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全国農業システム化研究会|提案一覧


大豆・麦

大麦の一括肥料脱却による低コスト栽培の実証~ドローンを活用した省力的な施肥方法の確立~(福井県 令和4年度)

背景と目標

 福井県における大麦作付面積5,000haのうち、ほぼすべてのほ場で一括肥料を用いた生産がおこなわれているが、近年の暖冬によって、分げつ期の生育量が旺盛となる場合に、越冬後の追肥が必要となる場面が多くなっている。また、肥料価格の高騰により農業者への負担が拡大しており、施肥量の適正化等による肥料費の削減技術が求められている。そのため、大規模経営者を中心に一括肥料から分施体系への転換に対する意識が高まっている。
 そこで、ドローンによる省力的な施肥散布を実証し、スマート農業技術による経営改善効果について、検証をおこなうこととした。

対象場所

●福井県坂井市丸岡町
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 坂井市丸岡町末政地区は、福井県の北部に位置する坂井平野東端の中山間地域である。昭和50年ごろに実施された区画整理により、多くの水田は30aに区画整理されている。
 暗渠は施されていないが、下層土に礫が多く排水性が良好であるため、水稲、大麦+大豆(ソバ)の2年3作の生産体系が実施されている。

実証した栽培体系

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耕種概要

●各区の概要
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●ほ場条件
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●暗渠等の施工状況
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●主な栽培基準
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供試資機材

○ドローン(T30K)
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○供試肥料
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左 :大粒尿素【N46%】 比重0.73>
右 :大粒硫安【N21%】 比重1.00 (肥料の形状、粒形にバラつきがある)


・ドローンT30Kは、粒剤散布機(T30粒剤散布システム3.0)の吐出能力が高く、時間あたりの吐出量が多いため、追肥作業を充分に行える能力を有している。
・インペラ回転数や散布幅を適正化することで均一な施肥が可能となり、生育ムラも見られなかった。

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令和5年5月9日撮影

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令和5年5月16日撮影

結果の概要および考察

1.肥料銘柄の違いによる有効散布幅とインペラ回転について
 大粒尿素、硫安ともにインペラ回転数を上げると、肥料の飛散距離が増加した。
 散布ムラが±2割以内の範囲内となるところを有効散布幅とした(図1)
 大粒硫安の場合、大粒尿素と比べ散布ムラが大きく、インペラ回転数を1000rpmとした場合でも有効散布幅は5.5mと小さかった(表1)

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図1 散布幅と散布誤差(750rpm)

表1 肥料銘柄ごとのインペラ回転数と有効散布幅
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図2 大粒尿素(左)と大粒硫安(右)のインペラ回転数と飛散距離の関係
インペラ回転数を上げることで飛散距離が大きくなる傾向。尿素と比較すると硫安の方が、散布ムラが大きい



2.マニュアル飛行の際の施肥量とシャッター開度の関係について
 得られた結果(有効散布幅:大粒尿素7.5m、大粒硫安5.0m)を基に、飛行速度18km/hで散布する場合のシャッター開度の関係を図3に示した。

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図3 大粒硫安および大粒尿素の施肥量とシャッター開度の関係


3.マニュアル飛行とMプラス飛行による散布量の精度確認について
 実証ほ場において、マニュアル飛行およびMプラスモードで飛行散布した場合の目標散布量に対する実散布量は、散布誤差はおおむね1割以内に抑える事ができた(表2)
※マニュアル飛行については、図3に基づき、シャッター開度を設定した。

表2 飛行方法による散布精度の確認結果
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4.ドローンの追肥作業にかかる労働時間について
 Mプラスモードで大粒硫安14kg/10aの散布に要する時間は2.8分/10aであった(表3)

表3 ドローンによる施肥作業時間(作業面積3.6ha)
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5.生育、収量・品質等について
 慣行区に比べ年内および越冬直後の生育量は小さかったが、成熟期の穂数は実証区の方が多くなった。
 病害虫および雑草の発生はほとんど確認できなかった。
 慣行区に比べ実証区1(硫安追肥)で慣行比103、実証区2(尿素追肥)で慣行比107と増収した(表4)

表4 成熟期及び収量調査
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6.ドローン施肥による費用対効果
 一括肥料への転換によるコスト削減効果について大麦面積29ha(令和5年産面積)でシミュレーションしたところ、一括肥料を使用した場合の肥料費と分施(ドローン導入にかかる経費および労務費を含む)にかかる経費は、同程度であった(表5)
 水稲も同様に、一括肥料から分施へ転換を図ることでドローン導入経費を圧縮できるため、経費削減効果を向上できると考えられる。

表5 大麦のドローンによる分施体系への転換による費用対効果
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実証した作業体系及び経営的効果について

○追肥作業の省力化・軽労化は分施体系への転換に向けての最重要課題であるが、今回実証したドローンを用いた施肥作業は、作業時間やドローンの導入コストに対する費用対効果からも、普及性の高い作業体系である。
○分施体系への転換による増収効果や肥料費削減効果により、ドローン導入にかかる生産経費の増加を加味しても、売上総利益が慣行区に比べ6,000円/10a程度向上した。
○水稲、大麦を分施体系に転換した場合の損益分岐点(施肥のみに使用)は、経営面積40ha以上である。

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今後の課題と展望

○水稲についても、追肥(穂肥)散布の実証を行い、高温条件下でのバッテリー状態の確認や、一括肥料から分施体系への転換による収量性の変化について確認する。
○低コスト技術として、大規模農業者に対し技術の普及を目指すが、その際、施肥散布によるプロペラ部の損傷や、使用後のメンテナンスなどの留意点も併せてアナウンスすることが重要であると考えている。


●実証年度及び担当組織:令和4年度 福井県農業試験場