提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


稲作

水稲(主食用)の省力・低コスト・高品質生産技術に関する実証調査(栃木県・平成25年度)

背景と取組みのねらい

●背景
 土地利用型経営の大規模化に伴い、育苗及び移植作業が経営の負担となってきている。そこで、本作業の省力化・低コスト化を図るため、5年前から鉄コーティング湛水直播栽培(以下直播栽培という)に取り組んでいる。
 「あさひの夢」による直播栽培では、倒伏がなく移植栽培と同等の収量が得られているが、当地域において「あさひの夢」から作付転換を進める「とちぎの星」については直播栽培の実績がない。そこで、今後の普及拡大の礎とするため、本品種の直播栽培に取組んだ。

●目標
 鉄コーティング湛水直播栽培による育苗の省力化と「とちぎの星」の安定栽培技術を確立する。

対象場所

●栃木県栃木市藤岡町
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 栃木市は、栃木県の南部に位置し、東京から鉄道でも、高速道路でも約1時間の距離にある。
 南北32.6km、東西約22.3km、面積284.83k㎡で、壬生町、小山市、岩舟町、佐野市、鹿沼市などに接しており、また、茨城、栃木、群馬、埼玉の4県の県境が接する稀有な地域でもある。
 地勢としては、西には「三毳山(みかもやま)」、「太平山(おおひらさん)」、南には「渡良瀬遊水地(わたらせゆうすいち)」等、県南のシンボル的な自然景観と「渡良瀬川(わたらせがわ)」、「思川(おもいがわ)」、「巴波川(うずまがわ)」、「永野川(ながのがわ)」等の豊かな河川を有している。
 藤岡町は平成22年3月に旧栃木市と合併、現栃木市の南部の平坦地に位置し、圃場整備は昭和56年に完了した平坦の水田地帯である。

実証した作業体系(作業名と使用機械)

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耕種概要

●品種
「とちぎの星」(栃木県育成品種)
 ① 熟期は中晩生系統で、「あさひの夢」より6日程度早い
 ② 高温登熟性に優れ、外観が良い
 ③ 縞葉枯病に対し抵抗性がある
 ④ 玄米は「あさひの夢」より大粒で、収量は同程度~やや多収
 ⑤ 食味は「あさひの夢」より優れ、「なすひかり」に近い
 ⑥ 倒伏は「あさひの夢」よりは弱いが、「コシヒカリ」より強い

●区の設計
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作業別の能率と効果

鉄コーティング作業能率と効果
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コーティング作業

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コーティング比0.3

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コーティング比0.5


コーティング日:3月29日
コーティング比:0.3
種子1kgに対して
・鉄粉0.3kg、
・焼石膏0.045kg

昨年度(平成24年度)はコーティング比0.5で実施したが、今年度はコーティング比0.3で実施したところ、発芽率は97.5%、圃場における出芽・苗立ちも良好な結果であった。

●型式
コーティングマシン (KC151)

播種能率と効果
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鉄コーティング湛水点播直播
+除草剤散布

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播種と同時に溝ができる


・直播作業:5月14日
主作業者:1名(田植機)
補助者:1名(薬剤、種子補給)

・播種は点播で行い、播種同時処理では、オサキニ1キロ粒剤を使用した。
・のべ作業時間は、慣行(移植作業)の4.89時間に比べて2.40時間と、半分程度となった。
・播種量は3.2kg/10a(乾籾重量)、1株当たり6.1粒でほぼ計画どおりに精度の高い播種ができた。
・播種と同時に溝(部分)ができ、表面水が溝に落ちて少なくなるため、表面水の排水に有効。
・また、溝を伝って水尻まで一気に水がまわるため、圃場全体への水の周りが均一で早い。
・供試機械については、播種の精度が高く、高速播種が可能で、移植同等の畝間、株間を確保することができた。また、溝切機が排水性、通水性を高め、苗立ち向上に有用だったと思われる。

●型式
クボタ田植機(EP67)
鉄コーティング用直播機
(鉄まきちゃん)(NDS-6F)
 

苗立ち能率と効果
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播種直後

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播種7日後の出芽状況


・1点当たり平均6.1粒
(最大9粒、最小3粒)
・苗立率は95.1%
・苗立数は105.6本/㎡
(5月21日時点)

・鳥害の発生は確認されなかった。
・播種後の排水性を考慮し、前作で排水対策を実施した水はけのよい圃場を選定。
5月14日播種後、16日には50%の出芽揃いとなり、7日後の21日には90%以上出芽し、十分な苗立ち数(105.6本/㎡、苗立ち率95%)を確保できた。
 

