提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
MENU
●背景
新潟県上越市は水稲主体の経営体が90%以上と多く、農地集積が進み経営体の大規模化が進んでいる。管理圃場数の増加や耕作エリアの拡大に伴い、圃場に合わせた細かい管理が難しくなってきており、水稲の品質・収量の安定化が課題となっている。また、米価低迷の続く米情勢の中においては、併せてコスト低減による経営の効率化も急務となっている。
そこで本調査では、ICTを活用した圃場管理システム「KSAS」を活用し、データの蓄積・活用による水稲の品質および収量の安定化と圃場管理の効率化によるコスト低減を図ることを目的とした。
●目標
(1)水稲におけるPFコンバイン(※)による圃場ごとのデータ蓄積及び活用による品質および収量の安定化
(2)KSASを活用した作業時間の見える化等による圃場管理及び経営の効率化
※※ PFコンバイン :Precision Farmingコンバインの略。ここでは食味(タンパク・水分)・収量測定機能付きコンバインを指す
新潟県上越市
上越市は農業産出額の8割が米となっており、水稲作中心の地域である。
基盤整備が進み、圃場の区画は概ね50aと大きいが、重粘土質の高地力な圃場から河川沿いの低地力の圃場まで、地力差の大きい地域でもある。
(1)PFコンバインによる作物データの測定と次年度施肥検討
PFコンバインにより、地力の異なる3ほ場の収量・玄米タンパク質含有率を測定した。いずれのほ場も登熟期間の日照不足の影響が大きく、低収量となった。
①Aグループ(河川沿いほ場、高地力ほ場)
生育旺盛であったAグループは玄米タンパク質含有率が高かったため、平成30年度は一発基肥肥料を1割減肥した。
②Bグループ(地力不明ほ場)
登熟以外良好であったBグループは施肥量を変更しないこととした。平成30年度は新たに施肥量自動調量ユニット付き田植機を使用し、施肥改善による収量・玄米タンパク質含有率の改善効果を検証した。
玄米タンパク質含有率と収量の分布図
(2)KSASによる作業時間の把握
①品目別の全作業時間
平成29年度は、当該年度の作業時間とKSAS導入前の作業時間を見える化し、比較を行った。省力化と効率化を進めた代かき、除草剤・病害虫防除、穂肥散布、稲刈り等で作業時間の低減ができた。一方、播種・育苗作業と移植作業はKSAS導入前より作業時間が増加しており、今後の課題としてあげられた。
平成30年度は、その課題を重点としつつ、水稲作業のさらなる効率化に向け、作業時間の低減を図った。
流し込みによる穂肥作業の省力化
②時期別の作業時間
平成29年度の作業時間を旬別(10日間ごと)に集計し、経時的な推移の見える化を行った。
水稲の移植時期である5月上中旬と収穫時期である8月下旬から9月末までは作業が集中し、常勤従業員4名では労働力が不足し、そのつど臨時雇用を複数いれることで対応していた。平成30年度は、水稲以外の園芸品目等を含めた経営全体として作業の平準化が図られるよう、作付計画や効率的な作業手法の検討が求められた。
平成30年度は平成29年度の結果をもとに作業時間を推定し、それをもとに効率的な作業計画を立てた。また、定期的に作業時間の進捗を確認し、そのつど作業の平準化を検討した。
左 :KSAS導入前後の作業時間の比較 /右 :平成29年度の作業時間の旬別推移
・品種 五百万石
・育苗様式 稚苗加温(露地プール)
・区割 3区
調査ほ周辺のほ場図
※法人による分類で、分析によるものではない
●主な栽培基準
・品種 :五百万石
・作型 :基肥一発体系
・水管理:移植後浅水管理→移植後30日で中干し→間断かん水・飽水管理
●施肥体系
(1)生育について
収穫適期の分散を図るため、ほ場No.3周辺は他のほ場に比べて移植時期を10日程度遅らせた。ほ場No.1と2については、移植期に低温・強風にあったため、活着がやや遅れた。その結果、移植30日後では目標茎数に達しておらず、中干しを3日程度遅らせた。
