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野菜

サトイモ機械化体系の確立~GSトラクタによる肥料散布作業、畝立作業、掘り取り作業適応性試験~(鹿児島県 令和2年度)

背景と取組のねらい

 サトイモの栽培面積は、1980年の32,000haをピークに減少し続け、近年は12,000ha程度で推移している。
 生産の減少は、食生活の多様化や輸入物の増加による単価下落などが理由としてあげられるが、単価下落に見合う機械化や省力化技術開発が遅れていたことも一因と考えられる。
 現在は、植付けなどの基幹作業のほとんどが機械化できる段階になっているが、急速な労働力不足に対応するには、ボトルネック作業のさらなる省力化やスマート農機等の導入による新たな機械化体系の構築が重要である。
 そこで、作業時の直進アシスト機能を備えたGSトラクタによる肥料散布作業、畝立作業、掘り取り作業適応性試験を実施し、主要作業への適応性の検討を行った。

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サトイモの慣行栽培(左)と湛水栽培(右)

試験内容

1)供試品種 石川早生丸
2)栽培条件 畝幅1.1m マルチ栽培 植付日2020年4月6日 
3)試験期日 畝立作業試験:2020年4月6日
       掘取作業試験:2020年11月2日
4)調査項目 作業能率、作業精度、その他

試験の概要

 オペレータの運転操作を軽減する直進アシスト機能を有したGSトラクタ(SL540GS)を使用し、サトイモ主要作業への適応性について検討した。

(1)肥料散布作業
 植え付け前の肥料散布は、ライムソワによる全面散布により高速・高能率作業が可能であるが、散布時の走行経路の設定や選択がオペレータの負担となっている。走行経路がランダムになると、散布ムラが生じ、散布濃度の濃淡が生じる。
 そこでトラクタ(SL540GS)の走行経路ガイダンスを用いた散布法について検証した。

(2)畝立作業
 畝立て作業の良否は、栽培期間中の生育やその後の機械作業すべてに影響することから、等間隔で真っ直ぐな畝が望ましい。
 そこで、トラクタ(SL540GS)の走行経路ガイダンスを用いた畝立について検証した。

(3)掘り取り作業
 サトイモの収穫は、掘り取り作業にトラクタアタッチ型のディガ-を用いることが多い。
 そこで、トラクタ(SL350GS)とエレベータ式ディガ-を用いた掘り取り適応性について検証した。
 ※前年度(2019年度)は小型クラストラクタ(NB21GS)を用いて、同種の試験を実施している。

結果

(1)GSトラクタの肥料散布作業への適応性
 GSトラクタ(SL540GS)とライムソワ(有効散布幅2.0m)を用いた肥料散布作業能率は、0.2h/10a程度で、作業速度は4.7km/hと、高速作業が可能であった。
 また、達観ではあるが、走行経路のガイダンス機能によりオペレータの後方視認回数も少なく、操作上の負担は大きく軽減されていると推察された(表1)
 さらに、工程間の重ね散布が少ないことが観察された。このことは、均一散布精度の向上が図られているものと思われ、次年度以降に試験手法含めて、客観的な評価を検討したい(表1)

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GSトラクタ(SL540)による肥料散布作業
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表1 GSトラクタによる肥料散布作業能率
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(2)GSトラクタの畝立作業への適応性
 畝立て作業に、二畝立マルチャ(畝幅1.1m)と39.7kW(54PS)級のトラクタ(SL540GS)を適用した場合の作業能率は、GSガイダンス機能の利用の有無に係わらず0.5h/10a程度で、作業能率面での差はなかった(表2)

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GSトラクタ(SL540)による畝立作業
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表2 GSトラクタによるサトイモ畝立作業能率
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 しかし、GSガイダンス機能を活用した場合、畝立工程間隔の変動(以下「ズレ」と記す)が最大6cm平均3.3cmで、当機能を活用しなかった場合は最大12.2cmで、平均7.4cmと比べ、作業精度の向上が確認された(表3)

GSトラクタ(SL540)による畝立工程間隔の変動(ズレ)
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表3 GSトラクタによるサトイモ畝立作業時の工程間隔
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●旋回後の位置合わせについて、
・ON作業は「旋回ガイダンス機能」を使用。OFF作業(手動)は、目視。
・ON作業、OFF作業ともに同じオペレータが作業。オペレータ経験7年。運転操作は上位クラス。
・GS機能ON作業時の作業条件:作業中のGPS測位レベルは、緑(安定)または黄色(安定しているが、直進精度が悪化する可能性がある)。直進アシスト感度は、標準(―2~2の5段階のうち0)。



(3)GSトラクタの掘り取り作業への適応性
 掘り取り作業に、掘り取り幅65cmのコンベア式ディガーと25.7kW(35PS)級のトラクタ(SL350GS)を適用した場合の作業能率は、GSガイダンス機能の利用の有無に係わらず0.6h/10a程度で、作業能率面での差はなかった。
 しかし、作業中の後方視認回数が半減しており、オペレータの負担が軽減されていることが推察される(表4)。
 なお前年度(2019年度)は、15kW(20PS)級のトラクタ(NB20GS)で適応性を検討し、作業能率は1.1h/10a程度であった。

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GSトラクタ(SL350)による掘取作業
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表4 GSトラクタによるサトイモ掘り取り作業能率
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 以上の結果から、大幅な省力効果は期待されないものの、サトイモ栽培へのGS系トラクタの利用は、
①肥料散布時の散布経路ガイダンスによるオペレータ負担軽減や散布精度の大幅向上、
②畝立て作業時の直線畝立て精度の向上、
③掘り取り作業時のオペレータ操作の負担軽減
などの効果が期待でき、他品目も含めて、引き続き利用法の検証に努めることとする。

(令和2年度 鹿児島県農業開発総合センター大隅支場農機研究室)