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半装軌式トラクタ(パワクロトラクタ)の作業性効果に関する実証調査「サトウキビ」(鹿児島県 平成25~28年度)

背景と取組みのねらい

 半装軌式トラクタは、接地圧が小さくけん引力が優れ、ほ場沈下や踏圧が少ない等の利点があり、全国の水田地帯を中心に大小様々な機種が普及してきている。しかし、鹿児島県奄美地域の重粘土壌地帯におけるサトウキビへの適応性については未解明な点が多い。ここでは、サトウキビ栽培の管理作業等で今後導入増が見込まれる半装軌式トラクタについて、基本的な特性について明らかにする。

所要動力等測定法

 けん引抵抗は、トラクタ直装のけん引抵抗計(農研機構の測定法を参考に製作)、PTO軸動力は、軸トルク計を用いて計測し、ひずみ計データロガを介してPCに収録した。
 耐ダッシング性は加速度計を用いて計測した。
 その他、作業速度、スリップ率、耕深の測定を行った。

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加速度計

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測定状況

試験を行った作業と使用機械(小型半装軌式トラクタ)

心土破砕耕 

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●型式
サブソイラ    MS2A(1本爪)
半装軌式トラクタ JB19X-PC3N
車輪式トラクタ  JB17X

ロータリ耕 

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▼ロータリー耕作業動画


●型式
ロータリ 半装軌式 RK80XW2-SPBPC
車輪式 RK80XW2-SPB
半装軌式トラクタ  JB19X-PC3N
車輪式トラクタ   JB17X
薬剤散布作業 

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●型式
ブームスプレーヤ  BSM201
半装軌式トラクタ  JB19X-PC3N
車輪式トラクタ   JB17X
根切り排土作業 

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●型式
根切り排土機 DK-1
半装軌式トラクタ JB19X-PC3N
車輪式トラクタ  AF-26H

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察(小型半装軌式トラクタ)

1.これまで重粘土壌地帯において、14kW(19ps)程度の小型車輪トラクタを使った心土破砕耕は、けん引力不足や走行が不安定になること等により実施は容易でなかった。
 半装軌式トラクタは、同等クラスの車輪トラクタと比べスリップ率が明らかに小さく、作業速度増に伴いけん引所要動力が車輪トラクタの約4倍程度まで増加しても作業は可能である。1本爪サブソイラによる心土破砕耕は、最大作業速度2.5km/h程度(車輪式では0.7km/hが限度)、耕深は35cm程度が目安である。

表1 心土破砕耕の作業可能限界
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2.未耕地のロータリ耕において、半装軌式トラクタは車輪トラクタに比べ前後(走行速度)の変動,左右への変動(揺れ)、上下への変動(揺れ)が小さい。
 特に、左右への横揺れが小さく、長時間運転時の疲労軽減が期待される。また、車輪トラクタに比べ固い地盤での耕うん反力吸収性能に優れ、その結果ダッシングも発生しにくい(達観)。

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図1 ロータリ耕うん時の左右への加速度(左:半装軌式,右:車輪式)

3.ブームスプレーヤによる防除作業は、半装軌式トラクタは同等クラスの車輪トラクタに比べ、走行時の車体の横揺れが少ないため、ブーム先端の上下動も小さくなる。
 散布幅4.2mのブームスプレーヤの場合、ブーム先端の上下の揺れ幅は、車輪トラクタの12cmに対して、半装軌式トラクタは6cmと半減でき、走行面の凹凸の影響を受けにくい。

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図2 ブームスプレーヤのブーム先端の上下の揺れ(半装軌式:差6cm、車輪:差12cm)

4.ディスクカルチによる根切り排土作業では、車輪トラクタに比べ半装軌式トラクタは横方向へのずれ(ふらつき)が少なく、直進性が向上する。その結果、土中の株を過度に損傷せず適正な位置での根切り作業が可能となる。
 なお、株揃え作業においても直進性が高く、同等の効果が期待できる(データ略)。

