提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


稲作

水稲移植栽培における密播疎植栽培技術の実証 (広島県・平成25年度)

背景と取組みのねらい

●背景
 広島県では、農業の主要な担い手として集落農場型農業生産法人(以下、集落法人)の育成を推進している。平均経営面積約24haのうち、6割強が水稲である(平成24年度時点)。そのため、水稲の育苗にかかる労働時間の削減や労働強度の軽減、資材費の削減は、集落法人の経営改善を進めるうえで極めて重要である。

 当該地域の集落法人では水稲作が経営の柱で、育苗に関するコストが多い。
 密播疎植による苗箱数の削減は、資材費・労務費等のコスト低減の他、規模拡大時に育苗のための新たなハウス建設が必要なくなるなど、経営安定に資する効果は大きい。

●目標
 密播・平置き無加温出芽・フロート式プール育苗(浮き楽栽培)を組み合わせた育苗技術について、慣行育苗(標準量播種・加温出芽・スプリンクラー潅水)と比較検討し、技術の実用性を総合的に評価する。

対象場所

●広島県神石高原町
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 神石高原町は、清涼な気候、自然の豊かさを利用して農業を行っており、良質な米をはじめ、こんにゃく、和牛は古くからのブランド産地である。近年では、新しくトマト、ぶどうの産地化が図られている。
 集落法人が13設立されており、担い手や農業公社を利用して農地の維持がなされている一方で、過疎化や高齢化が進み、耕作放棄地や小規模高齢化集落が増加する現状がある。
 このため基幹産業の農林業と観光産業の振興、集落機能の維持・再生、定住、交流人口の増加等により、地域の活力を向上させることが急がれている。

実証した作業体系(作業名と使用機械)

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耕種概要

(1)品種 :コシヒカリ
(2)作型 :稚苗機械移植栽培
(3)県および地域の栽植密度
   広島県  :70~80株/坪、3~5本植え (広島県栽培基準より)
   神石高原町:50~60株/坪、4~6本植え

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「フロート式プール育苗(浮き楽栽培)」の技術のポイントは以下の通り。

●広島県立総合技術研究所農業技術センターが開発した技術(※)
●フィルムと角材、C型鋼などで作成したプールに浮かべるのみ 
●半浸水なので潅水作業が不要
●浮かんで水平を保つので均平な整地作業が不要
●同一施設で水稲育苗と葉菜類栽培が可能

(参考)浮き楽栽培法による水稲育苗について

作業別の能率と効果

播種能率と効果
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播種量は、慣行区162g/箱(湿籾)に対し、実証区は252g/箱(湿籾)とした。

 
育苗能率と効果
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フロート式プール育苗


平置き無加温+フロート式 プールで育苗を行った。

 
移植能率と効果
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移植苗

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苗の比較
実証区(左)と慣行区(右)

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移植作業


●使用箱数は、
慣行区18.7(箱/10a)に対し、実証区は9.3(箱/10a)と約半分に低減。
●根張り等はやや劣ったが、移植作業には、ほぼ影響はなかった。
●育苗および移植時にかかる労働時間は実証区が8.6(時間/ha)と、慣行区12.5(時間/ha)に比べて3.9時間/ha削減された。

●型式
田植機 クボタRACWEL(EP-65)

収穫能率と効果
 
出穂41日後(成熟期)
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実証区
倒伏程度 3.9
全体的に倒伏

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慣行区
倒伏程度 2.6
水尻中心に倒伏


●収量について
実証区は坪刈収量で慣行区比118%となったが、登熟歩合が低下し、屑米重が多くなった。

●品質について
実証区は慣行区と比べて未熟粒が多く、整粒歩合はやや低くなったが、いずれの区も80%以上と良好だった。
実証区の玄米タンパク質含有率は、7.0%と慣行区よりやや高くなった。

実証区は窒素が遅効きしたため、穂数が多く籾数過剰となり、倒伏程度が多となったことが、登熟歩合や整粒歩合の低下につながったと考えられる。ただし、この原因は、苗の違いによるものではなく、圃場の地力差や水管理の違いによるものと思われる。
 

  (写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察

●成果
1.実証区は、慣行区と比べて苗の草丈がやや短く、葉数および地上部乾物重がやや少なく、根張りがやや劣った。しかし、田植機への積み込み等、田植作業に影響はなかった。
2.使用箱数は、慣行区の18.7箱/10aに対して実証区は9.3箱/10aと約半分となり、目標の10箱/10a以下を達成した。

 移植時の使用箱数、植付精度の違い
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3.実証区の生育は、最高分げつ期までは、草丈および葉色は慣行区と同等で、茎数はやや少なく推移した。幼穂形成期以降は、草丈はやや長く、葉色はやや濃く、茎数はやや多く推移した。
実証区は排水がやや不良だったため、中干しが不十分となり、倒伏程度は慣行区より大きくなった。

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 草丈、茎数および葉色の推移

4.実証区の収量は慣行区比118%と多収となり、品質は整粒歩合で80%以上と高くなった。生育および収量の差は地力や水管理による影響で、苗に起因したものではないと思われ、実証区の育苗方法でも慣行区と遜色のない収量・品質が得られると考えられた。

5.実証区は育苗器が不要で、苗箱数の削減も図れるため、慣行区と比べ6.9%の労働時間短縮が図れた。また、労務費で320円/10a、育苗にかかる原材料費・減価償却費併せて5,288円/10aの削減となり、事業利益は、慣行区の18,956円/10aに対し、実証区では24,564円/10aという結果になった。

6.実証農家の慣行面積14haに換算した場合、785,120円の経費削減効果が見込まれる。

●今後の課題
 密播による苗箱数の削減効果は確認できたが、低温期の平置き無加温出芽による苗質の低下、根張りが不十分であることが課題である。
 これらを改善することで、より高品質の苗生産が可能となり、苗箱数の削減による経営面での向上とあわせて水田農業経営に貢献できると考えられる。

(平成25年度 広島県東部農業技術指導所)