提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


稲作

鉄コーティング技術による水稲直播における特別栽培体系の実証(山形県 平成26年度)

背景と取組みのねらい

●背景
 実証地域の余目町農業協同組合管内では、水稲の収益性向上を目指し、低コスト技術の実証と導入に積極的に取り組んでいる。現在、湛水直播栽培面積は約80ha(主食用・飼料用合計)であり、鉄コーティング種子を用いた湛水直播栽培が主流となっている。しかし、当管内では特別栽培の面積比率が高く、共同乾燥調製貯蔵施設の利用率が高いため、慣行栽培で、しかも収穫時期の遅い直播栽培は、作付面積を拡大しにくい状況にある。そうした中で、直播栽培の省力・低コスト技術により、育苗管理、移植作業省略、作期分散による労力とコストの低減を図るとともに、特別栽培を組み合わせて、直播による特別栽培技術の安定性を実証し、地域に広く普及させるための優良事例とする。

●目標
 鉄コーティング種子を用いた直播栽培、基肥一発肥料、播種同時除草剤散布による省力・低コスト化と、特別栽培による高品質・良食味米の安定生産を確立する。

対象場所

●山形県東田川郡庄内町余目地区
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(地図をクリックすると拡大します)


 庄内町は、山形県庄内地方の中央部に位置し、面積は249k㎡、余目町と立川町の合併により平成17年に庄内町となった。実証圃のある旧余目町は、中山間・山間部が無く平坦部のみで構成されている。平坦部は、年間の日平均気温が11.7℃(2014年アメダス狩川)と、県内では比較的温暖な気候である。庄内町の農家戸数のうち、主業農家と準主業農家の比率は69.7%(平成22年)であり、県全体の57.1%と比較すると高い。農業産出額は67億円(平成18年)で、その85%を水稲が占めており、水稲への依存度は高い。平成26年産の水稲作付面積は4,370haであり、「はえぬき」が主力品種となっている。
面積、農家戸数、産出額は農林水産統計、山形県農林水産統計年報を参照

実証した作業体系(作業名と使用機械)

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耕種概要

●品種
つや姫(山形県奨励品種)
 ①出穂期・成熟期ともコシヒカリ並
 ② 耐倒伏性はコシヒカリより強い
 ③ 玄米に光沢があり、白未熟粒の発生が少なく高品質

●区の設計

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作業別の能率と効果

種子予措・鉄コーティング作業能率と効果
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鉄コーティング作業の様子
 

≪種子予措≫
浸種:3月20日~26日
積算水温:60℃
       (10℃で6日間)

≪鉄コーティング作業≫
作業日:3月26日
資材量:乾籾(種子)1kgに対し、
・鉄粉 0.5kg
・焼石膏 0.075kg

浸種した種籾に鉄粉と焼石膏の混合物をコーティングし、放熱を促進させるためブルーシートに薄く広げ、水の噴霧・撹拌により10日間酸化・放熱させた。

●型式
コーティングマシン(KC-152)

播種・施肥・除草剤散布能率と効果
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播種時の様子

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播種直後


播種日:5月2日
播種量:4.5kg/10a
肥料:つや姫特栽すご稲200
    40kg/10a
除草剤:プレキープ1キロ粒剤
     1kg/10a

・播種前日に降雨があり、圃場の排水が不十分な中での播種となったが、播種精度は高く欠株や播種ムラも認められなかった。

●型式
播種機+駆動部(EP8D-NDS80F-R)

・播種、施肥、除草剤散布の作業が一度に行え、作業速度も速く播種精度も高い。
・同等の駆動部を用いた8条田植機による田植えと比較しても、延べ作業時間は25%程度(田植と播種の作業時間を比較)で済み、一人でも播種作業が可能である等、省力効果が非常に高い。

生育情況能率と効果
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出芽・苗立ちの状況
(5月16日)

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草丈の推移

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茎数の推移


・播種前日に20mm近い降雨があり、圃場の排水も不十分となったため種子の沈み込みがみられた。その後出芽始期にかけ強風を受け、田面水の撹拌により種子の埋没が発生した。
・苗立ち率は63%程度で例年と比較すると低下したが(例年は約80%)、苗立ち本数は100本/㎡以上確保された。

・草丈は慣行と同等の推移となった。

・6月中旬以降に茎数過剰気味で推移したが、中干し等の管理により穂数・籾数過剰は回避された(最高分げつ期には900本/㎡を超える茎数となったが、強めの中干しにより穂数を542本/㎡に抑えた)。

・幼穂形成期頃(7月18日)の茎数が多く葉色も濃くなったため、計画していた流し込み肥料による穂肥を省略したが、葉色が濃くなった。そのため、稈長が80cm程度となり圃場の一部で倒伏がみられた。

収穫能率と効果
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収穫時の圃場の風景




 

・8月に記録的な日照不足となったが、早期の中干しと間断灌漑の継続により籾数を制御したことで、登熟歩合の低下と屑米の増加を最小限に留めることができた。
・9月上旬の豪雨により圃場の3~4割程度で倒伏がみられ、未熟粒増加の要因となった。

・坪刈収量558kg/10a、検査等級一等、慣行区を下回る玄米粗タンパク質含有率を達成した。
・圃場の一部で苗立ちが不足したと推察され、実収(550kg/10a)は慣行区(600kg/10a)に及ばなかった。

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察

●成果
 圃場の一部で苗立ちが不足したと推察され、さらに9月上旬の豪雨により圃場の3~4割程度で倒伏がみられ、実収は慣行区に及ばず、売上高は慣行区の93%となった。しかし、肥料・農薬はほぼ同額であるものの、減価償却費を含めた生産原価は低く抑えられた。特に育苗に係る施設・資材経費、減価償却費を削減でき、減収を上回る費用削減効果があり、1ha当たり7,700円の所得増を実証した。生産原価全体では実証区の方が約12,000円/10a低コストとなった。

10a当たり生産原価の比較
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(表をクリックすると拡大します)
 実証区の作業時間は慣行区の59%となり、省力効果は十分に高い。特に大きな割合を占める育苗が省略でき、播種作業が一人でも可能になるなど、春先の省力効果が高い。水稲全面積を直播栽培とすることによる複合化や、移植栽培との組み合わせによる作期拡大などにつなげることで、農家の所得向上に有効であると考えられる。

作業時間の比較

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(表をクリックすると拡大します)


●今後の課題
 生育期に茎数が過剰となり葉色も濃く推移した。直播+特別栽培での施肥設計を更に検討する。

(平成26年度 山形県農林水産部農業技術環境課、山形県庄内総合支庁農業技術普及課)