提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農業のポータルサイト みんなの農業広場

MENU

全国農業システム化研究会|提案一覧


稲作

密播苗移植による省力・低コスト化の実証(秋田県 令和元年度)

背景と取組みのねらい

 秋田県では、農業従事者の高齢化等により担い手への農地集積が進んでおり、規模拡大に伴う新たな投資等の負担が懸念される。また、平成30年度以降の米政策の転換に伴い、今後は主食用米以外の作付け増加も予想されることから、業務用米等の多様な需要に対応するため生産費の更なる削減が求められている。そこで、密播苗移植技術により資材費の削減や軽労化を実証し、普及定着の資とすることとした。
 平成29年度から本実証に取り組んでおり、今年度で3年目となる。

対象場所

●秋田県能代市
r1sys_yamamoto_map.jpg

 能代・山本地域は県の北西部に位置し、世界遺産として名高い白神山地を背に南北にやや長い地形を示し、その面積は1191.2k㎡ で、全県の約10%を占めている。
 地形的には、地域の中央部を貫流する米代川下流及び八郎湖周辺の平野部、北部と東部の山岳丘陵地帯、海岸段丘となだらかな砂丘地帯をもつ日本海沿岸部などからなり、変化に富んでいる。
 気象は、西側が日本海に面し、東側が山岳丘陵地帯を背負う地形から、春夏は東寄りの風、秋冬は日本海側特有の北西の季節風が強い。年平均気温は10~11℃で、沿岸平地では海の影響により冬季の冷え込みは比較的弱い。内陸は冬季は低温になり、特に山岳部は積雪量が多くその期間が長い。
 総人口は、平成29年5月1日現在、79,854人で、県全体の8%を占めている。
 総世帯数は、平成29年5月1日現在、32,168戸で、県全体の8.3%を占めている。地域の交通は、国道7号線、101号線、JR奥羽本線、五能線を骨格として形成されており、管内を南北に縦断する広域農道がある。また、日本海沿岸東北自動車道が秋田市方向から二ツ井白神ICまで開通している。

実証した作業体系(作業名と使用機械)


r1sys_yamamoto_hyo.jpg

※PFコンバイン
Precision Farmingコンバインの略。ここでは食味(タンパク・水分)・収量測定機能付きコンバインを指す

耕種概要

●主な栽培基準
(1)品種
   あきたこまち
(2)作型
   普通
(3)種子予措
  ・薬剤による種子消毒(ヘルシード乳剤吹き付け済み種子購入)
  ・浸種期間:7~8日間
  ・催芽期間:1~2日

●各区の概要
r1sys_yamamoto_hyo1.jpg

●圃場条件
r1sys_yamamoto_hyo2.jpg

●田植同時薬剤散布作業
r1sys_yamamoto_hyo5.jpg

作業別の能率と効果


密播苗移植 能率と効果

 r1sys_yamamoto_i125.jpg
田植え作業

 r1sys_yamamoto_i083.jpg
左 :普通苗(160gまき)
右 :密播苗(260gまき)

・密播移植対応田植機については、今年度は苗の乾燥等により欠株が多くなったが、3カ年の結果から、適切に育苗した苗の使用により、植付精度に問題はないと考えられる。
・殺菌・殺虫剤の移植同時側条施薬機については、3カ年の平均で9割程度の薬剤投下量となった。特に、本年度は株間キープ機能搭載の実演機だったこともあり、薬剤の投下精度が向上した。

●型式
田植機
 (粒状側状施肥機、直進キープ機能付き)
 クボタ NW8S-F-GS
 移植同時側状施肥機 SSY-8
 こまきちゃん CS-100

収穫 能率と効果

 r1sys_yamamoto_i2.jpg
PFコンバインによる収穫作業


平成29年度からPFコンバインを使用しており、ほ場ごとの収量・食味関連データを蓄積。
蓄積したデータの活用により、ほ場毎の適切な肥培管理の実現が期待される。

●型式
PFコンバイン
(6条 食味・収量センサー仕様)
クボタDR6130S-PFQW-C

成果

(1)育苗
・本年度の育苗期間は、実証区20日、慣行区29日となった。育苗期間の天候は周期的に変化し、一時的な高温や低温があったが、苗の生育は順調であった。
・苗質調査によると、苗丈は実証区11.0cm、慣行区13.0cm、葉齢は実証区2.1葉、慣行区2.4葉であった。移植作業に際して、苗の種類による問題はなかった。
・3カ年の苗調査の結果から、実証区の苗は慣行区と比較するとやや徒長傾向であるものの、稚苗(180g播種)の一般的な葉齢・苗丈・乾物重から推察すると健苗の範囲内であると考えられる。ただし、H29の発根調査から、適正な育苗期間(21日前後)を超過した苗については、外観や病害の発生等については特に問題はなかったが、発根力については劣る可能性が示唆されたため、今後さらなる検討を要する。

(2)最適株数並びに株当たり植込み本数とその評価について
・本年度の栽植密度は実証区で61株/坪、慣行区で62株/坪となり、概ね予定どおりとなった。植え込み本数は、対照区でやや多くなった。移植後の好天により生育初期から分げつが旺盛となり、両区とも十分な茎数・穂数を確保できた。
・栽植密度60株/坪、植え込み本数4~5本/株植えでは、H30年度のように、気象条件により初期分げつが確保できず、穂数も少なくなる場合があるため、安定性を考慮すると栽植密度は70株/坪以上が必要であると考えられる。

 ●移植状況
r1sys_yamamoto_hyo6.jpg
田植機の設定内容
実証区(横送り回数:30回 縦掻き取り量: 9mm 深さ:21mm)
慣行区(横送り回数:26回 縦掻き取り量:13mm 深さ:21mm)


