提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


稲作

飼料用稲の省力・低コスト・安定生産技術に関する実証調査(福島県 平成27年度)

背景と取組みのねらい

●背景
 東日本大震災による津波被災及び原子力災害地区である福島県南相馬市原町区は、営農再開を加速させ、農業の再生・復興を図ることが急務となっている。今後営農の本格的な再開に向けては、担い手が管理する栽培面積は拡大が見込まれることから、省力化と低コスト化を図った水稲経営を行うことが重要となり、特に、育苗作業や苗を運搬する移植作業の見直しが課題である。

●ねらい
・水稲主体の農業法人の経営規模拡大に向けて、湛水直播技術導入による春作業の分散化を実証する。
・鉄コーティング点播の技術実証を行い、慣行の移植栽培との長所、短所を明らかにし、地域における今後の本格導入を検討する。
・湛水直播の経営メリット、収益性改善効果を調査し、地域への導入計画を策定する。

対象場所

●南相馬市原町区泉
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(地図をクリックすると拡大します)


 南相馬市は、福島県浜通り北部の沿岸部に位置している。当地区は、稲作主体の地域であったが、東日本大震災以降の営農再開が進むにつれ、担い手へ急激に農地・作業受託が集積しており、春作業の集中や苗運搬の重労働をともなう移植栽培だけでは対応が難しくなっている。
 そのため、鉄コーティング直播栽培による省力・低コストの効果が期待されている。

実証した作業体系(作業名と使用機械)

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耕種概要


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 移植栽培では、坪当たり60株、株当たりの植え付け本数4本程度が標準的である。
 湛水直播栽培では、目標苗立本数を1㎡当たり80~100本としている。
 飼料用米は、経営所得安定対策により安定的に収益を確保できること、水田フル活用の中で所有する水稲作業機械をそのまま利用でき、大豆・麦に比べ省力的に作業できることから、実証調査に取り上げることとした。

作業別の能率と効果


1.種子コーティング作業 能率と効果
 
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自動コーティングマシン

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鉄コーティング籾酸化装置


≪種子コーティング作業≫
作業日:4月13日
コーティング比率:0.5倍
自動コーティングマシンによるコーティング作業はムラなく仕上がり、使い勝手も良好であった。

●型式
自動コーティングマシン(TC40)


≪鉄コーティング籾酸化作業≫
作業日:4月13~15日
籾酸化装置による籾酸化作業は、省力化でき、発熱の心配がなく、スペースも必要としないため、大規模面積を実施するには有効である。

●型式
鉄コーティング籾酸化装置(TSN100)

2.播種、施肥、除草剤散布 能率と効果
 
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高速点播機による播種作業

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播種日:4月30日
播種量:2.4kg/10a
株 間:18cm
播種粒数:3.4粒/点
肥 料:スーパーてまいらず
    28.9kg/10a
除草剤:オサキニ1キロ粒剤
    1.0kg/10a

播種量設定は3.0kg/10aであったが、実播種量は2割減となった。 播種時の田面がやや柔らかく、沈み込みが心配されたが、問題はなかった。

●型式
鉄コーティング直播点播機(EP8)
鉄まきちゃん(NDS-80F)

3.生育状況能率と効果
 
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分げつ開始
(播種43日後)

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 最高分げつ期頃
(播種71日後)

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 穂揃い期
(播種102日後)

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 生育データ


出芽率:98%
苗立ち率:88%
苗立ち本数:54.9本/㎡
除草剤:5月22日
    忍フロアブル
    500ml/10a

播種16日後に出芽揃いとなった。苗立ち率は確保したが、苗立ち本数は目標を下回った。

6月中旬から分げつ発生が旺盛となり、最高分げつ期の茎数は619本/㎡で、慣行区を上回った。

各生育ステージは、慣行区より5~7日遅れたが、有効茎歩合や一穂籾数には差がなかった。

除草剤による雑草の抑制効果は良好で、薬害は見られなかった。

4.収穫能率と効果
 
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成熟期(播種146日後)

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収穫風景


収穫日:9月23日

実収量は、450kg/10aで目標として設定した512kg/10aを下回った。
㎡当たり籾数は慣行区と同程度であったが、稔実歩合と千粒重が低かったため、収量は慣行区をやや下回った。

