提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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農業経営者の横顔



農家の目指すは生産技術の向上にあり

2013年05月10日

 石川県野々市市上林の(株)ぶった農産は、昭和63年に佛田利弘さん(51)と父・孝治さんが有限会社を設立。平成13年に株式会社に組織変更し、それ以来、利弘さんが社長を務めている。
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 利弘さんは、国の農業者大学校を卒業した昭和58年春に就農。以来、生産技術を磨きながら、野々市の豊かな土地と水を生かして米を作り、農産加工にも取り組む一方、時代の変化を読み、先を見据えた農業を行っている。

 現在の経営は、約30ha借入地で水稲28ha、カブ70a、ダイコン50a、大豆10a等を作る。また、農作業請負も行い、食品加工施設も有している。スタッフは正社員5名、契約社員・パート9名。


自家用のかぶら寿しが農産加工の原点
 「自分の農産加工は6次産業化というより、農家として出発したことから派生したこと。だから『生産』が仕事です。加工や販売という、もともと生産とは対極の分野をひとつにまとめたのが6次産業化。生産の優位性こそが農家の出発点なのに、加工や販売を優先すれば生産がおろそかになりかねない。そこに違和感があります」6次産業化の話をうかがいたいと切り出すと、佛田さんはそう話し始めた。

 ぶった農産の農産加工の歴史は昭和39年にさかのぼる。農閑期の冬場に、契約栽培していた金沢青カブで自家用にかぶら寿しを作ったが、しばしば近所から「おいしいから作って」と頼まれた。昭和55年頃に「漬物」の加工も始め、当初10年ほどは、カブやダイコンの麹漬けを冬場に限り作っていた。平成5年頃からは、伝統的な野菜の漬物の通年販売も開始。やがて米加工品(餅、かきもち等)、梅干しや味噌、魚のこんか漬け(米糠と麹で漬け込む)なども生産するようになった。


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画像は「ぶった農産」提供) 


 毎日の生活の中で楽しむことができる普通の食べ物、家庭食の提供が、ぶった農産の農産加工品のコンセプト。だから、地域で当たり前に食べられてきたもの、地域の食文化に古くからなじんでいるものを扱っている。漬物で言えば、従来の風合いを残しつつ、塩分を減らし、食べやすい味、家庭の味を心がけている。「日々の営みの中から生まれ、地域の食文化ともなってきた『食』こそ大切。普通に食べることが大事なこと。だから、日常生活の中でふつうに食を楽しむことを応援していきたい」。
 加工品や米等の販売は、昭和61年に設置した直売店舗(周年営業は平成2年から)と平成8年からは会社のホームページでも行っている。価格は高めに設定してきたが、最近は少量パックで値ごろの商品も企画し、販売している。


経営に良いものは取り入れる
 ぶった農産は、顧客データ管理のデジタル化、ダイレクトメールの利用、パソコン導入とホームページの開設、宅配の利用やインターネットによる販売等、新しいシステムを早くから経営に取り入れてきた。

「今では当たり前になっている宅急便の出現は画期的でした。中間業者を介さずに、農家が直接消費者にものを送ることができるようになった。続いて平成6年の米の不作と、その後の新食糧法の成立。そしてケイタイやインターネットにより、電話番をおかなくても24時間365日、農村にいながらいつでも消費者とつながることができ、ものを売れるようになったことが、農村の農業経営を大きく変えた」と言う。


 農産加工・販売にも取り組みつつ、安全でおいしいと消費者に評価される米づくりに力を入れてきた。平成2年から特別栽培米の生産を開始。平成9年には、有機質堆肥を使った野菜の栽培を本格的に始めた。平成21年にはJGAPを取得し、北陸初のJGAP認証農場となった。

 また、国の『農の匠の継承事業』を受託した九州大学と共同で、技術の標準化にも取り組んでいる(ぶった農産ではなく、他の組織で受託)。「農作業を動画や言葉、数字で表す試みですが、改善点を見つけるプロセスでもあります」。

 働き手の雇用では、20年ほど前にリクルートの求人雑誌で求人を始め、就農フェアにも参加してきた。新規学卒者の求人を平成10年から始めている。「人を育てるのはむつかしい。定着する人を何人つくれるかは、経営改善にもかかわってくる。能力を発揮してくれれば、経営にプラスになります」「農業青年には向き合い、寄り添うことが大切と感じます。これは人づくりのコツ」。


技術の向上と開発が一番の関心事
 目下の課題は、『農業生産技術をいかに高めるか』。米の反収は今でも毎年数kgずつ上げているが、「近いうちに米価が今の半値に下がる時代が来るでしょう。kg当たり100円で作れるコメ作りが目標です。その値段で成り立つしくみ、生産技術をつくる必要がある」。

 また、「ここは平らな農地と豊かな水に恵まれている。米作が盛んですが、米だけでいいのか。水を使った農業の産業化を考えたい」と、生産技術の向上や新しい技術の開発や利用にも力を注いでいく。(水越園子 平成24年4月6日取材)
●月刊「技術と普及」平成24年7月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


(株)ぶった農産 ホームページ
石川県野々市市上林2-162-1
TEL 076(248)0760