提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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水稲経営では高齢化や急速な規模拡大に伴い、作業分散や省力化が求められている。水稲の移植栽培では育苗・移植に多くの作業時間を要しており、規模拡大にあたり育苗面積の確保や育苗管理、移植作業の負担が課題となっている。管内では省力化技術として大規模経営体を中心に鉄コーティング直播栽培が普及しているが、代かき作業が必要なことから、乾田化できる圃場では、より省力的な乾田直播栽培の普及が期待される。また、乾田直播栽培についてもドリルシーダーによる播種では、播種前に複数回耕起を行う必要があり、さらなる省力化のためには不耕起播種栽培の検討が必要である。
そこで、不耕起汎用ドリル「グレートプレーンズ」による実証を行い、省力化と安定的収量確保を実証するとともに、水稲経営における省力化・作業分散効果を明らかにし、経営メリット、収益性改善効果を検討した。
●千葉県香取市
香取市は県北東部に位置し、北は茨城県と接しており、東京から70km圏内、成田空港から15km圏内に位置している。市の北部には利根川が東西に流れ、その流域には水田地帯がひろがり、南部は畑を中心とした平坦地で北総台地の一角を占める。年平均気温は14.1℃と温暖である。
平成28年の農業産出額(推計)は402億円であり、内訳は乳用牛・肉用牛・豚・鶏等の畜産が135億円(33%)、野菜が94億円(23%)、いも類が80億円(20%)、水稲が76億円(19%)である。 平成29年産作況調査における水稲作付面積は6,030haと県内一である。平成27年農林業センサスにおける総農家数は4,029戸(販売農家数3,339戸)で農業就業人口5,118人、基幹農業従事者のうち65歳以上は65%で担い手不足・高齢化が課題となっている。
出芽・苗立ち | 能率と効果 |
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![]() 播種深度3cmで出芽始め (5月17日) ![]() 実証区1 苗立ち数 87.6本/m² ![]() 実証区2 苗立ち数 87.3本/m² |
出芽始めは5月17日。 出芽揃いは5月27日で、実証区1は苗立ち数87.6本/m²、実証区2は苗立ち数87.3本/m²で苗立ち率は63%であった。 |
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(1)播種精度について
播種量は4.01kg/10aとほぼ設定どおりで、播種精度は高かった。
播種6日前に52mmの降雨があり、圃場がやや柔らかい状態であったため、播種前にケンブリッジローラで鎮圧を行った。播種床がやや柔らかかったため、一部設定播種深度(3cm)よりも2~3cm深く播種された場所があり、途中で調整をしながら播種を行った。
実証区1、2の順に播種を行ったが、時間の経過により土壌の乾燥が進んだこともあり、実証区2の方が比較的播種深度が安定していた。
(2)発芽・苗立ちについて
主に実証区1で、設定播種深度(3cm)よりも2~3cm深く播種された一部場所において、出芽が7日~10日程度遅れ、苗立ち数にもばらつきが見られた。圃場全体で平均すると実証区1は苗立ち数87.6本/m²、実証区2は苗立ち数87.3本/m²で苗立ち率は両区とも63%であった。
(3)除草剤の効果と薬害の所見について
実証区1、2では、播種の翌日に非選択性除草剤のラウンドアップマックスロードと土壌処理剤のマーシェット乳剤を混用散布したが、翌日の降雨により、一部で除草効果が低下、雑草の発生が見られたため、クリンチャーEWの散布を行った。さらに、出芽ムラにより入水まで時間がかかったため、入水前にクリンチャーバスME液剤の散布を行った。雑草発生は部分的であったので、降雨がなければ効果は高かったと考えられる。
浸種籾の播種の場合、7日~10日程度で出芽する。通常は、播種後~出芽前の雑草生育期にラウンドアップマックスロードとマーシェット乳剤を散布すべきだが、播種後に天候不良が続くと予想されたため、播種翌日の散布とした。
実証区は出芽遅れ、慣行区はカモの害により忍フロアブルの散布を遅らせたため、収穫時には少量のヒエ、クサネム、タデの残草が見られたが、収量に影響を及ぼすほどの発生量ではなかった。
実証区、慣行区ともに使用した除草剤の除草効果は高く、薬害は見られなかった。
(4)生育について
慣行区に比べ、実証区1、2ともに幼穂形成期の草丈は高く、茎数は多かったが、葉色がやや淡く、幼穂形成期の6日後に追肥を行った。その後慣行区では出穂期、出穂後10日と葉色が低下したが、実証区1、2では追肥により葉色の値が高く維持された。
実証区1、2を比較すると実証区1で生育期間全体を通し、草丈、茎数、葉色がやや高い結果となった。
(5)病害虫防除について
慣行区では殺虫殺菌剤の箱施薬は実施しなかった。実証区1、2では7月中旬に一部葉いもちが発生したため、7月下旬に空中散布による防除を実施、その後の進展は見られなかった。その他、慣行区・実証区において紋枯病の微発生が見られたが、収量に影響を与えるような発生量ではなかった。
(6)収量・品質について
実証区1は慣行区に比べ、穂数の増加によりm²当たりの籾数が多く、追肥により千粒重が高くなったことで、登熟歩合の低下をカバーでき、実収量は同等となった。
実証区1、2を比較すると千粒重は同じであるが、実証区1の方が1穂粒数、㎡当りの籾数、登熟歩合が高く、実収量も実証区1で高い結果となった。
収量調査
県の目標値 :10a当たり収量 (550~600kg)
実証地区の目標値 :10a当たり収量 (564kg)
※飼料用米のため、実収は屑米を含めた値
実証区の作業時間は慣行区より約1.4h/10a少なくなり、省力効果が確認された。昨年までは、耕起2回→バーチカルハロー→播種→鎮圧という作業体系であったが、今年度の実証では、従来の体系に比べ耕起1回とバーチカルハローの作業が省力化された。今回は耕起を1回行った後に実証試験を行うことが決まったため、播種前に1回耕起を行っているが、不耕起で播種することで、さらなる省力化が期待される。
作業時間
慣行区と実証区では収量はほぼ同等で、種苗費、肥料費、農業薬剤費等の原材料費が高くなったことで、所得は低くなった。しかし、10a当たりの作業時間は慣行区対比76%と短縮しており、乾田直播を導入し、経営面積を24haから35haへ規模拡大することで、所得が上がると試算された。
収支 (万円)
経費(円/10a)
実証農家では、法人Aの作業によりレーザーレベラーが不要であり、減価償却費の計算においても法人Aの麦栽培に使用可能な機械についてはその他面積に計上し、慣行に比べ減価償却費を低く抑えることができている。
今回実証した栽培体系では、圃場の均平にレーザーレベラー、播種作業に97ps以上のトラクタ、農薬散布にブームスプレーヤーが必要で、これらの機械設備がある大規模経営体や麦の栽培を行う経営体での導入が望ましい。