提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


野菜

施薬機を利用したながいも根腐病の効率的薬剤処理技術の開発(令和4年度 青森県)

背景と取組のねらい

 青森県のながいも栽培では、根腐病の耕種的防除対策として輪作体系を推進している。
 経営の都合上、連作や病害の既発生ほ場に作付せざるを得ない場合、被害軽減のため、やむを得ずクロルピクリンくん蒸剤による土壌消毒を実施しているが、有毒等の理由からポリマルチ等による被覆が必須で、多くの労力を要することから、省力的で環境にやさしい防除技術の確立が求められている。
 ユニフォーム粒剤は、ながいも根腐病に対して高い防除効果を持つが、作条土壌混和処理が必要で、トレンチャー耕(ホイール式、チェーン式)を要するながいも栽培において作業効率が悪く、普及の妨げとなっている。
 そこで、方式の異なるトレンチャー耕と施薬機の同時作業による防除効果及び、省力効果を検討することとした。

実証調査場所

(地独)青森県産業技術センター野菜研究所ほ場(厚層多腐植質黒ボク土)

試験方法等

●耕種概要
(1)供試作物:ながいも「新世紀」
(2)植付日: 5月24日
(3)収穫日:10月17日
(4)栽植様式:
    畝間(チェーントレンチャー:120cm、ホイールトレンチャー:130cm)
    株間24cm
(5)その他、一般管理は野菜研慣行

●試験区の構成
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(1)慣行区のクロルピクリン処理は、4月18日トレンチャー耕、4月25日薬剤処理・被覆、5月16日除覆。
(2)実証区1~3及び無処理区のトレンチャー耕は5月19日、実証区のユニフォーム粒剤の処理は、トレンチャー耕と同時に実施。

●試験区の概要
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●病原菌接種
 全ての試験区(慣行区:4月18日、その他の区:5月19日)で、大麦粒にて培養したヤマノイモ根腐病菌(Rhizoctonia solani AG2-2 Ⅲ-B:十勝農試分離株)を、1m当たり20g作条に散布し、トレンチャー耕にて土壌混合した。

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●作業時間
 トレンチャー耕の作業時間は土壌条件で大きく変わることから、比較を単純化するため、ここではチェーン式・ホイール式共に速度0.2km/hで計算した(いずれも2連トレンチャー)。
 クロルピクリン処理、手散布によるユニフォーム粒剤処理の作業時間はそれぞれを計測した。

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●発病調査
 ながいも栽培区画(1区画2畝)のうち75株(1か所当たり連続25株で3か所)のいもをサンプリングした。
 以下の根腐病調査基準により発病指数別株数を調査し、発病株率、発病度を算出した。防除価は、発病度の平均値より算出した。

指数0:発病を認めない。指数1:小型病斑が1~2個。指数2:病斑が数個以上。指数3:病斑がいも全体にある。
指数4:腐敗による著しい奇形または腐敗・枯死。
発病度=∑(程度別発病株数×指数)×100/(調査株数×4)

供試機械

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○薬剤散布機 (タイショー KX-15-1)※2台装着
 ・ホッパー容量:15L(1台当たり)
 ・標準散布量:10~15kg/10a(1台当たり)
○装着トラクタ (クボタ M110GE)

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●散布諸元
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チェーントレンチャー(左)とホイールトレンチャー(右)

成果

 ユニフォーム粒剤を施薬機によりトレンチャー耕と同時処理する方法は、慣行(クロルピクリン処理)と比べて作業時間が短縮し、防除効果は同等であった。

●作業時間
 ユニフォーム粒剤を施薬機によりトレンチャー耕と同時処理する方法は、慣行(クロルピクリン処理)と比べ作業時間が短縮し、慣行比42となった。手散布はそれよりやや多く、慣行比53となった。
 また、慣行区では薬剤処理後に被覆資材で被覆する期間やガス抜き期間の確保が必要であるが、ユニフォーム粒剤処理ではこれらが不要となるため、作業に要する期間も3週間程度短縮された。このことは、植付作業の遅れ回避に寄与すると期待される。

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作業時間(10a当たり)


●防除効果
 無処理区での発病度は連制Ⅰで68.4(多発生)、連制Ⅱで20.6(少発生)、平均44.5となった状況の中で、慣行区および実証区1~3の発病度は0~6.6と、いずれもかなり低く抑えられた。
 防除価は、慣行区90.6に対し実証区1~3は94.2~96.4と同程度の効果であり、無処理区と比較して、慣行区、実証区とも効果は高かった。トレンチャーの方式、薬量の違いによる効果の差は認められなかった。

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根腐病に対する防除効果


根腐病発病調査
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実証区1(左) 実証区2(右)の収穫物

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実証区3(左) 慣行(右)の収穫物

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無処理区の収穫物


●コスト比較
 施薬機によるユニフォーム処理では、クロピク処理と比べ薬剤費がやや高くなるものの、人件費が低く、また被覆資材費、廃プラ処理が不要となるため、処理コスト合計では14,584円低くなった。

コスト比較(10a当たり)
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●施薬機の評価
 今回は、試験区によりトレンチャーの付け替えが必要だったため、トラクタ前部に施薬機を設置した。処理後の粒剤をタイヤで踏みつけた後にトレンチャー耕を行う形となったが、問題なく植溝に粒剤を土壌混和することができた。

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benri_movie1.jpg(クリックで動画再生)

 現地で導入する際は、トラクタにフロントローダーを装着している生産者が多いことや、薬剤をタイヤで踏みたくないとの考えなどから、トラクタ後部への設置が多くなると思われる。この場合、トレンチャーの直前での処理となり、精度は、より高くなると考えられる。
 施薬機の設置には、生産者の使用農機に応じた取付金具がいるため、販売店と相談が必要である。
 使用の際は、粒剤の10a当たりの使用量とトラクタの車速等から施薬機の散布量を計算する必要がある。散布量の調整はコントローラーで簡単に行うことができる。

今後の課題と展望

 輪作の推進とともに施薬機を利用したユニフォーム粒剤の導入により、クロルピクリン使用量の削減を図る。

利用上の留意点

●耐性菌発生を防ぐため、前年に同剤を使用した圃場での連続使用は避けること。
●極度に発病が多い圃場等条件によっては、十分に薬剤の効果が発揮できない場合もある。
●ユニフォーム粒剤は、クロルピクリン剤の効果全てを代替えできるわけではないので、クロルピクリン剤使用時とは異なる雑草対策や施肥設計が必要となる。


実証年度及び担当組織名
(令和4年度 地方独立行政法人青森県産業技術センター野菜研究所、青森県農林水産部農林水産政策課)