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全国農業システム化研究会|提案一覧


稲作

アグリロボ田植機による鉄コーティング湛水直播及び可変施肥技術の実証(岩手県 令和4年度)

背景と取組のねらい

 水田農業における生産者の高齢化、担い手不足及び一部の担い手へ農地の過度な集約が進んでおり、農作業の省力化、軽労化が緊急の課題である。スマート農業技術は、これらの課題解決に向けて、担い手の負担軽減に活用できる技術として期待されている。
 そこで、アグリロボ田植機(無人仕様)の移植機を播種機に変更して、鉄コーティング直播の播種作業を実証し、作業の省力効果を前年に引き続き検証する。あわせて、可変施肥技術を用いた播種同時側条施肥を実証し、生育・収量の斉一化の効果や可変施肥技術による化学肥料使用量の低減効果を検証し、みどりの食料システム戦略に資する技術として検討する。

実証調査場所

岩手県農業研究センター(岩手県北上市)

前作の調査結果概要および改善項目

・播種時のほ場田面がやや柔らかかったが、播種精度は良好で、おおむね目標の播種量を確保できた。アグリロボによる無人での播種作業では、平均播種条間が29.9cmと有人による播種作業及び直進キープ機能を利用した有人移植作業の条間と比較し、高精度に播種することが可能であった。
・アグリロボ無人播種作業時間は、1haあたり1時間55分と有人作業の1時間28分に比べ長くなった。これは、旋回に係る時間が同等であるものの、外周マップ作成の追加に加え、播種速度をやや遅く設定したことが要因である。また、今回の実証では側条施肥による肥料の補給作業が加わったことも一因である。この結果より、アグリロボによる無人播種の作業可能面積は45.8haと試算された。
・アグリロボ田植機での無人による直播は、外周マップ作成後は監視・補給のみであるため、オペレータの労働負担はかなり軽減される。また、種子、農薬、肥料の補給のみで苗補給が不要であるため、移植に比べて作業に係る人力を減らすことが可能であり、規模拡大、省力化の効果が期待できる。

耕種概要等

●各区の概要
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●主な栽培基準
(1)品種 銀河のしずく
(2)作型 標準
(3)種子予措
  種子消毒:温湯消毒
  浸種  :鉄コーティング種子 浸種13℃ 4日間、活性化処理あり
(4)種子コーティング作業
  鉄コーティング種子:鉄コーティング0.5倍重(4月5日)
  ルーチンシードFS・ヨーバルシードFSをコーティング中の種もみに塗抹処理
(5)播種 栽植密度70株/坪 設定

●施肥体系
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前年(令和3年)の収量コンバインデータに基づき可変施肥を実施。減肥による低コスト化・斉一化を狙った

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R3年の収量マップ(左)とR4の施肥マップ(右)

●圃場の状態(均平・日減水深等)
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●栽植密度
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●播種状況
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※ゴルフボール落下時の上面の高さ

供試機械

アグリロボ田植機(無人田植え機)(NW8SA-PF-A)+こまきちゃん(CS-30)+鉄まきちゃん(NDS-80F)
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 アグリロボ田植機での無人の直播播種作業は、外周マップ作成等の工程が追加にはなるものの、播種・旋回はほとんど無人で行い、オペレータ1名で種子、農薬、肥料の補給が可能となることから、移植に比べて作業に係る人力を減らすことが可能である。
 また、大部分の工程は自動運転で行うことから、経験が浅いオペレータでも作業が可能であり、労働力の確保が容易となり、規模拡大、省力化が実現できる。

成果

1.播種作業精度
・播種時の圃場田面がやや柔らかったが、アグリロボによる無人播種作業では、平均播種条間が30.00cmと、昨年度と同様に精度が高く、有人による播種作業及び直進キープ機能を利用した有人移植作業の条間と比較し、高精度に播種することが可能であった。
・また、作業幅(2行程分)の標準偏差も、アグリロボ無人播種が他の作業方法より小さく、播種条間のバラツキが少ないことが確認された。このことは、みどりの戦略を踏まえた今後の展開として、機械作業による除草剤使用量の低減技術等を導入する場合等に、特に有効であると考えられる。

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無人の播種作業(5月10日)

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2.播種作業時間
・実証ほ場におけるアグリロボ無人播種作業時間は、1haあたり2時間00分19秒と、有人作業の1時間27分49秒に比べ長くなった。

有人播種作業との比較
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・無人作業で作業時間が増加した主な要因としては、外周マップ作成時間(7分)に加えて、今回の実証では側条施肥による肥料の補給作業が加わったことも一因である。種子、肥料等の資材をホッパー等の積載量を参考に補給回数も最小限にした場合、さらなる時間短縮が見込まれる。

播種作業にかかる資材等の補給回数(試算)
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・有人作業の場合は、オペレータ+補助員2名=計3名での作業となるが、アグリロボ無人播種の場合は、オペレータ1名での作業が可能であった。そのため、のべ作業時間で比較した場合、アグリロボ2時間00分19秒、有人作業4時間23分27秒となり、大幅な作業時間の軽減が実現できる。
・また、大部分の工程は自動運転で行うことから、経験が浅いオペレータでも作業が可能であり、労働力の確保が容易となり、規模拡大、省力化が実現できる。

作業可能面積(試算)
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3.生育状況
・播種時期が高温で経過したことにより発芽は良好であったが、5月下旬以降は低温により生育が遅れた。その後は、全般に高温で経過し、生育が良好であった。
・苗立ち率は63%、苗立ち本数は91本/㎡であった。
・出芽後に部分的に表層剥離が生じ、出芽不良箇所が散見された。
・6月下旬の草丈・茎数は平年を上回り、最高分げつ期頃には茎数は約700本/㎡確保した。

苗立ち状況
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生育状況
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 ※茎数は、㎡当たりの茎数を記載

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ドローン(P4M)による幼穂形成期のNDVI(7月11日)

4.収量および品質
・穂数は509本/㎡と、目標の460本/㎡を上回り、坪刈収量は543kg/10a(実証区)、533kg/10a(慣行区)となった。
・倒伏はほとんど見られず、品質も農産物検査で1等を確保。実証区は慣行区よりも減肥したが、収量は同等であった。

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注)収量、屑米割合は、1.9mm篩調製玄米 ※格落ちの理由は、青未熟

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(収量コンバインDR6130A-PFQW-C調査)

実証した作業体系について

 センシングに基づく可変施肥の施肥技術については、減肥につながる技術となることが示されたことから、さらなる研究が期待される。


実証年度及び担当指導普及センター
(令和4年度 岩手県農業研究センター、岩手県農林水産部農業普及技術課)