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セミクローラ型トラクタの均平効果に関する調査(長野県 平成19~20年度)

背景と取組みのねらい

 水田農業の大きな転換期を迎えた現在、各地に急増する集落営農組織からは、立地条件に見合った機械装備、作業・栽培方法等の最適化によるコスト、労力の削減をいかに達成していくのか、その指針や誘導の根拠が求められている。
 そこで、粘質土水田におけるセミクローラ型トラクタの一貫作業体系(耕起+代かき)が、以降の土壌物理性(耕盤の均平度等)及び作業効率、精度、及び生育、収量に及ぼす影響を調査し、従来のホイール型トラクタによる作業との比較・検証を平成19年~20年に実施した。平成20年には、併せて経営についての評価を行った。

対象場所

●長野県池田町
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(地図をクリックすると拡大します)


 池田町は、長野県の中心部、松本平盆地の北部に位置する。
 直近過去5年間の平均気温は11.6℃、年間降水量は1,120mmと冷涼で雨が少なく、日照時間が多いことが特徴である。耕地の標高は600m~1,000mに至るが、基幹作物である水稲は東部山麓の緩斜面部から平坦地の600m台に集中している。水田のほ場整備率は9割超、全体の3分の2は20a未満の中小区画である。

作業体系と調査内容


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圃場条件と耕種概要

●圃場条件
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●耕種概要
供試品種  :コシヒカリ(稚苗)
播種量   :140(乾籾g/箱)
移植機   :NSD8 8条(実証区・慣行区ともに)
設定株間  :30.0cm×18.0cm(60株/3.3㎡)

作業別の能率と効果

ロータリ耕・代かき能率と効果
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▼ロータリー耕の比較動画
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・ほ場作業効率は、耕うん作業ではセミクローラ型トラクタによる実証区がホイール型トラクタによる慣行区をやや上回った。2回目の代かき(植代)作業効率については、ほぼ同等であった。
・達観評価では、トラクタの上下動、横揺れは、平成19、20年ともに、クローラタイプの方が少なかった。

●型式
トラクタ
実証区:MZ65(セミクローラ型)
慣行区:MZ65(ホイール型)
ロータリ:MXR2210
ドライブハロー:WMS4100BR(410cm)

移植能率と効果
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▼移植作業の比較動画
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・実証区の移植作業能率は、慣行区を上回った。
・移植時のスリップ率は実証区が少なく、移植後の株間に差が認められたため、使用苗箱量は実証区が少なくなった。
・植付け精度(欠株率・植付け姿勢)については、実証区・慣行区で大きな差は見られなかった。正常植付株率についても同等であった。

●型式
田植機:NSD8 8条
(箱まきちゃん・こまきちゃん)

(写真・図をクリックすると拡大します)

考察

1.作業能率
●耕うん作業では、セミクローラ型トラクタによる実証区が、ホイール型トラクタによる慣行区より作業速度がやや速く、作業効率がやや高くなった。代かき作業については、2回目では大きな差は認められず、効率調査では、ほぼ同等であった。
●達観評価だが、実証区(セミクローラ区)のほうが作業機の上下動、横揺れが少ない状況であった(オペレターの乗車感想も同様)。

○ロータリ耕 平成19年度(左)と平成20年度(右)
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○代かき 平成19年度(左)と平成20年度(右)
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2.移植作業能率と精度
●実証区での移植作業能率は、慣行区を上回った。
●移植時のスリップ率は実証区が少なくなっている。また、移植後の株間では、わずかではあるが実証区の方が、間隔が広くなった。使用苗箱量は実証区がわずかに少なかった。
●移植深度のばらつき(標準偏差)、欠株率は実証区が少なく、正常植付株率も実証区が多かった。(平成19年度)

○移植作業の能率 平成19年度(左)と平成20年度(右)
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●植付け本数は慣行区が多くなったが、偏差は同等であった。植付深も、ほぼ同等の結果となった。
●植付け精度(欠株率・植付け姿勢)については実証区・慣行区で大きな差は見られなかった。田植機の性能により、差が見られなかったと思われる。

○移植作業の精度 平成19年度(左)と平成20年度(右)
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3.作土厚の変化、均平度等の調査

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※圃場短辺2カ所について畦畔の基準杭に水糸を張り、1m間隔で①水糸~地表、②地表~耕盤を計測。②は、鉄棒を挿入して耕盤で止まる位置を作土厚とした。田面の標準偏差は、基準点を0とした上下の振れより算出。

●実証区は平成19、20年度と同一圃場。慣行区はほ場を変更しているが、ともにすでに明瞭な耕盤が形成されていたため、耕盤形成過程の比較はできなかった。
●耕起作業(春耕起)後の作土厚の標準偏差は、枕地部分を除くと、いずれも実証区が少なかった。

○春耕起後の作土厚の推移
平成19年度
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平成20年度
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●移植後の耕盤面と地表面の変化、作土厚については平成19、20年ともに、枕地部分の一部を除くと実証区の方が偏差が少なかった。また、田面についても同様の結果であった。
●進行方向(ほ場長辺)の比較は検証していない。

○田面、耕盤、作土厚の推移
平成19年度
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平成20年度
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○田面(実線)および耕盤(破線)の推移 (縦軸は深さmm、横軸はm)
平成19年度(上)と平成20年度(下)
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4.生育・収量性調査
●実証、慣行区の生育状況は実証区の方が、茎数等生育期の比較では多くなっているが、収量・品質での差は認められなかった。

○生育・収量・品質調査
平成19年度
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平成20年度
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5.作業可能面積・経営評価について
平成20年度は土壌物理性改善効果による作業負担面積割合及び経営上の評価を行った。
●セミクローラ型トラクタを導入することで、耕起・代かきの作業効率が向上、また、耕盤面の形成が良好となり、田植作業での効率化が図られる。これにより、耕起から田植作業の作業面積拡大が可能であると考えられる。
●現状の経営規模では収入での差は認められないが、慣行区と比較すると、実証区では作業時間が短縮されることによる労賃の削減、田植作業の精度向上により苗箱数が減少し、種苗費の削減が可能になると考えられる。
●作業可能面積の試算により、面積を拡大した場合、慣行区と比較して減価償却費が軽減され、コスト低減効果が大きくなると思われる。

(平成19~20年度 長野県北安曇農業改良普及センター、長野県農業技術課 「セミクローラ型トラクタの土壌物理性改善効果に関する調査」)