提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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さやいんげんは、コナジラミ類の吸汁による白化莢の発生やハダニ類等の加害が問題となっている。
これまで、コナジラミ類の天敵であるスワルスキーカブリダニの実証を行ってきたが、厳寒期の温度不足(暖房機13~15℃設定)の影響もあり天敵の定着が不十分であった。
白化莢(左)
そこで、平成28年度からスワルスキーカブリダニより低温に強いとされるリモニカスカブリダニの実証調査を行なった。結果として、コナジラミ類の発生密度を抑え、白化莢の発生も軽減されることを確認した。
平成29年度に行った実証調査においても、リモニカスカブリダニの定着性は優れており、コナジラミ類の発生を抑え、白化莢の発生は確認されなかった。しかし、この実証ではハダニ類が多発し、その対策が必要となった。そこで、チリカブリダニによる防除を行ったが、3月下旬以降、ハダニ類が急激に増加したことから、効果的な防除体系の検討が必要と考えられた。
これらのことから、平成30年度も引き続き、リモニカスカブリダニによるコナジラミ類に対する防除効果を確認するとともに、ミヤコカブリダニとチリカブリダニを組み合わせたハダニ類の防除体系の確立に向けて、実証を行った。
管内の鹿児島県肝属地域は18,400haの耕地面積(畑地68%)を有し、年平均気温17.3℃、年間降水量2,351mmと温暖湿潤な気候で、露地野菜や施設園芸の盛んな地域である。
実証ほを設置している垂水市は、昭和40年代からさやいんげん栽培が開始され、露地施設栽培を含め、約190haの栽培面積を有する。近年では、桜島降灰対策のため施設化が進んでいる。
表1 実証区の構成
1.リモニカスカブリダニは、約25,000頭/10aで放飼した(全調査ほ場)。
2.スパイカルEXは約5,000頭/10a、スパイカルプラスは100パック/10a(5,000頭)放飼した。
3.チリカブリダニは、12月に約2,000頭/10a放飼。ハダニ発生時は、農家②では6,000頭/10a、農家③では4,000頭/10a/回を放飼した。
左 :リモニカ(リモニカスカブリダニ)
右 :スパイカルプラス(ミヤコカブリダニ)
4.ハウスサイドネットは、すべての調査ほ場で0.6mmネットを設置し、谷ネットについては、農家①及び農家④においては、0.6mmネット、農家②においては、谷部片面は防風ネット(5mm)、農家③においては両谷防風ネット(5mm)を設置した。
左 :サンサンネット(サイド:防虫ネット)
右 :サンサンネット(谷:防風、防虫ネット)
5.入口ネット設置は0.6mmサンサンネットソフライトの入口加工をしたものを入口全面を覆い、中央はチャックを付け、開閉できるよう設置した。
6.粘着シート設置はホリバー黄色100枚/10aを基準に約7~9m間隔に横誘引ひもに設置した。
7.ジベレリン処理は、節間伸張のために本葉0.5枚時に使用した。
左 :サンサンネットソフライト
右 :ホリバー黄色 (粘着シート)
1.天敵と害虫の発生状況調査
(1)調査項目
天敵数、害虫数(コナジラミ類、アザミウマ類、ハダニ類、ハモグリバエ類、その他)
(2)調査方法
1区10株×複葉3枚 (葉位別 上、中、下)複葉30枚調査、約2週間間隔で調査
2.農薬の散布履歴調査
農薬散布履歴より聞き取り調査。
3.白化莢
聞き取り調査と発生さやを目視で調査。
1.カブリダニ類
●天敵放飼前に化学農薬による防除を行ったため、放飼前の害虫調査ではコナジラミ類、ハダニ類、アザミウマ類等の発生は確認できなかった。
●天敵放飼約1週間後(12月12日)のカブリダニ類の頭数は、農家②が1.2頭/1複葉と最も多く、他の実証農家では0.2~0.5頭/1複葉であった。
●12月26日には、放飼後最もカブリダニ類頭数の多かった農家②で1.9頭/1複葉、次いで農家③が1.8頭/1複葉、農家①が1.0頭/1複葉、農家④が0.9頭/1複葉と放飼後のすべての農家において増加し、定着していることが確認できた。
