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農業経営者の横顔



マンゴーに魅せられて、50歳から栽培に挑戦。観光農園での直売も人気

2011年08月05日


有村隆雄さん (鹿児島県指宿市 観光農園 長崎鼻フルーツ王国)


 色つややかで美しい。一目見て「おいしそう」「贈りたい」と感じる、有村さんのマンゴー。マンゴーの規格はサイズと色目、糖度だ。有村隆雄さん(66歳)の直売所では、一箱に2玉または3玉入って1kg・5000円が売れ筋である。糖度はほとんどが15度をクリアし、16度、17度は当たり前という。


  


 平成10年から始めたマンゴー栽培は、試行錯誤の末、軌道に乗り、今では収穫期にハウスに隣接して直売所を設け、果実や加工品(ソフトクリーム等)を販売。おいしさを求めて多くの人がやってくる。鹿児島県薩摩半島の南端にそびえる薩摩富士・開聞岳を臨む指宿市長崎鼻で、お土産屋を経営しながら、有村さんはマンゴー35a、パッションフルーツ15a、ドラゴンフルーツ5aを栽培している。


お土産屋経営主が「マンゴーを作る」と宣言
 仕事柄、旅行会社との契約や付き合いがあり、有村さんは、国内のみならず外国へ、同業者と一緒に何度も旅行した。訪問先では、どこへ行っても皆、果物に興味を示す。24~25人のツアー参加者が、40~50万円ものお金を一度に、果物に遣うのだ。知人がマンゴーの栽培を指宿市内で始めたこともあり、有村さんは、マンゴーに関心があった。

 平成5年、鹿児島県は8・6水害に見舞われた。観光地からは客足が遠のき、追い打ちをかけるようにバブルがはじけた。観光業の売上ダウンは深刻だった。有村さんは、幹線道路沿いに持っていた土地で、マンゴーの観光農園を始めると決めた。


技術書もなく、試行錯誤で栽培を開始
 農業に関しては、全くの素人だった。先に始めた知人には「知っていることは教えるけれど、マンゴーはむつかしいよ」と、折にふれて言われ続けた。平成8年には普及センターに「マンゴーとイチゴの栽培を始めたい」と相談に行って、「どちらもむつかしい。特にマンゴーは無理でしょう」と言われた。栽培マニュアルもなかった。

 「でも、やると決めたからね。(栽培を)始めました」と有村さんは言う。
 マンゴーの木が売りにでていたので買うつもりでいたが、融資手続きが1年遅れた間に、屋久島の人に先に買われてしまった。平成10年8月に15aのハウスが完成したので、沖縄本島に行って苗を買い集め、植えることにした。

 「10年間は大変でしたよ。教えてくれる人も、技術書もない。わかっていたのは、木を強く刈り込むと(翌年)実が成らないということだけ。無剪定なら成るとわかっていても、ハウス栽培だから、限度がある。そうするうちに枝が伸びてね。」


 鉢植えが良いと聞いたので、有村さんはマンゴーの木を、地植えではなく鉢植えにしていた。急きょ買い集めた苗にはばらつきがあり、また、地植えが慣行の沖縄の木は、接ぎ木の位置が高いため、樹高が高い。苗の出し入れのため、ハウスの入口を高くする必要があり、管理作業では脚立の上り下りを繰り返さねばならない。

 「人も苗も経営も限界。だから、思い切って強く剪定したのです。そうしたら、意外にも大丈夫だった」。その後5年かけて、樹形を作り直した。また、灌水で失敗しやすい鉢植えから、地植えへ改植も進めた。マンゴーの木の栽植密度も、当初の3分の1、10a当たり100本に減らした。


工夫して創り上げた栽培方法

 品質・収量共に安定してきた結果、「ここ3回、ようやく決算が黒字になりました」。500本の木から、6t収穫したのが今までの最高だ。有村さんは言う。「とにかく花を咲かせること。そして温度と灌水の管理が重要になる。温度と灌水のバランスがマンゴー栽培のポイントですね」


 ミツバチをハウス内に飛ばして受粉させている。今は成木で30個を目安に、良いものを残しながら、徐々に摘果していく。
 日々の作業は有村さんがひとりで行っているが、花が咲いた枝を紐で結んで上から吊る「花つり」は、35aで7万本にもなるため、臨時雇用を入れて作業する。もし夫婦二人で作業するなら、20aが適当とのこと。

 ある程度実が大きくなると、ネットをかぶせて落下を防止する。完熟して実が枝から落ちたものを収穫、出荷するからだ。また、色の付き具合を調整するため、ネットに白いトレーを入れて、実の下側も着色するようにする。アルミ箔では日焼けしすぎ、いろいろ試した結果、このトレーが一番具合が良いという。部会のメンバーにも勧めている。

 マンゴーはデリケートな果物だ。熟すためには日射が必要だが、日焼けもしやすい。そのためハウスの遮光にも気を使う。南国鹿児島は日射しが強い。快晴の日(6月下旬)には9時に、盛夏だと8時半には遮光ネットを広げないといけないという。遮光率30%のネットを使用しているが、「40%でも良いかもしれない。私は先に土産屋を開店してから来るので、9時というわけにはいきませんが」と有村さん。


1kg4000円の相場を実現。部会でK-GAPも取得

 「最初に売れたときは、本当にうれしかった。いいものを作ればお客がついてくる。そして、1kg4000円の相場を作る、と言ったんだ。それが今の相場になりました」


 有村さんはJAいぶすき熱帯くだもの部会の会長も務めている。現在、マンゴーとパッションフルーツ栽培者で18名が所属している。有村さんは最初から直売を視野に入れていたが、部会員も皆、個販中心の経営だ。有村さん自身は、農協出荷が3割で、直売には通販も含む。「以前は直売がもっと多かったけれど、今は部会長だからね」

 昨年度、鹿児島県がマンゴーのブランド産地指定を始め、指定を受けるために今年(23年)度、部会としてK-GAP(鹿児島県が認証するGAP)を取得した。有村さんはマンゴーとパッションフルーツそれぞれで、平成18年にK-GAPを果樹で初めて取得しているが、部会で認証をとったため、今年度は個人認証を継続しなかった。

 今苦労しているのは、スリップス対策。IPMも取り入れて害虫を防除し、今後も農薬をできるだけ減らしていきたいという。(水越園子 平成23年6月22日取材 協力・鹿児島県南薩地域振興局農林水産部農政普及課指宿市十二町駐在)


観光農園 長崎鼻フルーツ王国 マンゴーの森、パッションフルーツの森、ドラゴンフルーツの森 (観光農園は5~8月営業)
鹿児島県指宿市山川岡児ヶ水長崎鼻
TEL 0993-35-0300