 ●栽植密度
r1sys_yamamoto_hyo3.jpg

(3)除草剤の効果と薬害の所見について
・トップガンGT1キロ粒剤75の田植同時処理は、特に薬害は見られなかった。
・実証区ではイヌホタルイ、慣行区の水口付近でオモダカが残草した。今年度の発生量は体系処理をするほどではなかったが、次年度以降、増加を抑制するためには、部分的に中後期剤の処理が必要と思われた。

(4)生育について
・草丈は、生育初期は実証区で短く推移したが、幼穂形成期頃には実証区が慣行区を上回った。最終的な稈長は実証区で長くなり、特に上位第Ⅰ~Ⅲ節間が長い傾向であった。本年度、管内のあきたこまちは第Ⅲ節間が長い傾向があり、強風等の影響でなびき倒伏につながったと見られており、実証ほも倒伏が慣行区に比較して多かった。また、欠株が多かったことも、倒伏に影響したと考えられる。

r1sys_yamamoto_z3.jpg

・茎数は、実証区で概ね適正な本数で推移した。本年度は、初期分げつ(強勢茎)が確保できたことと、幼穂形成期頃まで葉色が維持されたため、有効茎歩合が高くなったと考えられる。
・幼穂形成期から減数分裂期頃にかけて両区共に葉色が低下したため、7月26日にN1kg/10a追肥を行った。
・3カ年の調査で、慣行苗と同日に移植した密播苗は、出穂期は4~5日、成熟期は1週間から天候によっては2週間程度の遅れとなった。また、年次により気象の影響もあるが、密播苗移植では、慣行と比較して稈長が長くなる傾向であった。普及に当たっては、各水稲経営の中での作業(移植)時期や、生育に適する肥料や施肥量について検討することで、より有効に技術活用を図ることができるものと思われる。

 ●生育ステージ
r1sys_yamamoto_z1.jpg

(5)病害虫防除について
・実証区は側条施用、慣行区は移植同時箱施用によりDr.オリゼフェルテラ粒剤を処理したが、両区とも病害の発生程度、薬害等について問題はなかった。

(6)収量・品質について
・両区とも穂数が多く、1穂着粒数が少ない傾向だったが、実証区では慣行区より1穂着粒数が多く、㎡当たり着粒数が多くなった。幼穂形成期から減数分裂期にかけて、両区ともに葉色が低下したが、幼穂形成期頃の茎数が慣行区の方が多かったため、1穂着粒数の減少程度が大きくなったと推察される。
・減数分裂期頃に緩効性肥料による追肥を行ったため、稲体の活力が維持され、登熟は良好だったと推察される。実証区では、㎡あたり着粒数が多かったことと、倒伏が多かったことから、登熟歩合が慣行区より低くなったと考えられる。
・本年度は、追肥の影響によりタンパク質含有率が高くなったと考えられる。

 ●収量調査
r1sys_yamamoto_hyo7.jpg
県の目標値    :10a当たり収量 (570kg)
実証地区の目標値 :10a当たり収量 (570kg)


【参考】PFコンバインによる食味・収量分布図
r1sys_yamamoto_z2.jpg
※001:慣行区、002:実証区

・3カ年とも、概ね慣行区と同等の収量が確保された。整粒歩合、タンパク質含有量は、H29は登熟が遅れたため慣行区と差が付いたが、他年度については概ね同等であった。

r1sys_yamamoto_hyo8-2.jpg
外観品質判定機器 (サタケ社 穀粒判別器 RGQI10B)
玄米タンパク含量測定器 (ケルダール分析)
※玄米タンパク質含有率は、水分15%で計算


(7)その他
・実証区の使用箱数については、苗をほ場に運んでから作業までの時間が空いてしまい、やや乾燥してしまったことと、苗押さえがややキツかったことがあり、欠株がやや多くなり、全体の使用箱数が少なくなった。

実証した作業体系について

・適切な育苗期間で移植した密播苗は、移植作業時やその後の生育に特に問題はなく、慣行栽培と同等の収量を得られた。
・3カ年の結果から、同時期に移植した慣行の苗と比較して、成熟期は気象条件により7~14日程度遅くなることを踏まえ、水稲の大規模経営等でうまく組み入れることで、作期分散を図ることができる。

r1sys_yamamoto_hyo0.jpg

当該技術を導入した場合の経営的効果

・本年度は、移植時の苗の乾燥等により、実証区での使用箱数は2分の1以下となった。3カ年の平均では、本技術により使用箱数は160g/箱播種苗の3分の2程度となり、育苗にかかる諸材料費の削減につながる。
・育苗日数が短いため、育苗作業にかかる労務費の削減につながり、3カ年平均で対慣行区比95%となった。
・移植作業時間の低減により、1日の作業可能面積が増えるため、適期移植の実現や他作目の作業に取り組むことで、収益増の可能性がある。

 ●コストと時間
r1sys_yamamoto_hyo9.jpg
※コスト計算時に屑米の売上が含まれるため、単収は、H29は坪刈収量、H30、R1は農家聞き取り実収を用いている

今後の課題と展望

・管内では、播種量250~300g/箱苗を本格的に導入する生産者が出始めており、低収の事例等も聞こえてくる。情報収集し、技術向上につなげていく。
・大規模水稲経営等で、品種や他の技術との組み合わせによる作業分散について、関係機関と連携して検討していく。

(令和元年度 秋田県山本地域振興局農林部農業振興普及課、秋田県農林水産部水田総合利用課)