●その後、農家①では、1月9日までは増加したが、その後減少し、2月6日には、0.3頭/1複葉数まで低下した。その後は増加に転じ、3月11日には2.8頭/1複葉数となった。しかし、3月中旬以降ハダニ類が増加し、リセット防除(ダニトロンフロアブルを散布)したため、4月以降カブリダニの密度は大きく低下した。
●農家②では、2月上旬まで約2頭/1複葉と高い密度で推移した。2月19日には、摘葉後の調査だったことから0.4頭/1複葉数と低い密度であったが、その後の密度は高くなり、4月には、2頭/1複葉数以上となった。
●農家③では、1月に密度がやや低下したが、2月以降増加し、3月11日の調査では、2.3頭/1複葉数まで増加した。
●農家④では、1月9日の調査時点で、1.6頭/1複葉数であり、その後やや密度は低下したが、3月以降増加に転じ、4月末には、3頭/1複葉数まで増加した(図1)。
図1 1複葉当たりのカブリダニ類の推移
2.コナジラミ類
●天敵放飼区の放飼前及び放飼後1週間後の調査では、成虫、幼虫ともに確認されなかった。
●慣行区では、12月12日の調査で幼虫が2.3頭/1複葉と高い密度で確認されたことから、下葉の摘葉後、薬剤防除を行った結果、その後は低密度で推移した。
●農家①及び農家④の12月26日調査では、0.1頭/1複葉のコナジラミの成虫が確認された。その後、徐々に密度が高くなり、2月19日には0.4頭/1複葉数程度まで増加した。これらのことから、農家④においては、薬剤散布を行い、密度低減を図った。その後、4月にかけて密度が高くなったが、白化莢の被害はみられなかった。農家④のハウスでコナジラミ類の密度が高かった場所は、日中の温度が上昇しやすい連棟ハウスの南側の棟であった。
●農家②では、3月11日にコナジラミ類の成虫0.03頭/1複葉数が確認されただけで、その後も増殖することはなかった。
●農家③では、2月19日に幼虫が0.1頭/1複葉数確認されただけであった(図2、3)。
●白化莢については、農家①で1株確認されただけで、天敵によるコナジラミ類に対する効果は高いと考えられた。
図2 1複葉当たりコナジラミ類の成虫の推移
図3 1複葉当たりコナジラミ類の幼虫の推移
3.ハダニ類
●いずれのほ場でも年内の発生は確認されなかった。
●農家①では、1月9日に初めて0.1頭/1複葉が確認されたが、その後は、低密度で推移した。しかし、3月中旬以降は急増し、3月25日には17.9頭/1複葉数と、かなりの高密度となった。そのため、3月26日に薬剤によるリセット防除を行うことで、一時的に密度は低下したが、その後は急増した。
●農家③では、1月23日には0.4頭/1複葉を確認したことから、発生箇所にスポットで薬剤散布を行い、チリカブリダニを追加放飼した。調査株においては、大きな被害はみられなかったが、ほ場全体では、部分的にハダニ類による吸汁被害の大きい場所もみられた。チリカブリダニについては、4月5日調査の0.1頭/1複葉数の確認が最大であった(図4)。
図4 1複葉当たりハダニ類の推移
4.アザミウマ類
●複葉のみの調査であったことから、低密度で推移しているが、特に農家①、農家③では、花器においてアザミウマ類が多数確認され、また、莢の吸汁被害も多数みられた。
●農家②では栽培当初から確認されず、莢への被害もみられなかった(図5)。今後、さやいんげんにおけるアザミウマ類の調査では、花器の寄生数調査も必要と思われた。
図5 1複葉当たりアザミウマ類の推移
5.アブラムシ
●農家②においては、コナジラミ類やアザミウマ類の発生はほとんどみられなかったが、3月にアブラムシ類が部分的に発生した。確認が早かったことから、試行的にヒメカメノコテントウを放飼(3月19日に100頭、4月25日に1,000頭)し、防除を行ったが、定着は確認されず、5月上旬にはハウス全体にアブラムシ類の被害が拡大した。他のほ場では問題とならなかったことから、薬剤による防除も可能と思われたが、総合的な天敵利用体系を考慮すると、アブラムシ類に対する天敵利用の検討も必要と思われた。
6.ハウス内環境(気温,湿度)
