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全国農業システム化研究会|提案一覧


野菜

夏秋どりイチゴにおける環境モニタリングシステム活用方法の検討(長野県 令和3年度)

背景と取組のねらい

 長野県南佐久地域では、標高約1,000m以上という冷涼な気候を活かして夏秋どりイチゴの生産が行われており、県内での産地の一つになっている。しかし、近年は異常気象やうどんこ病等の難防除病害虫が発生し、収量や品質が低下している事例がある。また、環境モニタリング機器の導入は各地で進んでいるものの、得られた値をどのように活用するか等、機器導入後の活用方法については、多くの課題が山積している。
 そこで、環境モニタリングシステムによるデータを活用し、感染リスク予測に基づいたうどんこ病防除を行うことや、モニタリングして得られた値を栽培管理に活かすことにより、効果的かつ省力化による生産性の高い農業経営の実現を目指す。また、当地域では、環境モニタリングシステムの導入事例がないため、装置のデータを活用したハウスの環境制御や防除技術の実証に取り組み、地域での導入提案・普及推進を図る(令和2年からの継続)。

対象場所

●長野県南佐久郡川上村、南牧村、南相木村

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 長野県の東部に位置する南佐久地域は、農地の多くが標高1000m以上という高標高地帯にあり、夏場の冷涼な気候を活かしたレタスやハクサイなど葉洋菜類の生産が盛んであり、長野県の野菜生産額の約3割である280億を担う野菜産地である。また、平成13年からは夏場の冷涼な気候を好む夏秋どりイチゴの栽培が開始され、現在、栽培面積約5ha、生産量170t、栽培戸数24戸となり、県内でも有数の産地となっている。

実証した栽培体系


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耕種概要

●各区の概要
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●供試機械
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基本セット (左から温湿度センサー、COセンサー、日照センサー、通信機)

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設置状況

●管理画面
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●主な栽培基準
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r3sys_naganoichigo_A.jpgr3sys_naganoichigo_B.jpgr3sys_naganoichigo_C.jpg
左から A氏ハウス、B氏ハウス、C氏ハウス

●昨年度(令和2年)のうどんこ病発生状況及び試験内容・結果
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●A氏、B氏の作業体系
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●C氏の作業体系
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成果

●A氏
 実証区では慣行区(昨年実績)よりも収量が14.1%増加した。月別の収量では、10月以降に実証区が慣行区を上回っていることが確認できる。慣行区(昨年実績)では、発病が拡大した昨年9月以降はひどく罹病した葉を摘葉したことにより、収量が低下したと考えられる。このことから、うどんこ病の発病抑制・被害果減少により収量が向上したと考えられる。

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感染リスク予測を活用した防除(A氏)
例年うどんこ病が問題となっていたが、感染リスクが高い時期(日感染リスクが1を超えるような時期)に重点防除を行うことによって、慣行区(昨年実績)と比べ、うどんこ病の発病を大幅に抑えることができた。また、このことにより9月以降の防除回数の削減にもつながった。

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月別収量(左)と全体収量(右)(A氏)

●B氏
 実証内容が収量に影響しなかった。実証区の収量は慣行区(昨年実績)とほぼ同等であったことから、農薬散布回数を削減しても問題なかった。

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感染リスク予測を活用した防除(B氏)
感染リスクが低い時期に防除を実施しないことで、実証区では慣行区(昨年実績)よりも3回程度うどんこ病の防除回数を削減することができた。

●C氏
 慣行区よりも実証区①では31.1%、実証区②では58.8%それぞれ収量が向上した。また、月別の収量では、9月~12月の収穫期後半の落ち込みが実証区では少なく、生育中期までのCO施用と栽培管理により、草勢が維持できたことで、収穫期後半の収量が向上したと考えられる。

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測定値(CO)を参考にした環境制御(C氏)

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月別収量の推移(C氏)
実証区① 定植約60日後~生育中期までCO施用。給液ECを0.65mS/cmに設定
実証区② 定植約30日後~生育中期までCO施用。給液ECを0.8mS/cmに設定
慣行区(昨年度実績) CO施用なし。給液ECを0.65mS/cmに設定

●まとめ
1.例年うどんこ病が問題となっていた生産者ほ場では、感染リスクが高い時期に重点防除を行うことによって、実証区では慣行区(昨年実績)と比べ、うどんこ病の発病を大幅に抑えることができ、後半の防除削減にも効果が見られた。また、うどんこ病の発病抑制に加えて、Plantectの環境測定値を用いた総合的な栽培管理によって、単収が実証区で14.1%増加した。
 うどんこ病の発生がほとんどない生産者では、感染リスクが低い時期に防除を実施しないことで、実証区では慣行区(昨年実績)よりも3回程度うどんこ病の防除回数を削減することができた。

2.Plantectの環境モニタリングにより、定植後のCO濃度が外気よりも低下していることが確認できた生産者では、定植30日後からCO施用に合わせて高EC管理を行うという栽培管理を行ったところ、実証区では収量が増加し、収穫期後半の収量の落ち込みが少なかった。

3.経済性の試算を行った結果、経営規模が大きく、機器の導入によって単収の向上が図られた生産者では、機能を活用した栽培管理を行うことで所得を向上させることができると考えられた。一方で、経営規模が大きくない生産者では、Plantectの導入コストがかさみ、所得が低下することが試算された。

当該技術を導入した場合の経営的効果

 経営規模が大きいA氏(40a)、C氏(50a)は、増収による所得向上が確認でき、経営的効果があると考えられた。一方、経営規模が10aのB氏は、防除回数の削減はできたものの、防除回数の削減による経費削減よりも、Plantect導入に関わる経費が上回り、経営的効果を確認することはできなかった。
 このことから、導入する農家の経営規模や活用方法を勘案して、導入を進めていく必要があると考えられた。

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今後の課題と展望

 今回の実証を通して、経営的効果が確認できる経営規模が把握でき、当地域の夏秋どりイチゴ栽培における環境モニタリングシステムの活用事例を示すことができた。
 今後は、環境モニタリングシステムの普及を図ると同時に、導入した生産者に合わせた機器の使い方を提案していく必要がある。
 また、測定項目に応じた環境制御や栽培管理のアドバイス等、普及指導が果たすべき役割も大きくなってきていると考えられる。

(令和3年度 長野県農政部農業技術課、長野県佐久農業農村支援センター小海支所)