提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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農業用ドローンは多様な機種が存在が市販化されており、その性能はさまざまである。
そこで、営農現場で広く普及しているMG-1SAK及びT20Kの性能を比較する。
あわせて農業用ドローンの散布精度に関わってくるダウンウォッシュの測定方法を確立する。
●農業用ドローン(T20KおよびMG-1SAK)
T20K(左)、MG-1SAK(右)
●主要諸元
MG-1SAKは散布幅4m、最大散布速度20km/h、タンク積載水量10L、ノズルはTX-VK8を使用。
MG-1SAKに比べて大型であるT20Kは、散布幅6m、最大散布速度22.5km/h、タンク積載水量12L、ノズルはXR110015VSを使用した。
1.試験内容と試験時期
○試験1 複数の小規模ほ場における作業能率の検証(令和3年7月)
○試験2 風速の違いによる散布精度への影響の検証(令和3年7月)
○試験3 ダウンウォッシュ測定手法の確立(令和3年7月~10月)
2.試験区の構成
<試験1 複数の小規模ほ場における作業能率の検証>
MG-1SAKは操縦者1名、T20Kは運搬に2名を要するため、操縦者1名と補助者1名とした。
散布面積は、20a~50a区画のほ場を5筆用意し、計150aとした。
ドローンの飛行方法は自動飛行モードとした。
ほ場1筆の散布完了後、散布終了地点でホバリング(一定の位置にとどまりながら飛行している状態)し、次のほ場を送信機上で呼び出し散布した。
<試験2 風速の違いによる散布精度への影響の検証>
散布精度試験は、強風・弱風条件それぞれにおいて、MG-1SAKとT20Kを同時に飛行させ、計2フライト行った。
評価は感水紙を用いた。
感水紙は、ドローン飛行ラインの直下、風上側-1m、-2m、-3m、-4m、-5m、-6m、風下側に1m、2m、3m、4m、5m、6m、8m、10mの15カ所に一列に設置し、5m間隔で3列用意した。高さは60cmで設置した(図2)。
感水紙は薬剤散布後、速やかに回収、乾燥し、スキャナで画像を取り込んだ。
感水紙は、薬液が付着すると青色に変色する(図3)。全体のうち、青く変色した部分の占める割合を算出することで被覆率が得られる。そこで、取り込んだ画像について、感水紙被覆面積率算出ソフトウェア(窪田ら、2010:農業・食品産業技術総合研究機構)を用いて被覆率を算出した。風向・風速は、超音波風向風速計ウィンドソニックで測定した。温度・湿度は、「TandDおんどとりJr.RTR-503」で測定した。
図1 散布精度試験の様子
弱風条件、強風条件それぞれ、T20K、MG-1SAKの2機を同時に飛行。赤いもやの部分に感水紙を設置し、中央の青い丸で示したところには、風速計を設置
図2 感水紙の設置方法
図3 薬液付着後の感水紙(左:付着多、右:付着少)
<試験3 ダウンウォッシュ測定手法の確立>
ア ダウンウォッシュ測定装置及び測定方法
ドローンのダウンウォッシュ(吹き下ろしの風)の測定手法を検討した。
測定装置は、鋼製材で作成した約15kgの土台中央にロードセルLC4102-K015(定格容量15kgf)を固定し、ダウンウォッシュからの力を受ける天面(100cm×100cm)はボンデ鋼板で作成しロードセルに固定した。記録はデータロガーDC3100を使用して行った。(図4)。
図4 測定装置一式
測定は地上に設置した測定装置上空をドローンがホバリング(30秒間)している時に生じた力、また、縦に並べた2つの測定装置上空をドローンが通過(5往復)したときに生じた力を計測した(図5)。
風向・風速は、超音波風向風速計ウィンドソニックで測定した。
※ 力の評価 :本試験では1㎡にかかるダウンウォッシュによる荷重とした
図5 測定のイメージ
天板の大きさ:1m×1m
ドローンが測定装置真上でホバリング、また通過時のダウンウォッシュにより天板にかかる力(単位:gf/m2)を測定
イ 評価方法
本試験で供試したデータロガーDC3100は、10回/sで記録ができる。また、試験時の風や、機体のわずかな高度・飛行位置の違いにより、測定する力は変動する。
そのため、ホバリング時の測定は、30秒間で記録した測定値のうち、TOP30の平均でダウンウォッシュの力の差を評価した。通過時の測定は測定装置上空を機体が10回通過するため、10回の各通過時における最大の測定値のうちTOP5の平均で評価した。
1.MG-1SAK及びT20Kの主要諸元
MG-1SAKは散布幅4m、最大散布速度20km/h、タンク積載水量10L、ノズルはTX-VK8を使用。
MG-1SAKに比べて大型であるT20Kは、散布幅6m、最大散布速度22.5km/h、タンク積載水量12L、ノズルはXR110015VSを使用した。
2.複数の小規模ほ場における作業能率の検証
T20K(0.8L/10a)の1ha当たりの合計時間が18.1分でMG-1SAK(0.8L/10a)の22.7分に比べて約2割短くなった。
同様にT20K(1.6L/10a)の1ha当たりの合計時間が18.8分で、MG-1SAK(0.8L/10a)の24.9分に比べて約2割短くなった(表6)。
表6 作業能率試験結果
大規模面積(2ha×2筆)における作業能率試験では、T20K(0.8L/10a)の1ha当たりの合計時間がMG-1SAK(0.8L/10a)の合計時間に比べて約3割短くなっているが、今年度実施した複数小規模面積における作業能率試験では約2割短縮となっており、このことから、T20Kは大規模ほ場で使用することで、より能力を発揮することが示唆された(表7)。
表7 作業能率試験結果(大規模面積試験と小規面積試験の比較)
3.風速の違いによる散布精度への影響の検証
感水紙を使用して被覆率により評価した。
弱風条件においては、T20Kの被覆率は飛行直下(0m地点)で最も高く2.6%となっており、MG-1SAKの1.3%に比べて高かった(図6)。
強風条件においては、両機体とも被覆率は風下側2m地点で最も高かったが、T20KがMG-1SAKに比べて全体的に被覆率が高い傾向にあった(図7)。
これらのことから、T20KはMG-1SAKに比べてダウンウォッシュが強いことが示唆された。
図6 感水紙被覆率の比較(弱風条件)
図7 感水紙被覆率の比較(強風条件)
4.ダウンウォッシュ測定手法の確立
ロードセルLC4102-K015(定格容量15khf)を使用して測定装置を制作した。
測定装置の上空を機体が通過及びホバリングさせた時の2パターンで、ダウンウォッシュによる力を測定した。
タンクに積載する水の量を増加させた場合、MG-1SAK、T20Kどちらも圧力は積載量の増加に伴って大きくなる傾向にあった(図8、9)。
図8 測定装置上空通過時の測定結果
図9 ホバリング時の測定結果
このことから、機体の総重量が大きいほどダウンウォッシュが強くなることが示唆された。
また、作業速度を変更した場合、MG-1SAK、T20Kどちらも力は作業速度が遅い方が大きかった(表10)。
作業速度を落とすことで、単位時間当たりの記録回数の増加に伴って測定の精度が上がり、結果として圧力の最大値を記録しやすくなることが要因と考えられた。
図10 作業速度変更による差
今後は、記録回数が1000回/sレベルのデータロガー(※)を使用し測定の精度を向上させ、機体や気象条件とダウンウォッシュの関係性を検証する。
※ 本試験で使用したデータロガーは10回/s