提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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セミクローラ型トラクタは車輪の接地圧が小さく、軟弱なほ場における旋回で車輪の沈下を抑えることが可能である。
耕盤を荒らさずに作業を行うことで、平らな耕盤を維持・形成して、耕起・代かき作業やその後の田植・収穫作業の安定性や作業精度の向上および均一な作土厚による品質向上を図ることができる。
そこで、平成19、20年度に、セミクローラ型トラクタ作業によるほ場状態の変化および、各作業の状況の調査をおこなうこととした。
(1)試験区 セミクローラ区、ホイール区
(2)供試機 セミクローラ型トラクタMZ65、対照機(同型のホイール型)
(3)試験ほ場 19a×2筆(71.8m×27.1m、隣接、各区1筆)
(4)調査作業 耕起、代かき、田植え、収穫
(5)調査項目 田面・耕盤レベル、ほ場土壌硬度、作業能率、作業姿勢、植付間隔、収量、品質
(1)田面レベルおよび耕盤レベル
耕起前、収穫後に図1に示す調査線上を、田面レベルおよび耕盤レベルを1m間隔で測定し、耕盤は断面積2cm2のコーンが0.4MPaで止まる位置とした。
図1 レベル調査場所
2カ年の調査結果から、耕盤標高のばらつきがセミクローラ区で減少する傾向が見られた。
セミクローラ区に供試したほ場の耕盤のばらつきが初期に大きく、平成20年春にはホイール区と同等になった。ホイール区は初期からほとんど変化していない。
平成20年秋のセミクローラ区のばらつきの増加は、東側長辺で全体的に耕盤が下がっているためであった。耕盤の分布を見ると2年間で明瞭な変化はなく、耕盤はトラクタ作業と水稲作により徐々に変化するものと考えられ、長期間の使用後に多数のほ場で調査を行い比較する必要もあると思われる。
図2 田面標高の変動(平成20年度)
※縦軸は度数(%)、横軸は平均田面標高との差(cm)
図3 耕盤標高の変動(平成20年度)
※縦軸は度数(%)、横軸は平均耕盤標高との差(cm)
図4 標高標準偏差の推移
(2)土壌硬度
ほ場内部は6箇所各4回、四隅は4箇所各4回の平均である。
平成19年度は、セミクローラ区とホイール区の差は見られなかった。
平成20年度は春先の天候がよく、ほ場が乾燥して硬くなった。ほ場四隅では区間の差は見られなかったが、セミクローラ区のほ場内部では柔らかかった。
図5 ほ場内部および四隅の土壌硬度。平成19年度(上)と平成20年度(下)
(3)作業能率
耕起・代かき | 能率と効果 |
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![]() (左 :セミクローラ型 右 :ホイール型) ![]() 耕起作業 (左 :セミクローラ型 右 :ホイール型) ![]() |
・耕起、代かき作業においては、セミクローラ型トラクタとホイール型トラクタの差は、ほとんど見られなかった。 ●型式 クボタトラクタMZ65 (セミクローラ型、ホイール型ともに) |
田植 | 能率と効果 |
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![]() ▼移植作業の比較動画 ![]() |
・平均植付間隔は、セミクローラ区で19.0cm、ホイール区で19.2cmで、ばらつきに差は見られなかった。(平成20年度) ●型式 クボタ田植機 8条植SPU-850 |
収穫 | 能率と効果 |
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![]() ▼収穫作業の比較動画 ![]() |
・セミクローラ型とホイール型トラクタで作業した各ほ場で、同じ作業機を用いて収穫をおこなった。作業能率に差は見られなかった。 ●型式 クボタコンバイン 4条刈ARN452 |
表1 作業能率 平成19年度(上)と平成20年度(下)
(4)作業姿勢
各作業時の機体の傾きを、傾斜角センサを用いて計測した。
角度の分散が大きいほど姿勢が不安定と考えられる。
左右の角度は右上昇で+、前後の角度は後方上昇で+となっている。
耕起・代かきでセミクローラ区とホイール区で比較したが、角度のばらつきに差は見られなかった。
田植作業では、セミクローラ区枕地での短辺方向の作業で、姿勢の変動が小さい傾向が見られた。
表2 作業姿勢(平成20年度)
※縦軸は度数(%)、横軸は角度(°)
図6 作業姿勢の度数分布
(5)植付間隔
田植時のスリップ率の変動を検討するため、行程ごとの植付間隔を作業速度と植付速度から推定した。
平均植付間隔はセミクローラ区で19.0cm、ホイール区で19.2cmあり、ばらつきにも差は見られなかった。
図7 作業速度と植付速度(左)、行程毎の植付間隔(右)(平成20年度)
(6)品質
セミクローラ区の収量がやや低かったが、品質の差は見られなかった。
作土厚の変動による品質変動を見るため、コンバイン収穫時にほ場外周部とほ場内部との品質差を調査した。
平成19年度は、ほ場外周部の品質が悪いが、外周部と内部の差はホイール区の方が小さかった。
平成20年度は、ホイール区でほ場外周部の品質が悪い傾向が見られたが、セミクローラ区では差はなかった。
表3 収量品質(坪刈)(平成19年度(上)と20年度(下)
表4 ほ場内部と外周部の品質の差(コンバイン刈)(平成19年度(上)と平成20年度)
(写真・図をクリックすると拡大します)
セミクローラ型とホイール型による違いは、明瞭ではなかった。
平成19年度は、耕盤位置の変化や田植作業の機体姿勢等でセミクローラ型の効果が見られるものがあったが、ホイール型との差が不明な点も多く、耕盤の形成には時間を要するものと思われた。
また、セミクローラ型とホイール型の差が最も表われるのは旋回部分と考えられるが、平成20年度は春先の好天によりほ場が乾燥し、春作業の差が小さかった可能性がある。
耕盤深さのばらつきの変化や田植作業の機体姿勢、ほ場外周部と内部の品質差等でセミクローラ型による改善効果が見られるものもあったが、ホイール型との差が不明な点もあり、耕盤の違いについては、さらに長期間の使用後に検討する必要があると考えられた。
(平成19~20年度 新潟県農業総合研究所基盤研究部 「セミクローラ型トラクタの土壌物理性改善効果に関する調査」)