提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農業のポータルサイト みんなの農業広場

MENU

全国農業システム化研究会|提案一覧


稲作

大区画圃場での水稲鉄コーティング直播の実証(山形県 平成27年度)

背景と取組みのねらい

●背景
・実証圃を設置した地区では、基盤整備による圃場の大区画化および法人化が進んでいる。
・メロン、ミニトマト等の園芸作物との複合経営が多く、春作業の競合が課題となっており、より省力的な水稲栽培が求められている。
・県内での大区画圃場での鉄コーティング直播栽培の実証例は少なく、収量・品質に不安があり、地域に応じた技術確立が求められている。

●目標
 大区画圃場における鉄コーティング湛水直播栽培による収量の安定化および省力・低コスト化を実証する。

対象場所

●山形県鶴岡市
2015_sys_yamagata_map3.jpg

(地図をクリックすると拡大します)


 鶴岡市は、山形県庄内地方の沿岸部に位置し、面積は1,312k㎡で、出羽三山付近の中山間、平坦部の水田と、海側の砂丘畑によって構成されている。年間の日平均気温が12.5℃と、県内では比較的温暖な気候であるが、沿岸部であるため風の強い地域である。
 農家戸数のうち、主業農家と準主業農家の比率は66.9%(H22)で、県全体の57.1%と比較すると高い。農業産出額(耕種)は265億円(H18)で、その56.7%を水稲が占めており、水稲への依存度は高い。平成27年産の水稲作付面積は11,300haで、「はえぬき」が主力品種となっている。
 とくに、実証圃のある西郷地域では、土地利用型作物部門は法人化および基盤整備による大区画化が進んでいる一方、砂丘地でのメロン栽培等園芸作物が盛んであり、複合経営を営む農家が大部分を占める。
面積、農家戸数、産出額は農林水産統計、山形県農林水産統計年報を参照

実証した作業体系(作業名と使用機械)

2015_sys_yamagata_z2-2.jpg

耕種概要

2015_sys_yamagata_z1.jpg

作業別の能率と効果

プラウ耕、砕土、均平作業能率と効果
 2015_sys_yamagata_1.jpg
プラウ耕

 2015_sys_yamagata_2.jpg
均平

 2015_sys_yamagata_z3.jpg

 

・プラウ耕起は、土壌含水比68%と高めの条件であったが、耕深15cmが確保され、作業性、作業精度ともに問題なかった。
作業時間0.26時間/10a、
燃料消費量1.7L/10aであった。

・砕土・整地は、
作業時間0.14時間/10a、
燃料消費量2.2L/10aであった。

・均平は、受光器を使用して高度差測定を行った結果、最大誤差は23mmで、±30mm以内の誤差となり、充分な均平度が得られた。
作業時間0.20時間/10a、
燃料消費量3.4L/10aであった。

●型式
トラクター(SMZ955-PC)
プラウ(CRLA143)
バーチカルハロー(DC230SP)
レーザーレベラー(LT410SL2)

鉄コーティング作業能率と効果
 2015_sys_yamagata_3.jpg
鉄コーティング

 2015_sys_yamagata_4.jpg
自動酸化装置


作業日:4月10日
資材量:
乾籾:鉄粉:焼石膏
=1.0:0.5:0.075
(焼石膏は仕上げ用含む)

・積算水温60℃で浸種した種籾に鉄粉と焼石膏の混合物をコーティングし、放熱を促進させるため、自動酸化装置により、5日間酸化・放熱させた。

・コーティング作業は、自動コーティング・酸化装置を用いたため、短時間で終了した。育苗作業開始前にコーティング作業が行えるメリットは大きい。

●型式
自動コーティングマシン
(TC40+KNGM-3M7)
自動酸化装置(TSN100)

播種・施肥・除草剤散布能率と効果
 2015_sys_yamagata_5.jpg
播種時の様子

 2015_sys_yamagata_6.jpg
 ゴルフボールで確認

 2015_sys_yamagata_7.jpg
播種直後


播種日:5月5日
肥料:低PK500塩加燐安
(15-10-10)
除草剤:サンバード1キロ粒剤30
  1kg/10a

・播種量は4.0kg/10aに設定。
播種ムラも少なく、おおむね目標量が播種された。

・播種作業の後半になると、田面の乾燥が進んでやや固くなったため、点播がばらける傾向であった。

●型式
駆動部(EP8D)
播種機(10条側条施肥直播機)

生育状況能率と効果
 2015_sys_yamagata_8.jpg
出芽・苗立ちの状況

 2015_sys_yamagata_z4.jpg
 草丈の推移

 2015_sys_yamagata_z5.jpg
 茎数の推移

 2015_sys_yamagata_z6.jpg
 葉色の推移


・播種後は好天に恵まれ、出芽始めまでは順調であった。

・落水管理および浅水管理時に南西から強風を受ける日があり、田面水が北側に寄せられ、南側は圃場の乾燥が進んだり、田面が露出するなどした。
強風による田面水の波立ちによる種子のかくはんは見られなかったが、落水時の強風により種子がやや動かされた。

