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半装軌式トラクタの作業性効果に関する実証調査~傾斜地における機械作業効率の検討(鹿児島県 平成25年度)

背景と取組みのねらい

 近年の気象変動により全国各地で集中豪雨が発生しており、傾斜ほ場での土砂流亡による表土流出、作物損害、海洋汚染が大きな問題となっている。

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左 :表土流出ほ場(青森県深浦町) / 右 :集中豪雨時のテラス水路

 傾斜ほ場の中途にテラス状の止水帯、排水路を設置するテラス水路は有効な対策手段で、これまでは土木用機械を用いた農業土木工事によって施工されてきたが、トラクタとトラクタ用作業機を用いた営農的工事の可能性が検討されている。
 そこで、傾斜ほ場におけるサブソイラ耕、播種作業について半装軌式トラクタと車輪式トラクタの作業性能の比較を行い、けん引力が高く、走行安定性が高い半装軌式トラクタの傾斜ほ場への適応性、営農作業機による土砂流亡対策技術を検討する。

営農機械によるテラス水路の施工手順例

整地

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バーチカルハロー
鎮圧

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駆動ローラ
水路施工

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畦塗機
草生帯は種

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※参考
傾斜地における土壌流失対策技術に関する実証調査(青森県・平成24~26年) 

試験項目(使用機械)

●傾斜ほ場におけるけん引性能の比較
 半装軌式トラクタ、車輪式トラクタとサブソイラを供試し、勾配0%、5%、10%、設定車速4.0km/h、5.0km/h、5.7km/hの条件で、けん引抵抗、作業速度、スリップ率等を計測し、けん引作業性能を比較した。

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造成した傾斜ほ場(左 10%勾配、右 5%勾配)

試験の機材と条件設定
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半装軌式トラクタ KL44ZH-PC
作業動画
車輪式トラクタ KL44ZH
作業動画

●傾斜地における直進性能の比較(播種)
 半装軌式トラクタ、車輪式トラクタと播種機を供試し、勾配勾配0%、5%、10%での播種作業の直進性を比較した。
 ほ場始終端のポールを作業目標とし、始終端のポールを結んだ基準線と作業軌跡のずれを計測した。
 オペレータの操作技術の影響を考慮し、2名のオペレータで試験を行った。

試験機材と条件設定
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半装軌式トラクタ KL44ZH-PC
作業動画
車輪式トラクタ KL44ZH
作業動画

成果と考察

●傾斜ほ場におけるけん引性能の比較

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左 :半装軌式トラクタ 勾配10% / 右 :車輪式トラクタ 勾配0%

●ほ場勾配ごとの作業速度とけん引動力の比較

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 勾配0%

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 勾配5%

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 勾配10%

 半装軌式トラクタと車輪式トラクタのサブソイラ耕のけん引動力を勾配ごとに比較した。
 勾配0%、勾配10%では半装軌式トラクタのけん引動力が大きく、勾配5%では同程度であった。

●設定車速ごとのほ場勾配と作業速度

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 設定車速 4.0km/h

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 設定車速 5.0km/h

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 設定車速 5.7km/h

 半装軌式トラクタと車輪式トラクタのサブソイラ耕のほ場勾配による作業速度変化を設定車速毎に比較した。
 半装軌式トラクタは、設定車速4km/h、5km/hでは勾配による作業速度低下はなかったが、設定車速5.7km/hでは勾配増に伴い作業速度が低下した。車輪式トラクタはいずれの設定車速でも勾配がきつくなると作業速度が低下した。
 勾配がきつくなると、尾根側車輪の設置荷重が低下することで、作業速度が低下するが、半装軌式トラクタは、その影響が少ないと推察した。
 また、半装軌式トラクタは作業速度低下しにくく、けん引動力が大きいと考えられた。

●傾斜地における直進性能の比較(播種)

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 半装軌式トラクタ 勾配10%

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 車輪式トラクタ 勾配 10%

 オペレータAは勾配0%では半装軌式トラクタ、車輪式トラクタとも5cm以内の蛇行はあるが下降はなかった。勾配5%では半装軌式トラクタは7cm程度の蛇行で下降はなかったが、車輪式トラクタは作業が進むにつれ下降し、作業終了時に20cm下降した。
 10%勾配では半装軌式トラクタ、車輪式トラクタとも作業が進むにつれ下降し、作業終了時に半装軌式トラクタは16cm、車輪式トラクタは20cm下降した。

 オペレータBは勾配0%では半装軌式トラクタ、車輪式トラクタともオペレータAと同様下降はなかった。
 勾配5%では半装軌式トラクタは10cm程度蛇行し、作業終了時の下降は7cmであったが、車輪式トラクタは作業が進むにつれ下降し作業終了時は23cm下降した。
 勾配10%では半装軌式トラクタはわずかずつ下降し、作業終了時は9cm下降したが、車輪式トラクタは作業が進むにつれ下降し最大18cm下降し作業終了時は15cm下降していた。

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播種作業直進性の比較(オペレータA)

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播種作業直進性の比較(オペレータB)

 オペレータの運転操作によって違いはあるものの、半装軌式トラクタは車輪式トラクタと比較し傾斜地の等高線方向作業で優れた直進性を発揮し、谷方向への下降が少なかった。
 傾斜ほ場においても、半装軌式トラクタは車輪式トラクタと比較しけん引動力が高く、作業速度の低下が少なかった。
 傾斜ほ場の等高線方向播種作業において、半装軌式トラクタは谷方向への下降程度が少なかった。
 これらのことから、半装軌式トラクタは車輪式トラクタと比較し傾斜ほ場適応性が高いと考えられた。

(平成25年度全国農業システム化研究会「半装軌式トラクタの作業性効果に関する実証調査 -傾斜地における機械作業効率の検討」より)