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全国農業システム化研究会|提案一覧


稲作

無人田植機(アグリロボ)による可変施肥を活用した鉄コーティング直播栽培の省力・安定生産の実証(新潟県 令和4年度)

背景と目標

「背景」
 担い手への農地集積・集約化の進行、米価の低迷の中で、地域農業の中心となる水稲大規模経営体において、更なる省力・低コスト化、安定生産が求められている。
 そこで、水稲の規模拡大に対応するため、無人田植機(アグリロボ)を活用した鉄コーティング直播による省力・低コスト技術、並びにリモートセンシング、食味・収量センサー付きコンバイン等を活用した収量・品質の安定生産技術体系を検証する。

「目標」
1.省力化:無人田植機及び有人田植機の同時直播(以下「2台同時播種」という)による省力・低コスト化の検証
2.安定生産:KSASリモートセンシング及び食味・収量センサー付きコンバインによって把握した生育データ(令和3年)と、無人田植機による可変基肥施肥を組み合わせた収量及び品質・食味の安定生産技術体系の検証

対象場所

●新潟県新発田市
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 米倉地域のある新発田市は越後平野の北部に位置し、県都新潟市に隣接する新潟県北部の都市で、農業を中心に、電気機械工業、縫製業、酒や漬物などの食品工業、近隣地域を商圏とする小売業などが盛んである。
 総農家数は2,597戸、経営耕地面積は9,024haで、そのうち田が93.3%を占めている。
 年平均気温は13~14℃と比較的温暖で、積雪量は県内でも比較的少ない地域に属する。
 実証ほがある米倉地域は、市街地から南へ約8km、新潟と福島の県境に連なる飯豊連峰、五頭山系から流れる加治川が作り出した扇状地の扇端部に位置し、特定農村地域に指定され、農業統計上の中間農業地域に区分されている。農業生産の主な作目は水稲で、昔から良質米の産地であり、近年整備された大区画ほ場を活用し、有志型や集落営農型の農業法人が大規模な水田農業を展開している。

実証した栽培体系


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前作の調査結果概要および改善項目

 前作(令和3年度)は、鉄コーティング直播栽培と慣行移植栽培を比較した。
 直播では、無人田植機及び有人田植機による2台同時播種を行い、慣行に比べ播種・移植にかかる作業時間は約7割削減と省力効果があった。しかし経費では、慣行区に比べ労務費や減価償却費が抑えられたものの、原材料費で高価な肥料を使用したことで肥料費が増加したことや収量減となったことで、事業利益は慣行区の約38%であった。
 そこで、実証区の収量レベルを実証経営体の目標収量510kg/10aと想定し、慣行区に比べ高価であった肥料及び除草剤を慣行と同等の資材にした場合は、10a当たりの事業利益は慣行区とほぼ同等となると試算された。

【改善項目】
1.無人田植機の資材補給やリモコンで対応できないトラブル等の停止にかかる作業時間の削減。
2.鉄コ-ティング直播栽培における登熟期間中の土壌条件に応じた的確な水管理。
3.安価な肥料、除草剤の使用。

 令和4年度は、鉄コーティング直播栽培の指標値と比較するため、慣行区は省略。一部春作業の慣行作業や無人田植機による移植作業を参考に計測。

耕種概要等

●区の概要
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●圃場条件
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●主な栽培基準
(1)品種 :コシヒカリBL
(2)作型 :鉄コーティング直播栽培(点播)、5月12日播種
(3)種子予措:
    種子消毒:なし
    浸種:4日間
(4)種子コーティング作業
    コーティング日:1月19日
    コーティング比:0.5倍

供試機械


○播種
(無人田植機+鉄まきちゃん:NW8SA-PF-A + NDS-80F)
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 播種時間は0.11時間/10a・台と、前年(0.13時間/10a・台)よりもさらに作業能率が高くなり、播種量も2.9kg/10aと目標播種量3.0kg/10a並みに播種された。システムの改善により、前年に発生した内周時の自動停止や後退を必要とするトラブルもなく、滞りなく作業を実施した。
 無人田植機+有人田植機(直進キープ機能付き)による鉄コーティング直播播種は、1人で2台同時播種を行うこと(以下、「ワンオペ」という)で、慣行移植や直播と比べて作業時間が短縮でき、省力的であった。


