提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


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半装軌式トラクタの作業性効果に関する実証調査- 水田輪作体系における耕盤修復技術等に関する実証 (鹿児島県・平成22~24年度)

背景と取組みのねらい

 近年、半装軌式トラクタ(※)の実用化によりその機能を活かした新しいスタイルの機械化が全国的に注目されている。半装軌式トラクタは接地圧が小さくけん引力に優れ、圃場沈下や踏圧が少ない等の利点があり、水田や軟弱地盤への適応性が車輪式トラクタに比べて優れるとされている。

 鹿児島県曽於市大隅町笠木地区では「水稲-水稲-転作(野菜など)」という水稲3年2作のブロックローテーションが行われている。  転作作物作付け時の排水対策として耕盤を破砕することが収量・品質や作業性の向上につながるとされているが、復田時の漏水や田植機の走行性低下の可能性がある等の懸念から、水田での耕盤破砕はほとんど行われていない。

 そこで、半装軌式トラクタを活用し、土木技術ではなく営農技術としての耕盤破砕(心土破砕耕)から修復までの作業技術実証を行った。

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(※)商品名:パワクロなど

実証した作業体系(作業名と使用機械) 

水稲 
●品種 :あきほなみ
●移植 :6月22日、収穫調査:10月22日
●条間 30cm、株間 18cm
●試験区 :耕盤破砕修復区、対照区(耕盤破砕なし)

サツマイモ
●品種 :ベニアズマ
●定植 :4月16日、収穫調査 :10月5日
●畦幅 100cm、株間 42cm
●試験区:耕盤破砕区、対照区(耕盤破砕なし)

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作業別の能率と効果

耕盤破砕 能率と効果

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耕盤破砕作業

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実証圃場の土層断面

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梅雨期の畦間湛水状況

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プラソイラを用い耕深35cm、施工間隔120cmで耕盤破砕を行った。
事前に土層調査を行い耕盤層の下まで到達するよう、35cmの耕深を設定した。
耕盤破砕の作業方向は田植機の作業方向と直交するよう施工した。

作業時間 0.2時間/10a
燃料消費 0.9L/10a

●半装軌式トラクタ KL34RPC(クボタ パワクロ)
●プラソイラ MPS2(スガノ)


梅雨期の湛水状況を比較すると対照区は畦裾まで湛水しているが、耕盤破砕区は畦間の土が見える。

耕盤破砕を行うことで、サツマイモは増収し、細根が少なく品質も向上した。
 

 
耕盤修復 能率と効果

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レーザーレベラ

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均平耕うん

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鎮圧

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代かき
▼代かき作業動画

レーザーレベラで整地後、ロータリで均平耕うん。
質量約1tのカルチパッカで5回鎮圧。

5回程度重ねて鎮圧することで、深度15cmのち密度が20程度となり、再生耕盤が形成される。

湛水後半装軌式トラクタ(パワクロ)で代かきを行うことで、再生耕盤が止水層となり、かつ均平な耕盤が再生される。

鎮圧作業時間 0.4時間/10a
燃料消費量 2.0L/10a

●トラクタ SMZ655PC、KL34RPC(クボタ パワクロ)
●レーザーレベラ LT410(スガノ)
●ロータリ RL1800
●代かきハロ WRS2810N(松山) 


表面鎮圧の効果 能率と効果

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耕盤修復区 入水直後

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対照区 入水直後

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耕盤修復区 入水翌日

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対照区 入水翌日

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耕盤修復区の代かき1回目

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対照区の代かき1回目


耕盤修復の課程で圃場表面を鎮圧するが、このことでメリットとデメリットが発生する

(メリット)
表面を締めることで「水の走り」が良くなり、入水翌日に圃場全体に水が行きわたる。
実証を行った1ha規模の水田は、これまで入水後1週間程度、あるいはまとまった雨がないと圃場全体に水が行き渡らなかった。

(デメリット)
表面を締めるため、代かきの際、土の練り込みに時間を要する。
対照区と比較して代かき作業時間、燃料消費とも増加した。

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移植~中干し 能率と効果

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移植の状況
対照区(左)と修復区(右)

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移植作業の状況
▼移植作業動画

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移植直後の状況

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中干し期の状況


耕盤修復区と対照区の湛水状況に差はなかった。

減水深は、
耕盤修復区が12~18mm/d、
対照区 13~18mm/d

移植作業の田植機の走行に関して対照区との差はなかった。 

成果と考察

1.ブロックローテションで田畑輪換を行う地域で、サツマイモ栽培前に耕盤破砕を行ったところ、排水性が改善され、上いも重は21kg/a(6%)増収した。

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2.水稲作付け前に半装軌式トラクタ(パワクロ)、鎮圧ローラ、代かきハロを用い、耕盤修復を行った結果、湛水、移植作業に関し対照区と差異はなかった。
 なお、対照区と比較し代かき作業が増加するなどしたため、費用は1,541円/10a増加したが、この増加分は、畑作物の増収分で回収可能である。

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3.耕盤修復後の初年目は耕盤の再生が完全ではないが、排水性が良いことから効果的な中干しが期待できる。中干し期間中の圃場表面土壌の含水比で比較すると、耕盤修復区の乾燥が1~2日早かった。
 また、収穫時のコンバイン作業等機械作業への好影響も期待できる。

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落水5日目の耕盤修復区(左)と対照区(右)


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4.玄米収量は対照区の66.8kg/aに対し耕盤破砕区は69.9kg/aでやや優れた。
収穫時の生育、精粒歩留まりについても耕盤修復区がやや優れ、耕盤破砕、耕盤修復による影響はなかった。

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収穫時の生育

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収穫時の穂数

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玄米収量

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精粒歩留まり

 ブロックローテーションによる田畑輪換を行う大規模水田地帯において、畑作作付け前に耕盤破砕を行うことで排水性が改善され、圃場の乾燥が早いことから、適期作業と生産安定が可能となった。

 圃場鎮圧、半装軌式トラクタ(パワクロ)による代かきで耕盤修復を行うことで、凹凸が少ない安定した耕盤が再生され、用水が十分であれば耕盤を破砕しなかった場合と同様の田植え作業、水稲生育が可能であった。
 また、耕盤修復後も排水性が高く、中干し期や収穫期に降雨があっても、確実な中干しや収穫時の良好な作業性が期待できる。

 ただし、耕盤修復初年目では不透水層の再生が完全でなく、極度の中干しに注意する必要がある。
 また、耕盤修復の程度は土壌条件、圃場条件により異なるため、耕盤破砕を行う場合は、事前に土層の状態を把握しておく必要がある。

対象場所

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(平成22~24年度 鹿児島県農業開発総合センター 大隅支場 農機研究室)