生育状況能率と効果
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実証区 6月23日




 2013sys_tochigi_zu1.jpg

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・十分な苗立ち数により初期の茎数が確保できたため、有効分げつ終止期頃の生育は非常に旺盛であった。
茎数が30.1本/株と多く、草丈も52.4cmで長かったことから下位節間の伸長も懸念されたため、最高分げつ期まで落水期間が長い間断かん水により茎数増加を抑えるとともに、最高分げつ期頃に強い中干しを実施した。
出穂期までは順調に生育したが、大豆跡で土壌窒素の発現が多いことに加え、直播専用肥料の速緩比が1:9と後半に窒素が溶出したため、稈長が伸びた。
また、一株当たりの苗立ち数が5.8本と多かったことから、最終的な穂数は24.7本/株と多くなり、稈が細くなり倒伏が懸念された。

・伸長程度が実証区で大きい
→下位節間が伸長した
① 有効分げつ終期頃
 (実証区6/26、慣行区6/12)
② 最高分げつ期頃
 (実証区7/10、慣行区6/26)
③ 幼穂形成期頃
 (実証区7/23、慣行区7/10)
④ 成熟期

・最高分げつ期以降、実証区では茎数が減少していない
→緩効性肥料の影響
① 有効分げつ終期頃
 (実証区6/26、慣行区6/12)
② 最高分げつ期頃
 (実証区7/10、慣行区6/26)
③ 幼穂形成期頃
 (実証区7/23、慣行区7/10)
④ 成熟期
 
収穫能率と効果
 収穫期頃の倒伏の様子
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実証区
倒伏程度4.2

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慣行区
倒伏程度2


・9月初めの長雨の影響で9月3日の倒伏程度は2.9となり、9月16日の台風18号により、さらに倒伏が進み、成熟期の倒伏程度は4.2となった。

・収量は583kg/10a(慣行対比坪刈85.4%、実収92.5%)、品質は農産物検査で1等であった。
㎡当たり籾数は移植の基準以上にできたものの、早期の倒伏により登熟歩合が下がり、目標収量には届かなかった。
・タンパク含量は8.2%と慣行の7.6%より高くなった。要因としては、早期の倒伏、直播専用肥料の速緩比(1:9)、前作の影響が考えられた。

●型式
コンバイン(ER108)
2tトラック
 

  (写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察

●成果
1.苗立ち数105.6本/㎡、苗立ち率95%と、極めて良かった。
5月14日の播種後、5月16日には50%の出芽揃いとなり、7日後の5月21日には90%以上出芽したため、十分な苗立ち数を確保できた。6月26日調査では茎数が30.1本/株と多く、草丈も52.4cmで長かった。出穂期までは順調に生育したが、9月上旬の降雨や台風18号の影響で成熟期の倒伏程度は4.2となり、収量は583kg/10aで慣行対比92.5%となった。コーティング比0.3は実用上問題はなかった。

2.雑草防除は播種同時処理のオサキニ1キロ粒剤、ラクダープロLフロアブル、クリンチャーバスME液剤の3剤体系で、雑草発生程度は微であった。

3.慣行同規模面積3,100aの場合、原材料費は慣行の体系と比較して10aあたり種苗費で125円、農薬費で4,409円多くなるが、育苗に係るコストが削減され、肥料費及びその他資材費で3,974円低下する。 また、全体の作業時間が減少し、労務費で1,816円削減される。生産費では減価償却費が359円減少するため、実証区の所得は10aあたり116円、家族労働費を含めた純利益は456円増加する。

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●今後の課題
1.高収量、高品質を確保するため、倒伏させないことが重要であり、品種にあった直播専用肥料を開発する必要がある。また、有効分げつ期の水管理で生育をコントロールできるよう検証を進める。

2.省力・低コスト化のためには薬剤費用の低減を図る必要があるが、近年の猛暑の影響により、害虫防除の回数は増える傾向にある。当該地域は麦作地帯であり、縞葉枯病を媒介するヒメトビウンカを始めとしてニカメイチュウ、イネツトムシ等の害虫が多く発生することから、播種同時処理が可能な殺虫剤の開発が期待される。さらに、農薬費の大部分を除草剤が占めるため、効率的・効果的な雑草防除体系を組む必要がある。

3.初期の苗立ち確保にはレーザーレベラーによる圃場の均平化が有効であるが、導入により減価償却費は増加し、収益性が減少するため、将来的に整地作業を担う受託組織の育成やレンタル等の仕組みを構築する必要がある。

(平成25年度 栃木県農政部経営技術課、下都賀農業振興事務所経営普及部農畜産課)