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農業経営者の横顔



台所の力を地域の力に 主婦グループの法人化で加工場と直売所を経営

2010年10月26日

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坂元順子さん(都城市高崎町 高崎町農産加工センター事業協同組合 理事長)


産直施設の開店を機にはじまった、加工場のネットワークづくり
 宮崎県都城市高崎町は、都城盆地の北西部に位置し、清らかな水と美しい山々に囲まれた農業の町である。
 都城の市街地から30分。JR高崎新田駅にほど近い国道沿いに大牟田農産加工センターはある。地元の農畜産物と、それを利用した多様な加工品が買える直売所を供えた加工施設だ。指定管理者として、このセンターを運営するのが、加工品づくりの主婦グループで作る「高崎町農産加工センター事業協同組合」である。


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 :直売所と加工施設を供えた大牟田農産加工センター。宮崎自動車道高原インターより10分。国道221号線沿いにある
 :高崎町農産加工センター事業組合のメンバー
 


 前身は、旧高崎町時代に町営の特産品販売所ができるのをきっかけに結成された「高崎町農産加工研究開発グループ」だ。旧高崎町では、豊富な農畜産物の加工に力を入れており、町長が会長、自治会区長までまきこんだ特産品開発推進協議会もできていた。

 それぞれの集落で農産加工に取り組んだが、それぞれの加工所は、個人だったり、メンバーも数名であったり。わが家の台所の延長線上にある、小さな加工であった。
 施設は公民館や地区の集会場を利用し、イベントの際に、保健所の許可をとって販売してきた。また、販売する場所も、市内や県庁前の物販イベントなどに限られていたのである。


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 :すべて高崎町産。自信をもって掲げられている地産地消の証
 :加工センターにはためく、手作りののれん。法人化に向けて共に汗を流した都城市の産業振興課の岩下待子さんと
 


 だからこそ、主婦の知恵が生き、旬のあるものを高崎町らしく加工できる反面、安定供給や効率化には課題があった。各加工場が切磋琢磨し、協力し合える仕組みをつくり、共同で施設を使える体制をつくるために、加工場のゆるやかなネットワークである「高崎町農産加工研究開発グループ」が生まれた。直売所で出す時に品物が重ならないように...など、販売促進についても話し合い、売り上げにつなげていった。


宮崎県各地で身につけた知恵を活かす
yokogao1010_miyazaki13.jpg 平成6年に結成されたこのグループの会長に選ばれたのが、坂元順子(よりこ)さん(71歳)だ。もともと高崎町の農家の出身だが、結婚後は、転勤の多い夫と共に宮崎県内各地で暮らしていた。農山加工は転勤先で友人たちと加工グループなどを作りながら、その土地の暮らしに根ざした産品を数多く学んできたという。

 夫の定年後、高崎町に帰ってきた際には「グループに入らんね」と近所の方から声がかかり、地元の農産物を使った四季折々の加工品を作ってきた。
「高崎は宝の山なんです。畑や家のまわりだけではなく山の中にもたくさんの食材があります。そのままにしておくのはもったいない。みんなそんな気持ちだと思います。私達の先輩たちも、そうして作って食べてきましたから。」

 個々の加工場の力を合わせ、皆の知恵を出し合ってつくる新しい特産品から、地元の伝統食を活かしたメニューまで。そうしてたくさんの加工品が生まれ、販売がはじまった。
右 :坂元さんは、加工センターを拠点に、地域の食育や地産地消を推進した活動が評価され、農林水産省選定の『地産地消の仕事人』に選ばれた。第一回の選定者は全国で48名。宮崎県では坂元さんのみ


町の新たな郷土料理「北斗鍋」
 翌平成7年、阪神淡路大震災の際には、グループで「北斗鍋」5,000食を現地で振舞い、大変喜ばれた。この「北斗鍋」は、平成2年、村おこしの一貫として町内「鍋」地区で開発したもの。高崎町は環境省のおこなう星空観測で日本一星のきれいな町として認められている。そこで、北斗七星にちなんで、七種類の野菜(大根、人参、里芋、白菜、椎茸、サツマイモ、ネギ)を入れ、豚の三枚肉と一緒に、特製の味味噌で煮込んだ鍋物だ。味噌、野菜、豚肉にいたるまで、座利用はすべて地元産。人参とサツマイモは星形に型抜きされている。


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 :北斗鍋用味噌。わが町の味として親しまれている北斗鍋用のあじ味噌もヒット商品
 :野菜の産地でもある高崎町だけに、新鮮な野菜にはことかかない
 


 グループでは、北斗鍋用の味噌も商品化。加工センターの売れ筋商品になっている。また小学校への食育活動で、この鍋作りを指導にいくこともある。

「高崎の郷土料理は? と子どもたちに尋ねると『北斗鍋』と答えが返ってくるほど、地元では親しまれる味になりました。市内のイベントなどで出店しても大変人気があります」とのことだ。


合併、指定管理者制度を機に法人化へ。 後継者の育成へも
 大牟田農産加工センターは、地元高崎町の豊富な農産物と、その加工品のバリエーションから、人気を集め、都城市中心部はもとより、宮崎市などからの買い物客も多い。

 法人化のきっかけは、平成18年に都城市と合併したことから。運営が町から指定管理者に変更されるということになった。「申請手続きや事務的なことはわからないことが多く、都城市高崎総合支所、産業振興課の助言を受けながら、勉強しながら、手探りでのことでした」


