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全国農業システム化研究会|提案一覧


野菜

バレイショの機械化安定生産技術開発【展張回収機】(鹿児島県 令和3年度)

背景と目標

 加工用バレイショ栽培においては、春先の降霜、低温害による生育遅延や強風での地上部折損による低収が、喫緊の課題となっている。
 また、秋冬期の露地野菜(レタス等)栽培において、不織布べたがけ栽培は作期拡大による高単価出荷や出荷回数の増加が期待できる。現在手作業で行っている当技術を大規模経営に対応した機械化技術として確立する必要がある。
 そこで、大隅支場で開発した不織布被覆、巻取兼用の試作機をベースに、カワサキ機工が実用機として試作開発した展張・巻取機について検証し、露地野菜の機械化作業の推進を図ることとした。

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供試機

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台車型不織布被覆・巻取機。正面(左)と側面(右)

 台車型不織布被覆・巻取機(以下作業機)は不織布の被覆・巻取の兼用作業機。巻取機構は、バッテリ電源による電動モータで油圧ポンプを駆動し,油圧モータで、芯棒を回転させて資材を巻き取る仕様であり、低速でも巻き取りに必要な駆動力が得られる。

 作業時の寸法は以下の通り。
全長 1,630mm
全幅 2,732mm
全高 1,345mm
質量 86.9kg
被覆資材適応幅 ~2,100mm

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展張作業(左)と回収作業(右)

試験の概要

 レタス作式想定の平畝(畝幅150cm、畝裾幅120cm)とバレイショ作式想定の畝(畝幅90cm、2条)への作型適応性及び作業機の適応性について、検討を行った。

 供試した展張回収機は、輪距120~180cmまで調整可能である。 レタス作型想定の平畝へは輪距を150cmに調節し、180cm幅の被覆資材を供試した。また、バレイショ作式想定の90cm畝は2畝同時展張を行うよう、輪距を180cmに調節し、210cmの被覆資材を供試した。

 供試した資材はパオパオ90とパスライトで、200m巻を100mに切断し、230cmの塩ビ製パイプに巻き付けたものを用意し、展張作業及び回収作業を行った。
 また、バッテリの消耗調査による適正使用面積の把握も行った。。


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図1 バレイショ(左)とレタス(右)の作式

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図2 能率試験の概要

結果

1.展張作業
 展張回収機は、輪距を120~180cnに調整する事で、レタス作式(畝幅150cmの平畝)とバレイショ作式(畝幅90cmの2畝同時展張)ともに、問題なく進入する事ができた。
 供試した資材はパオパオ90とパスライトで、資材幅は180cmと210cm。
 展張作業は2名で、作業機を人力で押し資材を展張する。その際、駆動軸と資材を巻くパイプとを固定せず空転させることで、軽い力で作業機を操作できる。

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固定部品でパイプと駆動軸を固定した状態

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左 :固定なし。押し出し抵抗が軽く、作業性が向上
右 :固定あり。押し出し抵抗があり、作業負担が大きい


 作業時間はレタス作型で35~36分/10a(延べ70~73分/10a)、バレイショ作型で26~27分/10a(延べ54~55分/10a)で、人力対倍比0.6~0.9倍であった(表1、図3)

表1 展張作業時間の比較
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図3 展張作業の作業能率

2.回収作業
 回収作業は2名で、作業者は資材を固定したピンを抜きながら作業機の操作を行い、資材を巻き取った。
 作業速度が上がると、巻きムラが発生し資材が作業機へ干渉するため、210cm幅の資材はフランジ(軸の両端に取り付けた円盤状のつば)を装着し、本機に干渉しない対策を講じる必要がある(表2)

表2 巻き取り精度調査
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能率優先巻き取りは巻きムラが大きい(25~52cm)。フランジの装着の巻きムラは21cmレタス作型(210cm資材使用)ではフランジ装着による巻きムラ防止対策が必要

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装着したフランジ

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左 :作業精度優先(作業速度0.15~0.18m/秒)留め具回収時に作業機を止める
右 :作業能率優先(作業速度0.22~0.31m/秒)作業機を止めずに留め具を回収


 作業時間は、レタス作型が75~76分/10a(延べ151~152分/10a)。バレイショ作型は65~68分/10a(延べ131~138分/10a)で、人力対倍比1.5~1.8倍であった(表3)。

表3 回収作業(精度優先)の時間比較
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図4 回収作業の作業能率

 精度優先作業と能率優先作業の巻き取り時間も比較。能率優先作業には、フランジを装着した。
 精度優先作業は10aあたり68分、能率優先作業では46分となった。
 作業中は資材の巻き込みもなく、スパイクの回収等の作業に集中できるため、作業を停止することはなかった(表4、図5)

表4 精度優先と能率優先の作業時間
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図5 精度優先と能率優先の回収作業の作業能率

3.バッテリの消耗調査
 稼働7分(巻き取り時間を想定)、停止5分(巻き取った資材の回収を想定)を交互に繰り返し、バッテリの消耗程度を調査した。
 結果、10回を超えると巻き取り精度が落ちることが分かった。
 安定した作業を考慮すると、作業は10回で充電する事が望ましい。
 1回分の回収作業を作業幅2m、畝長を100mと仮定すると、1回の回収作業で2aの作業量であることから、10回では20aと換算できる(図6)

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図6 バッテリの消耗試験

今後の課題と展望

現地適応性及び経済性評価

●実証年度及び担当指導普及センター:
令和3年度 鹿児島県農業開発総合センター大隅支場農機研究室