、新たな需要も期待できるという。また、従来の評価基準であるA、優、秀、特秀の上に、糖度17度以上の極上メロン「プレミアム」を新たに設定。一日に数箱しかでないという希少価値を備えた「プレミアム」メロンが、話題を呼びそうだ。
さらに驚いたのは、選果機を通ったメロン全てに通し番号がついていることで、これにより履歴をたどることができる。
メロン部会に対してJAごしょつがるでは、技術情報を逐一、迅速に発信するなど、営農に力を入れている。7月23日には「つがるブランドメロン」の出荷式を行い、名古屋地区方面でトップセールスを実施した。
伸びしろある産地率いて進む
新岡さんが部会長になって5年目のメロン部会は現在、会員170名。総面積58haで、昨年よりもわずかだが増えている。今年は約15万ケースの出荷が見込まれるが、新岡さんは「もっと増やす」と断言する。産地全体では、JA扱いは半分に満たない。まだまだ余地はある。
部会のメロンは市場で品質が高く評価され、価格も安定しているため、部会には後継者が途切れなく入ってくる。高齢の栽培者もいるが、年齢構成はバランスよく、勢いがある。部会としての結束も固く、市場からは「こういう部会はなかなかない」と言われている。新岡さん自身、後継者の息子さんがいるが「まだまだ現役でやります。あと20年は固いね」と笑う。
「仕事はきっちりするけれど、仕事だけではだめ」というのが新岡さんの持論だ。「楽しむ場も作らないと」。毎年9月には総会を兼ねた反省会を催し、なんと300人が集まって大いに盛り上がるという。「若い人にも言うんだ。楽しみがないと、とね」。本人曰く、「半年は朝から晩まで働き、半年は楽しんで過ごす」。この新岡さんをリーダーに、部会は前に進む。産地のますますの発展を見守りたい。(水越園子 2013年7月18日取材 協力:青森県西北地域県民局地域農林水産部農業普及振興室分室、ごしょつがる農業協同組合)