提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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上越地域では、遊休地の解消と農家経営の安定を目指し、採卵鶏向けに飼料用米(籾供給)生産を推進しており、新規需要米の主要な取組として定着している。
一方、飼料用米生産により所得を確保するには、生産コストの低減が必須であり、低コスト、多収穫生産技術の確立が急がれている。一方、全国的な生産拡大に伴い単価は下落傾向であり、単価の維持には実需者から求められるタンパク質含有率の高い高品質な飼料用米の生産が必要となる。
低コスト、多収穫生産に向けた栽培体系を確立し、上記課題の解決を図るため、以下の組み合わせによる栽培体系の実証を行った。
① 密播疎植(播種量乾籾240g(計画量)/箱、栽植密度37株/坪)による使用苗箱数削減(10a当たり7箱以下)
② 深耕(15cm)による根域拡大及び多肥の組み合わせによる収量増加とタンパク質含有率向上
③ 粗耕起の追加による重粘土壌における耕うん作業効率の向上
目標は、収量 800kg/10a(籾)、タンパク質含有率 7.0%、籾1kg当たり生産費:80円以下。
1. 重粘土壌において、深耕の作業効率を高めるため粗耕起を行ったところ、一般的な重粘土壌における深耕作業に比べ、耕うん作業効率が向上し、慣行区との比は114%と少なかった(昨年度パラソイラを実施しなかった時は148%)。
表1 耕耘時間及び作業速度
2. 坪37株の疎植に加え、密播により植付け時のかき取り量を最低設定にしたことから、使用苗箱数は10a当たり6.5箱と、慣行の半分以下に削減できた。移植当日は強風だったため、苗のかき取り量が少ない実証区は、欠株や一本植えを抑制するため、移植精度の確保を図り、作業速度をやや落としたが、苗補給回数が少なく、10a当たり作業時間(機械作業+人力作業)は慣行区より少なくなった。欠株の発生は慣行区に比べやや多かったが、その後の生育に問題はなかった。
表2 移植作業の比較
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3. 深耕の効果により、慣行を上回る籾数を確保し、登熟歩合も向上したことから、収量は坪刈りで989kg/10a、実収75kg/10aと、慣行と同等以上となり、目標を上回った。タンパク質含有率は、目標の7%を確保した。
また、疎植により無効茎の発生が少なく茎質が向上したことや、深耕の効果により後期栄養が維持されたことから、倒伏の発生はみられなかった。
表3 収量及び収量構成要素
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4. 苗箱数の削減により育苗にかかる費用が減少し、収穫量が増加したことから、籾1kg当たりの生産費は77円に抑えられ、10a当たり事業利益は慣行に比べ2,072円増加した。
5. 作業時間は1ha当たり47.7時間で、慣行に比べ6.6%低減した。特に使用苗箱数の低減による育苗期の軽労化効果が大きく、規模拡大効果も期待される。
上越市三和区は新潟県の南西部、上越市の中央に位置し、ほぼ平坦な地形に水田が広がる農村地帯で、稲作を中心とした農業が主要産業となっている。
冬期に降水量が多く快晴日数が少ない典型的な日本海型気候で、季節風の影響により大量の降雪がある。
水田は、基盤整備事業により、ほぼ全域で大区画化されており、生産の効率化が進んでいる。また、農地の流動化が進んでおり、1戸あたりの経営面積は3.8haと、新潟県平均(1.78ha)及び上越市平均(1.9ha)に比べ大きく、20haを越える大規模農家が多い。基盤整備事業等を契機に、農業生産法人の設立も進んでいる。
(平成24年度 新潟県農林水産部経営普及課、新潟県上越農業普及指導センター)