提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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担い手へ農地の集約が進む一方で、農業現場の労力不足が深刻化している。加えて、長野県の中山間地域では、水稲作の作業適期が限られるうえに水利条件が恵まれないため、大規模経営体の春期作業において田植作業が集中しやすく、省力化技術が求められている。
そこで、県内の標準的な小区画圃場において、自動運転田植機(以下自動機)の実用性を評価し、技術の導入にあたり、最適な経営規模を検討する。また、大規模経営体において自動機及び慣行田植機(以下慣行機)の協調作業を実証し、中山間地域の稲作環境に合わせた作業体系を検討する。
●長野県飯綱町
飯綱町は長野県北部に位置し、標高500~900mの冷涼な気候と緩やかな丘陵地を活かしたリンゴ栽培が盛んである。水稲(子実用)の作付面積は約477haで、10a当たりの平均単収は592kg、JA出荷における特A一等米比率が90%以上の良質な米産地である。水田は10~30aの小区画ほ場が多く、傾斜地のため畦畔面積が大きいという特徴を持つ。
地域の担い手として、水稲経営面積10~30ha規模の農家が町内に5名おり、当該実証農家は町内で最大規模の面積を経営している。
●耕種概要
・品種 :コシヒカリ
・播種期 :4月15日
・播種量 :乾籾100g/箱
・代かき期 :田植2日前
・苗質(田植時):中苗、草丈13.5cm、葉齢3.8
・田植期 :5月19日
・栽植密度 :15株/㎡
・使用箱数 :22箱/10a
・施肥 :側条施肥(全量基肥)37kg/10a(N:P:K=19:19:11)
・殺虫殺菌剤 :自動機は田植前、慣行機は田植時
・除草剤 :自動機は田植後、慣行機は田植同時
●主な栽培基準
(1)品種 :「コシヒカリ」
(2)作型 :水稲専作
(3)水管理:手動による水門の開閉
田植後:浅水管理、幼穂形成期前:中干し、幼穂形成期~出穂期:やや深水管理、登熟期:間断かん水、収穫前:落水
自動機(クボタ乗用型田植機Agri Robo NW8SA)
隣接したほ場で自動機および慣行機を同時に動かす協調作業を2か所で実施し、作業時間と燃料消費量の調査を行った。
各機械の作業時間を機械利用時間とし、以下の2パターンの作業体系について、機械利用経費を試算した。
○自動機1台+慣行機1台の協調作業(オペレーター1名+補助者3名の労働力で作業)
○慣行機2台の非協調作業(オペレーター2名+補助者6名の労働力で作業)
※2台同時に田植作業を開始したが、自動機が先に田植作業を終了したため、慣行機の田植作業が終了するのを待って、次のほ場へ移動
自動機1台+慣行機1台の協調作業
図1 自動機と慣行機の作業軌跡
黄:自動機(29a、26a)、青:慣行機(29a、25a)(長野県統合型地理情報システムより引用)
●自動機の操作手順
①有人作業:ほ場外周を回って登録(初回のみ。前年秋に作業することも可能)。
②有人作業:経路を設定。
③有人作業:安全センサーの動作を確認(前後左右8個)。
④有人作業:機械に指示されたスタート位置へ移動し、無人モードのスイッチを押す。
⑤無人作業:自動で田植作業。後進時・回転時や肥料が不足した際には音声案内が流れる。
苗と肥料の補給は補助者が行い、苗の補給時にはエンジンが停止する。
⑥無人作業:内周が終わったら最後に外周を周り、馬入れ地点まで行って停止。自動で畝間調整や条切りを行う。
表1に示す設定により実証したところ、自動機の作業能率および田植精度は、慣行機と同等以上であった。
・車速は、慣行機より平均0.19m/秒速かった(表2)。
・スリップ率は、慣行機より2.9ポイント低かった(表2)。
・植付深度は慣行機よりばらつきが少なかった(表2)。
・栽植密度・欠株率・植付本数・植付姿勢は慣行機と同等であった(表2)。
・ドローンの空撮によるRGB画像からの解析により、田植41日後の植被率は慣行区と同等であり、水稲の生育に差はなかった(データ略)。
表1 自動機および慣行機の設定
表2 自動機および慣行機の作業性
田植え期間を20日間、1日当たりの作業時間を8時間とすると、自動機、慣行機とも1台では38ha前後の作業面積となるが、自動機及び慣行機の2台としても水田の集約化を図ることにより、作業オペレータ1人及び補助者3名体制で慣行機2台と同規模の75haの田植え作業が可能であることが示された。
・協調作業時の、各機のほ場内1ha当たり機械利用時間を比較すると、慣行機が3.42時間/1ha(100%)に対して、自動機は3.33時間/1ha(97%)で、ほぼ同程度であった(表3)。
・ほ場内1ha当たり機械利用時間に実作業率を用いて1日当たり作業面積を試算すると、慣行機1.87ha/日(100%)に対し、自動機が1.92ha/日(103%)であった(表3)。
・「自動機1台+慣行機1台の協調作業」の1日当たり作業面積は、一方の機械が田植作業を終了するまで他方の機械は停止していると仮定して試算したため、「慣行機2台の非協調作業」と同じ3.75ha/日となった(表3)。
実証農家の規模(田植面積29ha)における1ha当たりの機械利用経費は、慣行機56,755円/ha(100%)に対し、自動機83,605円/ha(147.3%)となった(表3)。
・「自動機1台+慣行機1台の協調作業」は、「慣行機2台の非協調作業」と比較して、自動機の機械取得経費により固定費が高くなるが、協調作業により労賃を削減できるため、1ha当たりの変動費が低くなる(表3)。
表3 機械利用経費等の内訳
オペレータ1人と補助者3名で自動機1台及び慣行機1台の協調作業を行う体系では、田植面積90ha以上が適することが導入指標として示された。
1ha当たりの機械利用経費を比較した結果、田植面積90ha以上で「自動機1台+慣行機1台の協調作業」が「慣行機2台の非協調作業」より低くなった(図2)。
なお、20日間の田植作業面積が74.9ha(表3)であったことから、導入指標面積として示された90haの作業には25日間を要することが示された。
図2 田植面積と機械利用経費
1.自動機の課題と展望
・自動機+慣行機の協調作業を効率的に行うには、ほ場の団地化・大区画化が必要である。
・90ha以下の経営面積の場合は、導入にあたり他地区との機械の共用や補助金の活用が必要である。または、自動機の導入により余剰となった労力で園芸品目を導入する等の取り組みにより、所得を上げる工夫が求められる。
・メーカーにおける機械の修理費用やリース費用は検討段階であるため、最適な導入方式については、維持管理費や修繕費を含めた検証が必要である。
・今後、自動機と密播疎植およびハイ窒素肥料を組み合わせて苗・肥料の補給作業時間を低減すれば、田植作業のさらなる省力化につながると考えられた。
2.自動機を導入した場合に期待できる副次効果
具体的な実証を行っていないものの、実証結果や観察から以下の副次効果への期待が見込まれる。
・経験の浅い従業員の田植作業能率がベテラン並みに向上し、ほ場形状による自動操舵の差を観察することによる田植技術の習得につながる。
・有人作業に比べ、疲労度低下による作業の安全性の向上。
・現行の労働力及び有人田植機に加え、自動機を導入することによる田植作業面積の拡大。
・経験の浅いアルバイトやパート従業員等への雇用の選択肢の拡大。
・経験の浅い従業員や後継者に田植作業を任せることにより、主たる経営者が総括や別作業に注力できる。