 グループの会長である坂元さんが初代理事長に就任し、高崎町農産加工センター事業協同組合が大牟田農産加工センターと江平農産加工調理センターのふたつの施設の指定管理者となったのである。

 皆が好きな加工を続けられるよう、経済的にも成り立つようにとのねらいがあった。法人化した組織で、それぞれのグループで取っていた加工の許可を一括で取得することにより、個々の加工グループの負担が減る。商品の加工者名を代表者で表示するようにして、窓口を一本化。商品の信頼度も高められる。
 現在の組合員は7グループ15名。メンバーは高齢化し、後継者がいないのが悩み。しかしセンターの加工所を使い、組合員で協力すれば、センターとして加工販売もできるし、仕事も融通しあえる。
「加工場は、皆が使いたいときに使うのですが、人手が足りないときは、他のグループの人に時給を払って来てもらうこともあります。困ったときはお互いさまの精神で」と坂元さん。


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 :お総菜も多種多様。食べる人の健康を気づかって作られており、忙しい人にも喜ばれている
 :大人気ですぐに売り切れる手作りの煮染め弁当は400円。ご飯はもちろん、大釜でじっくり炊かれた煮染めは絶品
 


 若い人にも仲間に入ってほしい気持ちもあるが、子育て中で現金収入が必要という人には、食品加工だけではなかなか難しい。結果として、ある程度子どもから手が離れた人、定年後の生きがいで、という人が多いのだという。メンバーの平均年齢は66歳だ。最近も86歳の加工名人が、高齢を理由にやめてしまった。

 しかし新メンバーの加入こそないが、組合員の間で「味の伝承」は行われている。「私は歳をとって、もうこれは作らないから、あんた作ってみやいよ。私が教えるから」と、製法を教え、若い世代に販売してもらう人も出てきた。

「私が理事長と言っても、ああしなさい、こうしなさいとは言ってないんです。加工が好きな人の集まりだから、みんなが自由にやるなかで、役割分担もして、仕事も融通し合ってというのがいいみたい。一度ひとつにまとめようとしたこともあるけれど、うまくいかなかったから、すぐ『解散』って、元に戻しました(笑)」

 坂元理事長は、それぞれのメンバー、加工場の個性を尊重し、見守りつつ、その力を引き出していく縁の下の力持ちのように思えた。


地元産が一番使いやすい。 添加物の入れ道がわからん!
yokogao1010_miyazaki9.jpg 大牟田農山加工センターの加工品は、地元産の材料にこだわる無添加のもの。加工組合のメンバーは「ここにあるものを使って心を込めてつくっているだけ。添加物なんて入れ道もわからんし」と、笑う。加工場も直売所も笑い声が絶えず、お客さんとの会話も弾む。「ここは売って儲けるだけの場所じゃない。みんなが元気をもらえる場所。私もここに来ると疲れていても元気がでる」と坂元さん。
右 :寿司飯や混ぜの具「まぜっみろっかい」を作る高崎町女性林研グループの大村清子さん。「具は全部手切りです。そうじゃないとおいしくないから」


 毎月、さまざまなイベントをおこない、地域の元気を発信しているのも特長だ。
1月の新春イベントでは、北斗鍋やおにぎりを振る舞い、加工品の詰め合わせ福袋を販売。2月のいちごまつりは、町内のイチゴ生産者とJAとの共催で開催される、大人気の催しだ。いちごの直売をはじめ、イチゴを使ったケーキやお菓子を多数販売。抽選会もおこなう。どのブースにも長蛇の列ができる。8月、12月のしいたけ祭りは、生産者自ら直売、しいたけの総菜も豊富に並ぶ。11月の米まつりは、新米を使ったいなり、巻き寿司、おこわ、餅などご飯ものの祭典だ。


 お中元、お歳暮のセットは、ふるさとを離れた方々への贈り物として毎年人気がある。「1,000円でも2,000円でも、金額や要望に合わせて加工品を詰め合わせて贈るシステムも喜ばれていて、リピーターが多いんですよ」とセンターのスタッフは胸を張る。


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 :しいたけを使った様々な加工品。「ダイエット君」など商品名も楽しい
 :今では作る人が少なくなった昔ながらの「米あめ」もここでは健在
 


「明日は法事のお弁当が30入ったからね。朝、忙しくなるよ」
「お正月前の餅の注文が多くて、寝られなくなるくらいなんですよ」
 小さな加工場、小さな台所が集まって、加工センターはいつの間にか、地域の食を支える大きな台所になっていた。

 加工組合では、味噌や手打ち蕎麦、豆腐、ピザやクッキーなどの調理を体験できる施設も運営しており、メンバーとみんなで学校への食育の指導も積極的におこなっている。
「高齢化しているといっても、好きな加工を続けているうちはまだまだ元気。子どもたちへ、地産地消の大切さや、地元の食の豊かさを教えることも、大事な後継者の育成だと思っています」(森千鶴子 2010年9月27日取材 協力:宮崎県農政水産部営農支援課)


ふれあい大牟田農産加工センター
■営業 9:00~18:00
■休日 年始(1月1日~3日)
〒889-4505
宮崎県都城市高崎町大牟田856-8
TEL :0986-62-5016