●農家①及び②のハウス内環境(気温、湿度)をみると、いずれも農家も冬期の日最低気温は、13℃以上を維持しているが、日最高気温は、農家②では、30℃以上となる日が少ないが、農家①では、30℃以上となる日が比較的多かった(図6)。
●湿度については、両農家間において、日最低湿度については、農家②が農家①よりも低い日が多かったが、日平均湿度については、大きな差はみられなかった(図7)。
図6 ハウス内の温度推移
図7 ハウス内の湿度推移
7.農薬散布状況について
●天敵放飼前にアファーム乳剤とコルト顆粒水和剤による害虫の防除を行い、ゼロ放飼を行った。
●殺虫剤の散布状況については、農家②が最も少なく、天敵放飼前に薬剤を散布することで、4月までの殺虫剤散布を行わなかった。4月以降は、ハダニ類やアブラムシ類の発生がみられたことからスポット散布を行った。
●3月末までの散布状況を比較すると、すべての農家が慣行区より農薬使用回数が少なかった。(データ略)。
1.カブリダニ類
●放飼後のすべての実証農家において定着が確認され、順調に推移していると思われた。特に実証農家②では、12月末の時点から2頭/1複葉前後と高密度で推移していた。リモニカスカブリダニの発育可能な温度域は10~30℃で、高温域では発育が阻害されるとの報告がある。農家①と農家②では最高気温に大きな差があり、農家②では、日最高気が30℃以上となる日が少ないこともカブリダニ類の密度が高い要因の一つと考えられた。
●すべての農家において、白化莢の被害はほとんどみられないことから、天敵利用による防除効果は高いと考えられた。しかし、リモニカスカブリダニは、導入コストが高いことから、普及にあたってはコスト低減対策が必要である。
2.ハダニ類
●1月23日には、農家③で0.4頭/1複葉を確認した。ハウスの谷部分にイチゴのプランターが置いてあり、そのイチゴにハダニが発生していたことから発生源はこのイチゴと考えられた。
●農家①では、3月中旬以降に急激に増加したことから、薬剤によるリセット防除を行った。農家①のハウス内気温は、高めに推移したこと、薬剤防除のタイミングが遅かったことからハダニが増殖しやすい環境にあったと考えられた。
●また、農家③のハダニ対策として、薬剤のスポット散布及びチリカブリダニの放飼で対応し、ハダニ類の急激な増殖は抑制できたが、部分的には、吸汁被害が大きい場所もみられた。
●農家②及び農家④のハダニ類は、低密度で推移したことから、ミヤコカブリダニによる効果も考えられたが、初期防除が的確であったと推察された。
●さやいんげんにおいて、天敵に影響のない薬剤が少ないことから、ハダニ類の発生が確認されない生育初期の段階でミヤコカブリダニを放飼し、ハダニ類発生後は気門封鎖剤の活用や、チリカブリダニの放飼による防除体系を検討していく必要があると思われた。
3.ミヤコカブリダニの導入
●平成29年度は1月末にチリカブリダニを放飼したが、3月下旬以降、ハダニ類が急増したことから、本年度は待ち伏せ型のミヤコカブリダニを導入した。
●一部の農家においては、本年度も3月以降にハダニ類が急増した。ミヤコカブリダニの効果を高めるためには、ハダニ類が増加しやすい高温・乾燥条件の環境を作り出さない栽培管理が必要と考えられる。
4.その他
●本年度は、一部の農家にアザミウマ類の被害がみられたことから、土着天敵(タバコカスミカメ)を活用したアザミウマ類の防除体系を検討する必要がある。
1.天敵を利用することで農薬の散布回数が削減できる。特に3月の上旬から中旬にかけては収穫が連日となり、薬剤散布の時間が確保できないことから、天敵利用は非常に効果的である。また、これまでは薬剤散布により収穫が翌日になることで莢が大きくなり、商品性が低下していたので、品質確保の面からも天敵利用は有効である。
2.スパイカルプラスは放飼時間が削減でき、省力化につながるため、今後、ハダニ類の密度抑制効果が安定すれば、利用していきたい。
3.天敵と薬剤散布を組み合わせることで、効果的な防除ができると思われる。本年産では、収穫の谷間が2月下旬と4月上旬にあったことから、この時期に薬剤散布を組み合わせることで、害虫の急増を抑制できると考えられる。
4.天敵利用は産地のイメージアップにもつながることから、実証を成功させ、部会での取り組みを進めていきたい。