幼穂形成期の生育はいずれも良好であったが、7月が異常高温となった上、降水量が極めて少なく、出穂期以降の栄養状態の低下につながった。
(2)病害虫防除について
移植前の箱処理剤の施用により、病害虫の発生による生育への影響はなかった。
(3)雑草防除について
いずれのほ場でも適正な雑草防除が実施され、生育への影響はなかった。
(4)収量・品質について
出穂期以降も約2週間続いた異常高温と用水不足が、栄養状態の低下につながり、胴割粒の発生リスクも高まった。また、8月23日にはフェーン現象が発生し、籾が急激に乾燥したことで胴割粒が発生した。
玄米タンパク質含有率と収量の前年比較(PFコンバインの測定結果)
①河川沿いほ場(No.1)
平成29年度は生育が過剰傾向で、玄米タンパク質含有率が高かったため、一発基肥を1割減肥した。その結果、概ね目標収量を確保でき、玄米タンパク質含有率を適正範囲内で低下させることができた。
②高地力ほ場(NO.2)
①と同様に、平成29年度生育が過剰傾向で玄米タンパク質含有率が高かったため、一発基肥を1割減肥した。用水不足の影響が他のほ場よりも大きかったことから、結果として玄米タンパク質含有率は大きく低下し、また、収量も29年度に比べて減収した。
③地力不明ほ場(No.3)
一発基肥の施用量は平成29年度と同様とした。その結果、生育が良好であった上、8月中旬以降に土壌水分が高く保たれたことで、収量は増加した。一方、玄米タンパク質含有率は高くなった。ただし、収穫時の籾の水分が高く、玄米タンパク質含有率の測定値の誤差が大きくなった可能性が示唆された。
〇次年度以降の改善に向けて
一発基肥体系であるため、基肥の増減での施肥改善を図った結果、概ね収量・玄米タンパク質含有率の改善ができた。穂肥については現在一律同量の施用としているが、出穂12日前の葉色に応じて施用量を調整できれば、収量・玄米タンパク質含有率のさらなる改善につながると考えられた。
(5)品目ごとの全作業時間について
平成29年度同様に、品目ごとに30年度と29年度の全作業時間の比較を行った。また、次年度の作付計画や作業計画を立てる上で、作業時間の推定も重要となるため、29年度の実績作業時間に30年度の作付面積比率を乗じて、品目ごとに全作業時間を推定し、実績との比較を行った。
【推定式】平成30年度推定時間=平成29年度実績時間×(平成30年度作付面積/平成29年度作付面積)
①水稲
大豆を減らして業務用米の作付けを増やしたことで、29年度に比べ、水稲の作付面積は2ha(4%)増加となったが、水稲全体の作業時間は1.6%低減できた。気象的な要因で時間の増加した作業も見られたが、事前の段取り等を重点的に改善することで、さらなる時間低減につなげた。
29年度の実証結果から課題とした「播種・育苗」作業と「移植」作業に関しては、いずれの作業時間も低減できた。
「播種・育苗」作業については、作業員の配置と役割分担を見直したことと、スムーズな育苗プール設営に取り組むことにより、大幅に作業時間を低減させた。
「移植」作業については、29年度新たに作付けした江島地区において田植機の走行トラブルが多く見られたが、30年度では未然に防ぐことができた。また、一部直播を増やしたことで作業時間を低減できた。
平成29年度と比較した平成30年度の作業時間の増減
一方、いくつかの作業では時間の増加が見られた。
「除草剤散布・除草」作業では、用水不足によりマメ科のクサネムが例年より多発したため、除草作業が大きく増加した。また、異常高温による栄養状態の低下により、複数品種で追加穂肥を実施した。「稲刈り」作業については、収穫面積が増えたことに加え、晩生品種で倒伏があり、作業時間が増加した。
②園芸・大豆
作付面積が29年度と大きく変わった品目が多かったため、29年度の実績作業時間に面積比率を乗じて30年度の作業時間を推定した。
