提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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青森県深浦町舮作(へなし)地区には大区画の傾斜畑圃場が多く、近年の集中豪雨による土壌流失が問題となっており、耕土流失による地力低下、基盤劣化のみならず、河川や海域の汚染が懸念されている。
そこで本実証調査は、ウネ長が約300mにおよぶ大規模傾斜畑圃場における降雨に伴う土壌流失を抑制・軽減するため、ウネ長の短縮化による土壌侵食・降雨流出抑制法であるテラス承水路の設置と集水路、草生帯および土砂溜を組み合わせた簡易な対策技術の有効性を実証した。
(参考)被害状況
●青森県西津軽郡深浦町舮作
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深浦町は青森県西津軽郡に位置し、日本海に面しているため県内では比較的温暖で、気温の日較差が小さい。対象圃場は、(株)黄金崎農場の深浦農場内で、農地開発により造成された2.64haの畑地。斜面長が長く、勾配も比較的大きいため、土壌侵食が発生しやすい地形条件を有している。土壌統群は表層多腐植質黒ボク土である。
対策は次に示す5つの考え方を基本とした。
①圃場内にテラス承水路を配置する。
②承水路排水を安全に圃場下流端へ導くため、圃場境界部に集水路を設置する。
③テラス承水路上流側のテラス面および圃場末端に、流出土の捕捉を促すため、草生帯を設置する。
④圃場外からの雨水流入を防ぐため、圃場上流端に承水溝を設置する。
⑤圃場流末に土砂溜を設け、圃場外への土壌流出を抑制する。
導入技術の作業手順は以下のとおりである。
テラス承水路設置部分の 砕土・整地 | 使用機械 |
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●型式 ・半装軌式トラクタ クボタパワクロSMZ805 ・バーチカルハロー SUGANO 幅250cm ・次の工程の準備として、畦塗り機によるテラス承水溝造成時に土手になる部分の砕土・整地のための耕起作業である。 ・播種後間もない作業であるため、ウネ部の土壌が柔らかい状況の場合は、この工程を省いても、土手造成は可能である。 |
テラス承水路の造成 | 使用機械 |
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●型式 ・半装軌式トラクタ クボタパワクロKL53Z ・畦塗り機 ニプロLZR302NJ ・造成予定ラインの土層が柔らかい状態であれば、畦塗り機のみでも水路部分と土手(畦畔)形成が可能。 |
溝掘り機による 承水路断面の拡幅 | 使用機械 |
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●型式 ・半装軌式トラクタ クボタパワクロKL53Z ・溝掘り機 SUGANO溝掘り機DT251 ・承水路の受け持つ面積(集水面積)が比較的小さい場合は、この作業は省略できる。 |
土砂溜の造成 | 使用機械 |
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![]() 施工前(上)と施工後(下) |
●型式 ・油圧ショベル CAT 312D ・土砂の堆積効果による土壌流出抑制のために、圃場の流末に土手を築き、土手の圃場側を掘削する簡易な土砂溜を設置する。 |
(写真・図をクリックすると拡大します)
●成果
1.畑斜面では、同一勾配であれば斜面長が長いほど降雨流出水量や土壌侵食量が増す。テラス承水路導入の目的は、長大な斜面を分割し、斜面長を短くすることで、降雨流出水を安全に分散排水し、土壌侵食・流出量を抑制するためである(図1)。
図1 テラス承水路導入の理論的背景
対象圃場は、面積2.64ha、流下方向の平均斜面長279m、平均斜面幅95m、平均傾斜角5.3度。土壌は表層多腐植質黒ボク土である。調査年(平成25年)の栽培作物はニンジンであり、一ウネに6条で播種が行われ、作ウネは平ウネである。
テラス承水路および集水路の設置間隔や断面規模は、土壌侵食、降雨流出および農地保全に関する知見やマニュアルなどを参考に設計し、圃場の地形を考慮して、前述の作業手順により配置した(図2)。
図2 圃場および対策技術の概要
2.現地圃場における降雨量の観測データから、平成25年に現地圃場で観測された最大の降雨(2013.8.20生起)は、アメダス深浦データに基づく確率雨量解析の結果、1時間雨量は18年に一度、10分間雨量は14年に一度起こりうる降雨と推定され、畑地の排水計画に利用される10年確率雨量をはるかに上回る豪雨であった(図3、図4)。
図3 対象圃場における降雨量(左上)および流出水量(右下)の観測(平成25年)
図4 対象圃場における最大降雨の特徴(平成25年)
3.薬剤散布時のトラクタ走行によりテラス承水路の土手が沈下し、それに基因して承水路の流水が下流部へ流れ込んだことによる土壌侵食・流出現象が数カ所で見られた(図5)。しかし、全体的には、テラス承水路の機能は十分に発揮され、試験前後のテラス部の地形測量データの解析結果から、テラスAを除いたテラス全体で約14tの土砂がテラス承水路に堆積した。テラス承水路は畑面侵食土壌の堆積を促し、圃場外への土壌流出を抑制する効果を発揮することが実証された(図6)。
図5 テラス土手の沈下に伴う土壌侵食・土壌流出の状況
図6 テラス承水路の土壌流出抑制効果
4.大規模圃場での土壌流出対策には、圃場流末処理も重要である。圃場からの流出水や流出土壌を直接系外へ流すのではなく、圃場の流末に土手を築き、土手の圃場側を掘削する簡易な土砂溜の設置により土砂の堆積が促進され、土壌流出が抑制された(図7)。
図7 圃場流末における土砂の堆積状況
5.テラス承水路は、スパイラルローラ仕様のバーチカルハローによる造成予定ラインの砕土・整地作業を省略しても、畦塗り機のみで水路部分と土手(畦畔)の形成が可能である。バーチカルハローによる作業を省くことで、潰れ地の面積が大幅に減少する(図8)。
図8 テラス承水路造成工程の簡略化(平成26年)
●今後の課題
導入作物によって作ウネの形状は異なるが、ウネ幅が狭く、ウネ高が高くなるほど、降雨流出や土壌流出の危険度は増すと考えられる。作ウネの形態に応じて、テラス承水路の配置などを決定する手法を検討する必要がある。
また、対策工の導入にあたっては、現在のところ特定の設計・計画法があるわけではない。このため、圃場のどこに、どのように承水路を配置するかなどは、経験や勘に頼るところが大きい。技術の普及・定着のためには、営農者が簡便に利用できる対策計画・設計手法の構築が必要になると考えられる。