提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


大豆・麦

大豆栽培における高速汎用施肥播種機等を活用した高速機械作業体系の実証(滋賀県 令和4年度)

背景と目標

 滋賀県の水田作経営の多くは、水稲・麦・大豆の2年3作の輪作体系が行われており、米価が低迷する中、担い手の経営安定に向けて麦・大豆の収量の向上が求められている。その中でも大豆は播種適期が梅雨時期と重なるため、土壌過湿による苗立ち不良や梅雨明け後の播き遅れによる生育不足によって低収となっている。また、近年では担い手への農地集積が進み、1経営体当たりの大豆作付面積が大規模化していることから、播種作業の高速化が望まれている。 そこで、以下をねらいとして実証をおこなった。

1.麦収穫後のほ場準備や播種作業において作業能率の高い高速機械作業体系を実証し、大豆の収量安定確保を図る。
2.播種時期が梅雨明け後に遅れた大豆の増収技術として追肥の効果を検討する。

対象場所

●滋賀県近江八幡市
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 近江八幡市は、滋賀県のほぼ中央部、琵琶湖の東岸に位置し、耕地面積は4,067haで、うち3,974ha(約98%)が水田である。
 令和4年の各品目の作付面積は水稲2,603ha、小麦1,127ha、大豆919haとなっており、小麦・大豆をブロックローテーションとした土地利用型農業が営まれている。農業産出額(推計)は全体で7億1千万円で、その約48%にあたる3億4千万円が米、麦類が3千万円、豆類が2千万円、野菜が7千万円、花きが1千万円、畜産が2億6千万円となっている。総農家数は2,200戸で、うち販売農家は1,800戸である。

実証した栽培体系


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耕種概要等

○高速播種機の実証
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○梅雨雨明け後の遅播きほ場(実証区①)での追肥効果の実証
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○圃場条件
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○暗渠等の施工状況
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○主な栽培基準
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供試機械

1.耕起(実証区②)
○スタブルカルチ
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・トラクタ クボタ MR87
・スタブルカルチ スガノ C255FH
・作業機幅:2.5m

●高速汎用施肥播種機は、畝立てのない平面耕での播種となるため、排水性を高めることを目的にスタブルカルチを用いた耕起を行ったが、降雨による浸水が発生し、効果は判然としなかった。

2.播種(実証区①、実証区②)
○高速畝立同時播種機(実証区①)
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・トラクタ クボタMR87
・アグリテクノサーチ(開発中)
・作業機幅:2.8m

●オペレーターが操縦に不慣れであったため、作業速度は2.86km/hとなったが、29.0aの圃場を47分で播種できた。
●2条播きの浅耕うね立て播種機より、10a当たり約12分早く作業を終えた。
●高速畝立て播種機は、主要諸元等では作業速度4.0~6.0km/hでの作業が可能なため、操縦に慣れることができれば、作業効率が向上すると考えられる。

○高速汎用施肥播種機(実証区②)
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・トラクタ クボタMR70SP
・アグリテクノサーチ NTP-4AF
・作業機幅:2.5m

●作業速度は5.85km/hで、20.0aのほ場が26分で作業できた。
●2条播き浅耕うね立て播種機よりも10a当たり約19分早く作業できた。

成果

1.高速播種作業の実証
 高速畝立て播種機と高速汎用施肥播種機の実証を行い、作業効率の向上を検討した。
 その結果、慣行区と比較して、30a当たりの播種作業に要する時間を高速畝立て播種機では約35%、高速汎用施肥播種機では約70%短縮することができた。

作業効率
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 高速汎用施肥播種機では畝立てをおこなわないため、ほ場の一部で湿害が発生し、生育不良となった。
 播種前にスタブルカルチを用いた耕起を行い、排水性の向上を図ったが、効果は判然としなかった。しかし、収量は、慣行区(浅耕うね立て播種機)よりも実証区(高速播種機)の方が約10kg/10a多い結果となった。

収量調査
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2.追肥効果の実証
 高速畝立て播種機の実証ほ場(実証区①)の一部で、追肥として尿素3.2khN/10aを施用し、収量の向上を図った結果、追肥なしと比較して、収量が27kg/10a向上した。
 尿素は窒素成分が高く追肥量も少量で済むため、播種時期が遅れて生育量が不足している大豆に対して施用することは、収益性の向上につながると考えられる。

生育・収量調査
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実証した作業体系について

●高速汎用施肥播種機は、畝立てをおこなわない平面耕で播種するため、排水性を高めることを目的にスタブルカルチによる耕起を行ったが、降雨による浸水が発生し、効果は判然としなかった。
●高速播種作業が可能な高速畝立て播種機と高速汎用施肥播種機は、浅耕うね立て播種機と比較して播種作業時間を大幅に短縮することができた。
●高速汎用施肥播種機は、出芽前の降雨による湿害の影響で一部出芽不良となったが、高速畝立て播種機、高速汎用施肥播種機とも収量は浅耕うね立て播種機よりも多くなり、高速播種機の導入によって大豆の安定生産に期待できる結果となった。

当該技術を導入した場合の経営的効果

●10a当たりの減価償却費は、慣行同規模で「浅耕うね立て播種機」と比較して、「高速畝立て播種機」は880円(※)、「高速汎用施肥播種機」は2,353円高くなるが、両播種機とも「浅耕うね立て播種機」よりも収量が高いため、10a当たりの事業利益は「高速畝立て播種機」は488円、「高速汎用施肥播種機」は972円、「浅耕うね立て播種機」よりも高くなった。
●今回の対象のように、大豆の栽培面積が広い農業者の場合、作業効率も高まるため、高速播種機を導入することによる経営的効果は大きいと考える。

「高速畝立て播種機」は、実証では4条播きを用いたが、ここでは市販されている2条播きで計算した。

経営評価
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※高速畝立同時播種機は4条機の販売が未確定なため、2条機の販売価格で評価
※播種量が多くなったため、生産原価が高騰
※( )内には、慣行区との差額を記載

今後の課題と展望

●高速畝立て播種機については、今回の作業速度が主要諸元にある速度よりも1.0~2.0km/h程度遅かったため、今後も調査を続けて正確な作業効率を求める必要がある。
●今回供試した高速畝立て播種機の4条機は開発中のため、経営評価では市販されている2条機を用いたが、販売された際には、販売価格での再度の経営評価が必要である。
●高速汎用施肥播種機は畝立てしないため、排水対策が重要となるが、スタブルカルチを導入した排水性の改善効果は判然としなかった。排水性を高めるためにも、暗渠や排水溝を組み合わせた作業体系が必要である。
●1経営体当たりの大豆作付面積が拡大する中、高速播種機の導入は作業時間の短縮により規模拡大にも対応できるため、有効な技術だと考えられる。

実証年度及び担当指導普及センター
(令和4年度 滋賀県東近江普及指導センター、滋賀県農業技術振興センター農業革新支援部)