・苗立ち率は58%、苗立ち本数は78本/㎡と目標より低くなり、苗立率に地点ごとの大きなバラツキはなかったが、1葉展開までの日数はややバラツキがあった。

・強風により浅水状態になったり、田面が出やすい圃場の南西側にヒエが見られ、ヒエの葉齢展開も早かった。除草剤の効果はあったが、計画よりも1剤多く使用することとなった。薬害は見られなかった。

・播種後~幼穂形成期の7月までは、総じて気温も高く、日照時間も多かった。そのため生育は順調で、実証区は6月下旬から慣行区と同等の茎数で推移し、穂数も同等となった。慣行区のはえぬきと比較し、草丈がやや短く、葉色がやや濃いのは品種特性によるものであると考えられる。

除草剤散布能率と効果
 2015_sys_yamagata_9.jpg
除草剤散布作業


・実証区は播種同時散布(サンバード1キロ粒剤30)を行った。

・ヒエの発育が早かったため、イネ1葉期に落水して、クリンチャーEWを散布した。その後の一発処理剤(トップガンL250)を施用した。
・成熟期の残草はヒエが散見される程度で、除草効果は良好だった。

●型式
ハイクリブーム(BSA500JDE)

収穫能率と効果
 2015_sys_yamagata_10.jpg
成熟期

 2015_sys_yamagata_11.jpg
収穫風景


収穫日:9月30日

・1.5ha圃場を8分割し、収量・食味センサー付きコンバインで刈取りを行った。大区画圃場でも大きなムラはなく、均一な収量・食味を確保できた。

・実証区の出穂期となった8月中旬頃(慣行区の出穂の約10日後)から成熟期までの低温・日照不足や、8月下旬の強風の影響が慣行区より実証区で大きかったため、登熟歩合の低下、未熟粒の増加による品質の低下、玄米粗タンパク質含有率の上昇という結果となった。

・屑米が想定より多かったため、実収量との差が大きくなったが、総籾重を比べると差はほとんどなく、精度が高かった。

・実証区の歩刈収量は543kg/10a(慣行区の97%)、検査等級一等、玄米粗タンパク含有率6.0%(慣行区5.1%)となった。

●型式
収量・食味センサー付き6条コンバイン(R1301)

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察

●成果
1.播種量は3.8kg/10a、播種粒数7.2粒/点で、おおむね目標量が播種された。田面がやや乾燥した状態で播種されたため、点播がばらける傾向にあったものの、播種精度は高く、欠株や播種ムラも認められなかった。

2.播種後は好天に恵まれ、出芽始めまでは順調であった。落水管理および浅水管理時に南西から強風を受ける日があり、田面水が北側に寄せられ、南側は圃場の乾燥が進んだり、田面が露出するなどがあった。強風による田面水の波立ちによる種子のかくはんは見られなかったが、落水時の強風により種子がやや動かされた。苗立ち率は58%、苗立ち本数は78本/㎡と目標より低くなり、1葉展開までの日数はややバラツキがあった。

3.初期除草剤散布後、強風により田面が露出しやすい圃場の南西側にヒエが見られ、ヒエの葉齢展開も早かった。対応策として、イネ1葉期(ヒエ3.5葉期)にクリンチャーEWを散布し、その後に一発処理除草剤を散布した結果、残草はほとんど見られなかった。

4.播種後~7月までは、総じて気温も高く、実証区は6月下旬から慣行区と同等の茎数、穂数となった。歩刈収量は、543kg/10a(慣行区の97%)、検査等級一等、玄米粗タンパク含有率6.0%(慣行区5.1%)となった。実証区の出穂期頃(慣行区の出穂の約10日後)から成熟期の低温・日照不足や、8月下旬の強風の影響が慣行区より実証区で大きく、登熟歩合の低下、未熟粒の増加と玄米粗タンパク質含有率が上昇する要因となった。

5.実証区は、大型機械導入+省力技術を組み合わせた直播栽培体系で、労働時間4.48h/10a(慣行区の48%)と大幅に省力化できた。

作業時間の比較

2015_sys_yamagata_z7-2.jpg
(注)ラウンドの関係上、合計と内訳が一致しない

(表をクリックすると拡大します)



6.実証区は、肥料費・農薬費は対照区とほぼ同額だが、育苗に係る施設・資材費を削減できる効果が大きかった。しかしながら、大型機械による作業体系のため、減価償却費が増加した。当地域で可能と試算される最大面積である22haすべてにこの直播栽培体系を導入した場合、減価償却費を抑えることで、慣行区と同等の所得が得られると試算された。省力効果が大きいため、規模拡大は可能であると考えられる。

●今後の課題
大区画圃場のため、強風による田面水の吹き寄せ対策が必要で、初期の水管理を均一にする必要がある。生育の安定により収量面の向上を図るとともに、より低コスト、省力化をめざし、慣行で行われている一発肥料の使用や、流し込みによる除草剤散布および施肥についてさらに検討を重ね、地域での普及を図る。

(平成27年度 山形県農林水産部農業技術環境課、山形県庄内総合支庁農業技術普及課)