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図3 ディスクカルチによる根切り排土時の直進性の比較

5.サトウキビのハーベスタ収穫後の畦間を小型半装軌式トラクタで行う心土破砕耕は、0.3時間/10aである。
 心土破砕耕後に行う中耕作業は、心土破砕を行わない従前の方法(小型車輪トラクタによる中耕作業)に比べ作業速度を大きく増速することが可能で、車輪トラクタの1.5時間/10aに比べ半装軌式トラクタでは0.8時間/10aと半減できる。心土破砕耕が加わることで慣行の小型車輪トラクタの作業より作業工程は多くなるものの、一連の作業時間は75%、燃料消費量は86%に削減できる。

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図4 心土破砕耕を組み入れた管理作業体系

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図5 管理作業の違いによる作業能率と燃料消費量

6.小型半装軌式トラクタによる心土破砕耕-中耕作業の組み合わせにより、膨軟層は深さ45cm程度まで確保でき、土壌物理性の改善が期待できる。

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図6 心土破砕が土壌硬度に及ぼす効果

○関連する記事
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「最新農業技術・品種2017」より
詳細については農林水産省のホームページでご覧いただけます

試験を行った作業(使用機械)(中型半装軌式トラクタ)

心土破砕耕 

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▼サブソイラ作業動画


●型式
サブソイラ    3S2K
半装軌式トラクタ KL53ZPC3
車輪式トラクタ  KL533Z
ロータリ耕 

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●型式
ロータリ     SX-1608H
半装軌式トラクタ KL53ZPC3
車輪式トラクタ  KL533Z
中耕作業の比較 

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▼スタブルカルチ作業動画
▼2連ロータリ作業動画


●型式
チゼルプラウ   MSC6PYHLK
半装軌式トラクタ SL60PC3

2連ロータリ RK-255
半装軌式トラクタ SL60PC3

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察(使用機械)(中型半装軌式トラクタ)

1.けん引力を主体とする作業において半装軌式トラクタは車輪トラクタと比較して高速作業が可能である。
 心土破砕耕においては、車輪トラクタと比較し、けん引抵抗が122%になっても作業が可能なことから作業速度は163%と速く、作業時間は66%、燃料消費量は67%に削減される。
 けん引力を主体とする半装軌式トラクタの作業特性は、火山灰土壌地帯と同様の傾向が認められる。

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図7 心土破砕耕の作業性能比較

2.半履帯トラクタは、車輪トラクタに比べ接地面積が広く走行が安定し土壌踏圧が少ない。走行性が安定することで、ロータリ耕では耕うん反力の影響が小さくなり、その結果、所要動力が少なくなる傾向にある。また、走行面の土壌踏圧が少なくなることで、固結した土壌で発生しやすいロータリ耕うんによる土塊の形成が減少し、砕土性が向上する。

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図8 ロータリ耕の所要動力

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図9 ロータリ耕後の砕土性の比較

3.チゼルプラウによる中耕作業は、2連ロータリに比べ作業速度が速いことから耕深が同じ場合作業時間は58%、燃料消費量は約40%作業が可能で、省力・低コストである。また、チゼルプラウの最大耕深25cmで作業を行った場合でも作業時間は75%、燃料消費量は66%で作業が可能である。
 チゼルプラウの耕深は10~25cmで、25cmで中耕作業を行った場合、2連ロータリ(耕深15cm)に比べ畦間の土壌硬度は深層まで低下し、土壌物理性の改善が期待できる。
 チゼルプラウに施肥機を装着し土中施肥作業を行った場合、肥料は深さ15~25cmに施肥されることからその後の雑草の発生が少ない。

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図10 チゼルプラウで中耕作業を行うための仕様変更(一例、左 :改良前、右 :改良後)

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図11 中耕作業の作業能率

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図12 作業後の土壌硬度の違い

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図13 雑草の発生量の違い(施肥・中耕45日後)

(平成25~28年度 鹿児島県農業開発総合センター大隅支場農機研究室 「半装軌式トラクタ(パワクロトラクタ)の作業性効果に関する実証調査 -半装軌式トラクタによるサトウキビ管理技術に関する実証調査-」より)