提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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●背景
東日本大震災による津波被災及び原子力災害地区である福島県南相馬市原町区は、営農再開を加速させ、農業の再生・復興を図ることが急務となっている。今後営農の本格的な再開に向けては、担い手が管理する栽培面積は拡大が見込まれることから、省力化と低コスト化を図った水稲経営を行うことが重要となり、特に、育苗作業や苗を運搬する移植作業の見直しが課題である。
●ねらい
・水稲主体の農業法人の経営規模拡大に向けて、湛水直播技術導入による春作業の分散化を実証する。
・鉄コーティング点播の技術実証を行い、慣行の移植栽培との長所、短所を明らかにし、地域における今後の本格導入を検討する。
・湛水直播の経営メリット、収益性改善効果を調査し、地域への導入計画を策定する。
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移植栽培では、坪当たり60株、株当たりの植え付け本数4本程度が標準的である。
湛水直播栽培では、目標苗立本数を1㎡当たり80~100本としている。
飼料用米は、経営所得安定対策により安定的に収益を確保できること、水田フル活用の中で所有する水稲作業機械をそのまま利用でき、大豆・麦に比べ省力的に作業できることから、実証調査に取り上げることとした。
4.収穫 | 能率と効果 |
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![]() 成熟期(播種146日後) ![]() 収穫風景 |
収穫日:9月23日 実収量は、450kg/10aで目標として設定した512kg/10aを下回った。 ㎡当たり籾数は慣行区と同程度であったが、稔実歩合と千粒重が低かったため、収量は慣行区をやや下回った。 ●型式 コンバイン(クボタ ER6120) |
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自動コーティングマシーンを使用した種子コーティング作業は、コースタイマーをセットし焼石膏をポイントで投入するだけで、ムラなくコーティングが仕上がり、使い勝手が良い。また、作業人員の削減と作業の効率化が図られ、大量の種子コーティングに対応できる。
鉄コーティング籾酸化装置の利用は、作業を軽労化し、発熱による発芽不良も防ぐことができ、狭いスペースでの作業が可能となるため、大規模面積を実施するには有効と考えられる。酸化中に行う「種子のもみほぐし」作業も労力的には軽く、問題がなかった。
鉄コーティング直播点播機による播種作業は、田面が柔らかくスリップ率がやや高かったため、実播種量が設定量の2割減となったが、実用上の問題はないと思われる。また、種子の沈み込みも心配されたが、問題は見られなかった。出芽率は98%と高く、苗立ち率も88%と高かったが、播種量が少なかったため、苗立ち本数は54.9本/㎡と目標(80~100本/㎡)を下回った。
鳥害対策として、実証区で播種前に忌避剤(キヒゲンR-2フロアブル)を塗布したが、実証区を含め周辺ほ場への鳥の飛来がほとんど見られず、忌避剤の効果は確認できなかった。
播種時+稲1.5葉期入水時の除草剤散布による雑草の抑制効果は高かった。また、いもち病や斑点米カメムシ類による被害は見られなかった。実証区では、稲1.5葉期入水時に殺虫剤(トレボン粒剤)を散布し初期害虫の被害はなかったが、初期害虫の発生が少なく周辺直播ほ場では無防除でも被害がなかった。
6月中旬から分げつが発生し、最高分げつ期の茎数は慣行区比で105%と多かった。実証区の各生育ステージは、慣行区より5~7日遅れた。有効茎歩合と一穂籾数は、実証区と慣行区で差がなかった。
放射性物質対策として、土壌の籾等への付着がないよう倒伏を防止する施肥量としたため、実収量は両区とも目標収量(512kg/10a)を下回った。実証区は、慣行区に比べ稔実歩合と千粒重が低かったため、収量がやや低かった。8月中旬~9月上旬が低温寡照で経過したため、実証区は慣行区より5日遅い8月5日の出穂期だったため玄米肥大時期に低温寡照の影響をより長く受け、登熟が劣ったと考えられる。
≪作業時間と経営評価≫
実証区の播種作業は、慣行区の移植作業と比較して作業速度が速く、作業時間が慣行区比72%と短縮でき、また、移植作業の苗運搬や苗補給が省略され、作業補助者には好評であった。
しかし、稲1.5葉期の雑草及び病害虫防除は、慣行区にはなく、作業負担となった。また、ほ場における生育期間が慣行区より長くなるため、水管理等の管理作業の時間が長くなった。
実証区の総作業時間は、慣行区比108%だった。これは、慣行区で苗を購入し育苗に係る作業時間がない事を考慮すれば、鉄コーティング直播栽培の導入による省力化が実証できたと言える。
鉄コーティング導入後の労働ピークと規模拡大の試算表
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