えだまめ専用コンバインを導入した29年度は一部手収穫を行っていたが、30年度は全面積を専用コンバインで収穫したことで、推定を大きく下回る作業時間に抑えることができた。ブロッコリーでは、畝立同時施肥機を導入したことで、推定より作業時間が低減されたが、収穫作業については作業員間で効率に差が見られることから、相互の連携を促し、改善を図る。大豆については5月の降水量が多く、ほ場の乾きが悪かったため、は種作業の速度が上がらず、推定に比べ時間増加となった。
平成30年度の推定作業時間と実績作業時間の比較
左 :エダマメ専用収穫機 / 右 :畝立同時施肥機
③作業時間の推定精度について
29年度の実績作業時間と30年度/29年度の作付面積比率を用いて作業時間を推定した。
規模拡大や作業体系の確立が進むことで効率の向上が想定されるものの、ある程度の推定が可能であると考えられた。品目ごとに目標とする作業時間の目安を設定できれば、より効率化を図ることにつながると考えられた。
〇次年度以降の改善に向けて
水稲については、30年度にハウス用のパイプを使った常設型の露地プールを設置したことで、次年度以降のプール設置と回収の作業の省力化が可能となる。また、収穫作業に手間を要するブロッコリーでは、選別を求めない出荷先と契約したことで、よりスムーズな収穫作業が可能となる。
(6)時期別作業時間の推移について
29年度と同様に旬別(10日間ごと)で作業時間の経時的な推移を「見える化」した。これにより、労働力の時期的な過不足が容易に把握できた。
①水稲
上記の「播種・育苗」と「移植」作業の効率化により、4月下旬と5月中旬の移植時期の作業ピークを17%減少できた。8月下旬から9月下旬の収穫時の作業ピークは、8月中旬に作業を移したことで9%減少できた。
水稲における平成30年度と29年度の旬別作業時間の比較
②全体
水稲で低減できた作業時間は、高収益な園芸品目に割り当てることができ、これまで以上の売り上げ増加につながった。
一方、5月上旬の作業ピークが昨年より12%増大したこと、また、作業の増加により、従業員のみで対応可能な作業時間を上回っていることから、作業計画の見直しが今後も必要である。
〇次年度以降の改善に向けて
旬別(10日間ごと)の作業時間の集計は、大まかな作業時間の推移の把握が可能であるが、作業日が数日ずれただけで大きくグラフが変わりうる(7月31日の作業が8月1日にずれた場合など)。3月を除き、ほとんどの期間で常勤作業員(4名)の作業量を上回っているため、余剰労働力はほとんどない。そこで次年度は、新規に常勤作業員を1名雇うこととした。
(7)平成31年度の旬別作業時間の推定
平成30年度の実績作業時間をもとに、31年度の作業時間を推定した。5月下旬から6月上旬では若干の作業時間の減少が見込まれるが、全体に作業時間の増加が見込まれる。より効率的な作業と、必要に応じた人手の確保が必要となる。
経営全体における平成31年度の旬別作業時間の推定
(1)田植え(田植機)
施肥量自動調量は、田植機とシステムとの同期が間に合わなかったため、実践ができなかった。簡易かつ迅速なデータ同期システムを求める。
(2)収穫時(PFコンバイン)
利点として、ほ場ごとに収量・玄米タンパク質含有率が測定・記録できる点があげられる。改善点としては、高水分籾でも誤差の少ない測定を求める。
PFコンバイン
(3)ほ場管理(KSAS:クボタスマートアグリシステム)
端末活用により作業記録が容易にできる。定期的に端末の位置情報も記録されるため、後からの振り返りにも活用できる。また、データを蓄積・分析することで、収量や作業時間等の経年推移を把握でき、改善につなげることができる。
改善点は、システムの利用には慣れが必要で、導入後すぐに活用することが難しい点があげられる。特に複数の作業員が一定のルールに従って正しく入力できるような項目の設定が必要と思われる。データ量が膨大となるため、一般農業者が簡易に見える化を図れるよう、自動集計のさらなる拡充を求めたい。リクエスト機能で、期間の選択や一定期間ごとの集計ができると活用しやすくなる。