提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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ピーマン栽培において問題となっているアザミウマ類、コナジラミ類等の防除対策として、茨城県鹿島南部地域では「スワルスキーカブリダニ(以下スワルスキー)」と「タイリクヒメハナカメムシ(以下タイリク)」の組み合わせによる天敵昆虫の利用が進んでいる。しかし、促成作型(9月定植、10月~翌6月収穫)においては、低温期のタイリクの定着が不安定なことからアザミウマ類への対処が難しく、天敵昆虫の利用が進んでいなかった。
そこで、促成作型に適した天敵利用技術を確立するため、比較的低温に強いとされる新資材「リモニカスカブリダニ(以下リモニカ)」の実証試験を行った。
茨城県南東部に位置する鹿嶋市・神栖市(旧神栖町・旧波崎町)は太平洋に面した海洋性の比較的温暖な地域である。また、鹿島臨海工業地帯が広がる工業が盛んな地域であるが、農業では、戦後まもなく導入されたピーマンを中心に施設園芸が盛んである。
ピーマンは栽培面積、約450haと全国1位の産地を形成し、地域の基幹作物となっている。産地では消費者に安全・安心のピーマンを提供するため、天敵昆虫を中心としたIPM技術の導入を推進してきた。
・天敵(リモニカ、スワルスキー、タイリク)及び、病害虫(コナジラミ類、アザミウマ類)の害虫の発生状況、害虫(ミナミキイロアザミウマ)による被害状況を14日間隔で調査。
発生状況は、各区30株、1株当たり3葉(リモニカ、スワルスキー、コナジラミ類)、3花(タイリク、アザミウマ類)の虫数を調査
被害状況は、各区30株、葉は生長点付近、果実は全果実について被害の有無を調査。
・農薬費及び労働費から防除経費を算出した。
●天敵(リモニカ、スワルスキー、タイリク)及び害虫(コナジラミ類、アザミウマ類)の発生状況の推移
(1)実証区
・リモニカは10月下旬から急激に増加し、12月上旬まで高い密度で推移した。その後、少なく推移していたが、コナジラミ類、アザミウマ類の増加に伴い3月下旬以降再び増加した。
・コナジラミ類は調査開始当初から発生が確認されたが、薬剤散布とリモニカの増加により減少し、その後は3月にやや増加した以外は少なく推移した。
・アザミウマ類は5月上旬までほとんど確認されていなかったが、4月上旬から徐々に増加して5月下旬には急増した。しかし、リモニカの増加に伴い、6月下旬には減少に転じた。
図1 天敵及び害虫の推移(実証区) グラフ中の↓は薬剤散布
※コナジラミ類及びアザミウマ類は幼虫と成虫の合計値
(2)慣行区
・スワルスキーは11月から12月にかけてやや増加したが、それ以外の時期は概ね2~3頭/葉で推移した。タイリクは3月下旬まで若干確認されたものの、4月以降は確認されなかった。
・コナジラミ類はほとんど発生せず、アザミウマ類は発生が多く、3月以降急激に増加し、薬剤散布を実施したが、高い密度で推移した。また、5月下旬に黄化えそ病が発生したため収穫を実証区よりも1か月早く切り上げた。
図2 天敵及び害虫の推移(慣行区) グラフ中の↓は薬剤散布
※コナジラミ類、アザミウマ類及びタイリクは、幼虫と成虫の合計値
●ミナミキイロアザミウマによる葉及び果実の被害状況の推移
図3 ミナミキイロアザミウマによる葉、果実被害の発生推移
・実証区では、ミナミキイロアザミウマによる被害はほとんど確認されなかったが、慣行区では、12月下旬から葉で、2月上旬から果実での被害が増え始め、最終的にはいずれも被害株率は約80%になった。
●防除経費の比較
・実証区の天敵にかかる農薬費は、慣行区と比較して約15%削減出来た。また、殺虫剤についても約46%削減出来た。
・実証区の労働費は、慣行区と比較して約44%削減出来た。
・農薬費、労働費を合わせた実証区の防除経費は、慣行区と比較して約27%削減できた。
表1 防除経費(円/10a)