提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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●背景
人吉市中神町の大柿地区では、管内他地域と同様に、高齢化、担い手不足の進行が著しく、農地集積加速化事業の重点地区への指定を契機として、平成26年5月に「大柿営農生産組合」(以下、「生産組合」)が設立された。
営農生産組合では、設立当初から省力化による将来の規模拡大を想定し、水稲の鉄コーティング直播栽培に取り組んできたが、過去2年は、気象条件や作業競合での逸機によりスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の加害が著しく、播き直しや苗の移植を余儀なくされ、労力を要したうえに生育・収量も不良で、直播栽培の有用性を見いだせずにいた。しかし、地域の担い手としての営農生産組合の今後の継続・発展のためにも、その課題解決が急務であった。
今回、水稲鉄コーティング直播栽培におけるスクミリンゴガイ防除法として、耕種的方法と播種同時薬剤施用を組み合わせが有効な技術と考えられたので、その実用性について検討することとした。
●ねらい
水稲を中心とした営農組織において、鉄コーティング湛水直播栽培技術による省力化と、作業の分散化を実証し、慣行の移植栽培と比べての長所、短所を明らかにして、今後の本格的な技術導入に資する。
特に今回は、最大の不安定要因となっているスクミリンゴガイに対し、その省力的・効果的な防除方法の確立を図る。
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作溝 | 能率と効果 |
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作業日:4月13日 ●スクミリンゴガイ防除対策として、圃場周辺に溝を作り、落水時に溝内にスクミリンゴガイを誘導することで、食害を防ぐ ●型式 トラクター(クボタ KT230) リターンデッチャ |
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1.鉄コーティング直播
コーティング比率は0.5倍。播種精度は、発芽率が62%と低かったため、播種量を10粒/株と設定したが、実播種数は6~10粒/株とやや少なかった。前日の降雨等の影響でほ場は代かき5日後でもやや軟らかかったが、籾の埋没は少なく、作業は問題なく実施できた。
播種同時で使用した薬剤散布機(ツインこまき)については、精度・能率は概ね期待通りだった。鳥害は見られなかった。
播種後3日目から発芽が見られたが、揃いは著しく不良で、播種後15日目でも出芽率は33%と低かった。苗立率も35%(苗立数2.8本/株=45本/㎡)であったが、これは種子形質によるもので、鉄コーティングの影響ではないと考えられた。苗立数は少なかったものの、気象条件が良好で初期から旺盛な生育を示し、両区とも茎数は十分に確保された。
2.雑草及び病害虫(スクミリンゴガイ)
代かきから播種までが5日と長く、播種同時の除草剤施用量が規定量よりやや少なかったこともあり、播種後3日目からホタルイが発生した。しかし、再入水時の初中期一発剤の施用により抑制できた。薬害も認められなかった。
スクミリンゴガイ防除については実証区では、播種同時の薬剤散布により殺貝と活動抑制を行うとともに、自然落水後は残ったスクミリンゴガイを周縁溝内に閉じ込めることで、出芽直後の食害は全く見られなかった。再入水後、田面に侵入する個体もあったが、2回目の薬剤散布により被害はなく、欠株の発生は見られなかった。
慣行区では、薬剤散布は行わなかったものの、やや大苗であったことや移植後の浅水管理により食害は見られなかった。しかし、実証区隣接の一般移植圃場では、深水部分でスクミリンゴガイの食害を受け、補植が行われていた。
これらのことから、周縁部作溝と薬剤防除を組み合わせた実証技術は、スクミリンゴガイ防除として有効であると考えられる。その他の病害虫としては、両区とも穂いもちと紋枯病が見られたが、収量に影響するほどではなかった。トビイロウンカの被害も見られなかった。
3.収量と品質
収量は、坪刈で449kg/10a(慣行区の79%)、実収は420kg/10a(同75%)と低収であった。品質も検査等級が3等の中(慣行区は2等の下)と低下した。玄米タンパク質は6.2%(慣行区は6.8%)であった。
今回、通常の移植栽培用一発肥料を使用したため、施肥時期と肥料の窒素成分溶出パターンが水稲の生育と合わず、幼穂形成期以降に肥効切れとなって有効茎歩合が低下し、一穂籾数も減少して籾数が大きく減少したことと、千粒重の値も極端に低下したことが減少した要因と考えられる。
また、生育期間を通じて高温(平年の+1.1℃)で推移したこともその傾向を助長したと考えられる。今後、直播栽培に適合した肥料の選定など、施肥法を検討する必要がある。
品質については、気温が出穂期前後に平年より2~3℃、登熟後期に2~5℃高く推移したため、白未熟粒の多発により著しく低下した。また、実証区についてはこれに肥効切れによる充実不良が加わり、さらに低下したものと考えられる。
気象経過概要
収穫作業で使用した食味・収量センサ付コンバインの収量予測値は、実収との誤差がわずかで精度が高かった。玄米タンパク質含有率は、乾燥調製後の玄米測定値より高めの値が表示された。
4.経済効果
実証区では、選択した肥料の不適合により大幅に収量が低下したことと、スクミリンゴガイ防除のための農薬費及び試作機を含めた大型機械使用作業体系による減価償却費が大幅に増加したため、慣行区に比べて所得はかなり少ない結果となった。
ただし、一般的な直播栽培と同様に、移植栽培の90%以上の収量確保は十分可能と考えられる。また、作業労力軽減・分散に伴う作付面積拡大等により、慣行並みの所得確保は可能であると思われる。
作業時間(時/ha)
収支計算表
5.実証農家の声
2年前から直播栽培に取り組んできたが、出芽不良で播き直したり移植を行ったりと手間がかかり、鉄コーティングに問題があるのではと思っていた。しかし今回の実証で、薬剤散布の時期や水管理が不適切なためにジャンボタニシの被害を受けていたと理解した。
薬剤費の低減を考える必要はあるものの、被害防止対策が明らかになったので、今後は、直播栽培をWCS用稲だけでなく主食用米へ拡大していくめどがたった。
6.今後の課題
・収量及び品質向上のための直播栽培に適した肥料の選定及び施肥量の検討
・生産費低減のためのスクミリンゴガイ防除薬剤等及び除草剤の効率的施用法の再検討
・規模拡大のためのオペレーター確保、狭小圃場での均平化技術の向上
(平成28年度 熊本県県南広域本部球磨地域振興局農林部農業普及・振興課、熊本県農林水産部生産経営局農業技術課農業革新支援センター)