産業廃棄処理会社が農業に参入、果樹園を地域の観光資源に育てたい
2009年04月08日
鹿児島では栽培が難しい果樹を育てたい。こう思いついたのは、産業廃棄物処理会社のオーナーだった。霧島連山を臨む、鹿児島県霧島市にある株式会社「さくら農園」(代表取締役下田勝さん)は、鹿児島市内にある産業廃棄物処理会社の一グループとして、平成16年に設立された。
ここでは、キンカンをはじめ、ザクロやブドウ、そして、南国で育てるのは難しいとされるリンゴまで栽培している。「ブドウ狩りやバーベキューなどで人が集まる農園にしたい」と話す、主任の瀬戸口光広さん(46)に話をうかがった。
新しい果樹に挑戦し、珍しい品種のブドウ狩りを実現
標高200メートル。多くの果樹園が集まる春山地区に土地を購入したのは、5年前のことだった。「農業をやるんだったら、鹿児島では栽培できないような果樹をやってみたい」とオーナーが発案。その呼び掛けに応じたのが、農業経験者である瀬戸口さんだった。同県鹿屋市出身の瀬戸口さんは、もともと実家で米やメロンなどを作っていたという。また、土木建築会社での経験から、造成作業もできた。
会社から機械を借り、荒廃した土地を圃場に復元。20ヘクタールの地にハウスを作り、種無しのキンカンとザクロを植えた。さらに、ブドウ、リンゴ、サクランボ、レモンなど次々と新たな果樹に挑戦していった。
しかし、簡単にはいかなかった。種無しキンカン「プチマル」は、実の付きがあまり良くなかった。「花が咲いても実付きが悪いので、農家でもあまり作りたがらない品種。実際、苦労した」。せん定したり、肥料を調整したりして、現在も研究を重ねている。
種無しザクロも同じだ。5年目の現在でも納得のいく収穫には至っていない。「甘さもあるし、見た目もきれい。何とか形にしたいのだが...」と発展途上の状態だ。
そんな中で、思いがけない成果が得られた果樹もある。栽培本数350本のブドウだ。藤稔やマスカットオブアレキサンドリアなど、鹿児島ではあまり作られない品種に挑んだ。それが昨年、うまく実をつけたのだ。7月下旬ごろから、多くの観光客が同園を訪れたという。ブドウ狩りを楽しんだ観光客からの注文もあった。また、地元の人たちに収穫作業を依頼するなどして、地域の雇用にも力を入れている。
糖度センサー選別機を導入し、東京へ出荷
「いかに質を良くして販売先を見つけるか」。設立して5年。同園は岐路に立たされている。糖度センサー選別機を昨年11月に導入したのも、こうした思惑があるからだ。
最新鋭の選別機は、糖度や大きさなどで16種類に選別できる。また、パソコン画面で表面積などを確認することもできる。こうして選別されたキンカンの糖度を、箱にしっかりと表示する。そうすることで出荷もしやすくなったという。本年度は、東京に出荷することができた。
収入の安定につなげている一方で、納得のいく収穫ができていないものも、いくつかある。鹿児島であまり作られていない品種を栽培しているだけに、ハードルは高い。「そろそろ品目をしぼる時期に来ているのかもしれない」と感じているという。
独自の販売ルートを模索し描く、果樹園の未来図
その上で新たな構想も持っている。「ブドウを取って楽しむだけではなく、そこでバーベキューができ、結婚式ができるといった、人の集う場を作りたい」。そこには、多くの観光客が集うことで、近隣の農園や果樹園にも足を運んでもらいたい、という願いも込められている。
「最初から利益を出そうと考えていたら、農業はできない」。農業の大変さが分かっていただけに、瀬戸口さんは現在の状況をこう説明した。「まずは、納得のいく収穫が得られること」。そのために、各果樹の専門家から情報を得て、品質のアップにつなげている。「将来的には果樹ごとに担当者を設けたい」と話す。
少しずつ関係が深まってきているが、地域の人たちとも、もっと関わっていきたいと感じている。霧島神宮や温泉などが近くにあり、観光ソースは十分だ。「市場に出荷するだけでは、経営は厳しくなるだろう。あらゆる方法を探っていかないと」とホームページを作成し、農園のPRに役立てていく方向だ。
5年前に植えた"多くの人の集まる種"が、少しずつ芽を出し始めている。その芽がどのように育つのか。今がまさに大事な時期だ。(杉本 実季 2009年3月24日取材)
●さくら農園 ホームページはこちらから
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)