●型式
コンバイン(クボタ ER6120)

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察

 自動コーティングマシーンを使用した種子コーティング作業は、コースタイマーをセットし焼石膏をポイントで投入するだけで、ムラなくコーティングが仕上がり、使い勝手が良い。また、作業人員の削減と作業の効率化が図られ、大量の種子コーティングに対応できる。
 鉄コーティング籾酸化装置の利用は、作業を軽労化し、発熱による発芽不良も防ぐことができ、狭いスペースでの作業が可能となるため、大規模面積を実施するには有効と考えられる。酸化中に行う「種子のもみほぐし」作業も労力的には軽く、問題がなかった。

 鉄コーティング直播点播機による播種作業は、田面が柔らかくスリップ率がやや高かったため、実播種量が設定量の2割減となったが、実用上の問題はないと思われる。また、種子の沈み込みも心配されたが、問題は見られなかった。出芽率は98%と高く、苗立ち率も88%と高かったが、播種量が少なかったため、苗立ち本数は54.9本/㎡と目標(80~100本/㎡)を下回った。
 鳥害対策として、実証区で播種前に忌避剤(キヒゲンR-2フロアブル)を塗布したが、実証区を含め周辺ほ場への鳥の飛来がほとんど見られず、忌避剤の効果は確認できなかった。
 播種時+稲1.5葉期入水時の除草剤散布による雑草の抑制効果は高かった。また、いもち病や斑点米カメムシ類による被害は見られなかった。実証区では、稲1.5葉期入水時に殺虫剤(トレボン粒剤)を散布し初期害虫の被害はなかったが、初期害虫の発生が少なく周辺直播ほ場では無防除でも被害がなかった。

 6月中旬から分げつが発生し、最高分げつ期の茎数は慣行区比で105%と多かった。実証区の各生育ステージは、慣行区より5~7日遅れた。有効茎歩合と一穂籾数は、実証区と慣行区で差がなかった。

 放射性物質対策として、土壌の籾等への付着がないよう倒伏を防止する施肥量としたため、実収量は両区とも目標収量(512kg/10a)を下回った。実証区は、慣行区に比べ稔実歩合と千粒重が低かったため、収量がやや低かった。8月中旬~9月上旬が低温寡照で経過したため、実証区は慣行区より5日遅い8月5日の出穂期だったため玄米肥大時期に低温寡照の影響をより長く受け、登熟が劣ったと考えられる。

≪作業時間と経営評価≫
 実証区の播種作業は、慣行区の移植作業と比較して作業速度が速く、作業時間が慣行区比72%と短縮でき、また、移植作業の苗運搬や苗補給が省略され、作業補助者には好評であった。
 しかし、稲1.5葉期の雑草及び病害虫防除は、慣行区にはなく、作業負担となった。また、ほ場における生育期間が慣行区より長くなるため、水管理等の管理作業の時間が長くなった。
 実証区の総作業時間は、慣行区比108%だった。これは、慣行区で苗を購入し育苗に係る作業時間がない事を考慮すれば、鉄コーティング直播栽培の導入による省力化が実証できたと言える。

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鉄コーティング導入後の労働ピークと規模拡大の試算表

(図をクリックすると拡大します)



 実証区は慣行区より収量が低かったため、売上金額で10a当たり420円少なくなった。また、防除と管理の作業時間が長くなったため、労務費は10a当たり630円多くなった。
 しかし、慣行区に比べ種苗費が少なくなり、生産費は10a当たり2,055円少なくなった。

 以上の結果、今回の調査において実証区は慣行区と比較し、収量減や作業時間増ではあったが、生産費が削減できたことから、規模を拡大することで慣行の移植体系よりも所得向上が見込まれる。

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(図をクリックすると拡大します)


●今後の課題
・安定した収量を確保するためには、①苗立本数、②有効茎数、③㎡当たり籾数、等の指標を示し、地域にあった栽培マニュアルを作成する必要がある。
・より省力化を図るため、8条点播機で播種時に殺虫殺菌剤を同時散布できる装置が求められる。
・除草は、播種同時散布のみで移植栽培並に雑草抑制ができないか、条件や薬剤等の検討が必要である。

●実証年度及び担当普及センター等
(平成27年度 福島県農林水産部農業振興課、福島県相双農林事務所農業振興普及部)