○可変基肥施肥
(無人田植機:NW8SA-PF-A + NDS-80F)
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 前年にKSASリモートセンシング及び食味・収量センサー付きコンバインによって作成したメッシュマップをもとに、KSAS上で基肥の可変施肥マップを作成。マップデータを田植機が受信することで播種時に可変基肥施肥が実施された。設定散布量16.1kgのところ、実際の散布量は15.6kg/10aと、散布精度は高かった。


○KSASリモートセンシング
(ドローン:DJI P4M)
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 追肥前にドローンによるリモートセンシングを行い、生育メッシュマップを作成、KSAS上にアップロードを行った。実証区含む10筆(約10ha)の撮影からアップロードまでの時間は、概ね40分程度であった。ほ場ごと及びほ場内での生育状況やバラつきを可視化し、追肥等の参考とした。バラつきは小さく、追肥は均一散布とした。


○収穫
(食味・収量センサー付きコンバイン:DR6130S-PFQW-C)
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 食味・収量センサー付きコンバインによる推定収量は518kg/10aで、実収の438kg/10aと約14%の差があった。食味・収量センサー付きコンバインでは精玄米歩合を95%と見積もって推定収量を算出しているのに対し、実際の精玄米歩合が80%であったため差が生じた。登熟歩合の低下が目標収量を確保しなかった要因と推定される。タンパク含有率は6.5%であった。

結果の概要および考察

1.播種
 無人田植機+有人田植機(直進キープ機能付き)によるワンオペでの鉄コーティング直播播種は、1人で2台同時播種のワンオペで、作業時間が10a当たり0.11時間と、慣行移植や直播と比べ短縮でき、省力的であった。播種精度も高く、その後の苗立ちも良好であった。
 実播種量は2.9kg/10aで、概ね目標播種量(3.0kg/10a)並みであった。苗立ち率は82%と高く、苗立ち数も80本/㎡と良好であった。ほ場の高低差は小さく、苗立ちもほ場全体でバラつきなく、均平であった。

2.生育
 草丈は指標値並みに推移した。茎数は初期の確保が遅れ、無効分げつも多くなり穂数が少なくなった。葉色は7月上旬から幼穂形成期頃にかけて大きく低下したが、その後の追肥により出穂期以降は指標値以上で推移した。

3.収量
 登熟期間の寡照や異常高温により登熟歩合が低下したことで、目標収量を下回った。品質は未熟粒が多く、出荷された検査等級は全量2等であった。

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4.施肥
 令和3年に把握した生育ムラに基づき可変基肥施肥を行うことで、慣行よりも使用量を6%削減できた。食味・収量コンバインによる刈り取りでは、食味及び収量のメッシュマップから令和3年よりも収量差が小さくなったことが確認された。

5.省力効果
 無人田植機及び有人田植機による2台同時直播を行うことで、慣行移植と比べ約7割、慣行鉄コーティング直播と比べ約3割削減と省力効果が確認された。また、システム等の改善により令和3年からさらに削減された。

6.経営収支
 現行の栽培面積で実証技術を導入し直播と移植を組み合わせて活用した場合、労務費や肥料費が抑えられたが減価償却費が高く、水稲全般の合計事業利益は慣行の約97%となった。直播面積を2.0ha増加させると減価償却費が低減し、慣行と同等の事業利益となる。

当該技術を導入した場合の考えられる経営的効果

1.無人田植機+有人田植機(直進キープ機能付き)によるワンオペでの鉄コーティング直播
 ワンオペによる2台同時播種を行うことで、播種・移植にかかる延べ労働時間(人・時間)は慣行稚苗移植(操縦者1人、補助者1人)と比べ約7割、慣行鉄コーティング直播(操縦者1人)と比べ約3割削減できた。
 また、システムの改善によるトラブル防止や最外周の手動化等オペレーションの改善により、令和3年からさらに削減された。春作業の省力化により、1人当たりの作業面積を拡大することが可能と考えられる。

