提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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福井県における水稲の施肥管理は一括肥料の使用が一般的であるが、近年の気象変動の影響により気象や生育量に合わせた施肥が難しく、米の収量が不安定となっている。加えて、肥料価格の高騰により農業者の負担が拡大しており、大規模経営体を中心に、一括肥料から分施体系への転換に対する意識が高まっている。
一方、施肥対応型の大型ドローンが発売され、作物の生育期間中の施肥作業を省力的に行うことが可能となった。また、センシング用ドローンでは、水稲の生育量を可視化することが可能であることから、スマート農業技術を活用した精密農業の実用化に向け、「センシング用ドローンを活用した生育量診断による水稲分施体系の確立」を目標に実証を行うこととした。
●福井県坂井市
実証場所である坂井市坂井町福島地区は福井県北部に位置する坂井平野の中央に位置している。福島地区の水田面積60haすべてを実証農家が集積し、50~60aに再整備された水田が広がっている。また集落の中央には九頭竜川支流の兵庫川が流れており、肥沃な沖積土壌となっている。一方、平成4~5年に暗渠が施されており、排水も良好であるため、水稲、麦+ソバ(飼料用米)の2年3作の生産体制が実施されている。
●前作の調査結果概要および改善項目
大型散布用ドローンでの施肥実証の結果、散布ムラなく短時間(3分/10a)で高濃度肥料(大粒尿素)の散布が可能であることを確認した。
大麦を一括肥料から分施体系に転換することで、収穫量が7%(33kg/10a)増収することを確認した。
今年度は、水稲における分施による増収効果を確認する。
●各区の概要
●ほ場条件
○散布用ドローン(T30K)
・使用した散布用ドローン(T30K)は積載量も多く、時間当たりの散布流量も大きいため、施肥に十分に活用できると考えられる。
・自動航行による施肥(施肥マップを活用した可変施肥)の導入により、さらに作業負担が軽減できると考えられる。
・追肥資材を尿素とした場合、肥料の吸湿による固着を防ぐため、高温多湿条件を避ける必要があるため、施肥時間を考慮する必要がある(好適条件:降雨のない日であって午前9時~午後8時)。
○センシングドローン(Phantom4Multispectral)
空撮方法
高度45m、ラップ率80%で飛行。
空撮に要する時間
15分/ha(高度100mでは3分/ha)
画像解析
KSASのリモートセンシング機能を活用
植生指数はQGISで数値化
穂肥量診断
モデルにより生育量を推定し施肥量決定
1.生育、収量、品質等について
県内のハナエチゼンの作況は、穂数不足により籾数が確保できずに収量が少ない傾向となった中、(本実証における慣行区同様)実証区においては、籾数は増加したものの、登熟歩合が低下し、慣行区よりも増収したものの目標収量である540kg/10aは確保できなかった。
品質については、県下一円、高温により未熟粒の発生が多くなった。
2.生育量推定モデルの精度について
地上調査による実測値とモデル式を用いた推定値の関係を図1に示す。推定値から適正穂肥を診断した場合の正答率は86.9%であった。
図1 ハナエチゼン幼穂形成期生育量の推定値
表1 生育量に応じた適正穂肥量(ハナエチゼン)
3.空撮画像を用いた生育量推定について
慣行区(一括肥料)に対し分施区を設け、穂肥量はセンシングドローンによる空撮画像から幼穂形成期の生育量を推定し、適正穂肥量を診断した。
初期生育が緩慢であったことから茎数不足により生育量が小さく、実証区の収量は486kg/10aと、慣行区よりも46kg/10a増収したが、目標収量には至らなかった(表2)。
表2 区の設定と収量結果
4.経営評価について
実証区は、収量増による売上高の向上および肥料費削減により生産原価が削減され、10a当たりの売上総利益は、慣行区に比べ12,800円増加し、経営改善効果が非常に高いと考えられる。
表3 技術導入による経営評価
5.大粒尿素の施肥条件について
尿素は一定の相対湿度(臨界相対湿度)以上で急激に吸湿が進むため、高湿度条件下での吸湿率の変化を表4にまとめた。
高湿度の条件では3分経過すると尿素の固着を確認した(図2)。
表4 臨界相対湿度条件下における吸湿率の変化
図2 大粒尿素の固着の様子
過去3カ年(2021~2023)の気象データより、福井県における穂肥時期(6月20日~7月25日)の間で臨界相対湿度を下回る時間帯を表5にまとめた。
期間内36日間で降雨がなく施肥が可能な日は61%で、降雨のない日であっても、臨界相対湿度よりも低湿度となるのは午前9時~午後6時までの9時間であった。
このことから1日あたりの実作業時間は6時間(散布前後の準備清掃時間2時間および休憩時間1時間を除く)程度と想定される。
これをもとにドローン1台当たりの作業可能面積を表6にまとめた。
表5 穂肥散布にかかる好適条件(6月20日~7月25日)
表6 ドローンによる水稲穂肥(ハナエチゼン)の作業可能面積
※大粒尿素における1日の作業面積
①散布可能時間 9時間(午前9時~午後6時)
②実作業時間 6時間(散布前後の準備清掃時間2時間、休憩1時間を除く)