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 労働時間の比較

○条件
 ①稲作に係る従事者は6人。代かき作業を優先し、田植えに係る従事者は3人まで
 ②代かきの翌日から田植え可能とし、当日は不可
 ③直播の作業期間は4月27日から5月15日までとし、以降は補助者1人による無人移植

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 技術導入後の田植え作業可能面積


2.生育データを活用した可変基肥施肥
 生育のメッシュマップに基づいた可変基肥施肥を行うことで、慣行の均一散布よりも使用量を6%削減できた。施肥の適正化により、生育差の低減や経費の削減が可能と考えられる。

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3.鉄コーティング直播機による軽油消費量
 鉄コーティング直播は、稚苗移植よりも田植機の軽油消費量を約50%削減できた。無人田植機も、熟練者の操縦する有人田植え機と同等の軽油消費量であった。移植から鉄コーティング直播に切り替えることでより燃油代の低減が可能と考えられる。

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 ※軽油消費量は、消費重量を測定し比重0.87で試算

4.経営評価
 現行の栽培面積で実証技術を導入し、直播と移植を組み合わせて活用した場合の収支を試算すると、水稲全般の合計事業利益は慣行の技術体系の約97%となった。
 田植え作業の省力化や施肥量の削減により労務費や肥料費が抑えられたが、導入にかかる減価償却費が高く、慣行区よりも費用が高くなった。そこで、実証区の鉄コーティング直播の栽培面積を2.0ha増加させると減価償却費が低減し、慣行と同等の事業利益になると試算された。導入に伴い、規模拡大が必要である。
 移植と直播について、10a当たりの生産原価を比較すると、労務費や資材費の低減により直播の方が低くなった。
 一方で60kg当たりの生産原価を比較すると、移植よりも収量が低くなったことで直播の方が高くなった。

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 ※実証技術を導入し直播と移植を組み合わせて活用した場合を実証区、慣行の既存の機械による技術体系を慣行区とする
 ※参考にどの程度実証区の栽培面積を拡大させれば、事業利益が慣行区と同等になるか試算した場合を実証区(参考試算)として示す

今後の課題と展望

1.無人田植機+有人田植機(直進キープ機能付き)によるワンオペでの鉄コーティング直播
 無人田植機では、最外周作業時と資材補給やトラブル発生時は有人対応となる。有人機田植機と無人田植機の往復等にかかる作業時間の削減は課題であり、より無人化への技術開発が進むと普及も進むものと思われる。

2.生育ムラデータを活用した可変基肥施肥
 現在の可変施肥マップは手動で作成する必要があり、大規模に複合経営をしている経営体では作業負担となる可能性がある。KSAS上でデータを蓄積することで、将来的にはお薦めの可変施肥マップを自動で作成してくれるようなシステムの構築が期待される。また、後付けで可変施肥仕様にできると普及が進むものと思われる。

3.鉄コーティング直播栽培
 直播栽培の導入により、作期幅の拡大や気象変動のリスク分散が期待される。
 初期生育の確保や中干しとその後の水管理による茎数の適正管理及び堆肥施用等により土づくりを行い、登熟後半の気象変動(日照不足や少雨及びフェーン等)による品質低下の抑制が必要である。

4.実証経営体における今後の経営について
 実証経営体は、水稲+園芸複合の周年型大規模経営を展開している。今後、従業員の安定確保が懸念される一方で、周辺農家からの委託により、経営面積は引き続き増加が見込まれている。従業員の技術向上を図りながら、いかに1人当たりの作業・管理面積を拡大しつつ収量・品質を安定させていくかが課題であり、スマート農業技術と低コスト技術を取り入れた大規模安定稲作作業体系の構築が必要である。


●実証年度及び担当普及センター
(令和4年度 新潟県新発田農業普及指導センター、新潟県農林水産部経営普及課)