提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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高知県須崎市の基幹品目である施設キュウリ栽培では、ミナミキイロアザミウマが媒介するメロン黄化えそウイルス(MYSV)によるキュウリ黄化えそ病(以下、黄化えそ病)が発生して問題となっている。平成7年に確認されて以降、発生面積はこの2年減少しているものの、依然として地域全体で発生が見られている。本病の多発により、栽培を早期に終了せざるを得ない圃場も多く見られ、収量の低下が問題となっている。
図1 須崎農業振興センター管内におけるキュウリ黄化えそ病の発生面積の推移
(高知県農作物有害動植物発生予察事業年報より作成)
本病の防除には、MYSVを媒介するミナミキイロアザミウマ防除の徹底が重要となるが、多くの薬剤に対して感受性が低下した個体群が顕在化している現状では、化学農薬のみでは防除が困難となっている。これまでUVカット被覆資材やスワルスキーカブリダニを組み合わせた防除体系を検討してきたが、2月以降のミナミキイロアザミウマの急激な増加に対応できない事例があり、効果が不安定であった。
そこで、スワルスキーカブリダニに比べ低温に強いとされるリモニカスカブリダニを用いて、天敵の効果的な放飼時期や防虫ネット、粘着トラップ(ホリバー)の資材及びベリマークSC等薬剤を組み合わせた防除体系の検討を行った。
高知県須崎市は県中西部に位置し、年平均気温は17.4℃、年間日照時間は2,004時間(高知気象台:2016)で、温暖な気候を活用した施設園芸が盛んである。主な栽培品目にはミョウガ、キュウリ、シシトウ、ニラ、サヤインゲンがあり、県内有数の施設園芸産地である。
キュウリはミョウガに次ぐ基幹品目で、生産者は133戸、栽培面積は約26.2ha、販売金額は15.1億円(平成30年度作)に達し、地域の園芸振興を図る上で重要な位置づけにある。
栽培作型はハウス促成栽培で、9~10月に定植を行い、6月まで収穫する長期一作型が一般的である。
1.害虫類、天敵類の調査
各区任意の30株について、株当たり2茎頂部ならびに上位、中位、下位葉のそれぞれ1葉に生息する害虫類と天敵類の虫数を調査した。
調査は10月19日から6月14日まで、概ね14日間隔で行った。
2.粘着トラップ調査
実証区1と慣行区ではハウス外側に、実証区2ではハウス内側および外側に、両側ともハウスサイド部から約50cm離した高さ約1mに設置した。
設置箇所数は、実証区1と慣行区はそれぞれ2か所、実証区2は種類の異なる防虫ネット(0.8mm目のクロスレッド、0.8mm目のe‐レッド、0.4mm目のサンサンネット)の箇所にそれぞれ1か所の計3か所とし、1か所あたり粘着トラップを各色1枚設置した。
○設置期間
ハウス外 :8月30日~6月14日
ハウス内(実証区2):9月26日~11月1日、4月19日~6月14日
○約14日間隔で交換
設置状況。ハウス外(左)とハウス内(右)
3.黄化えそ病発生調査
実証区1、2および慣行区において、黄化えそ病の発生株数について聞き取り調査を行うとともに、栽培終了間際に圃場内の発生株数を計数した。
4.病害発生調査
10月から毎月1回、任意の50株について、高知県病害虫防除所の発生予察基準に基づいて調査を行った。
5.温湿度調査
ハウス中央部の地表から約180cmの高さにセンサーを設置し、温湿度を記録した。使用機材は以下の通り。
○実証区1:データロガー(おんどとり)
○実証区2:環境測定装置(ハウスレコーダー)
○慣行区 :環境測定装置(プロファインダー)
6.防除履歴調査
栽培期間中の農薬散布日と農薬名を聞き取り調査した。
1.害虫類、天敵類調査
(1)ミナミキイロアザミウマ
実証区1では、調査期間中、茎頂部と葉部においてほとんど確認されず、非常に低密度で推移した。
実証区2では、茎頂部で1月中旬まで低密度で推移していたが、1月下旬に成虫が0.33頭/茎頂部と増加し始め、2月中旬に1.8頭/茎頂部まで増加したが、2月12日のベネビアODの散布により、3月中旬には0.3頭/茎頂部まで減少した。その後再度増加し、調査終了時には2.0頭/茎頂部に達した。葉部では、1月下旬まで低密度で推移したが、2月上旬に幼虫が1.3頭/葉が確認された。2月12日にベネビアODを散布したところ、その後は0.5頭/葉前後で推移した(図2)。
ミナミキイロアザミウマの生息部位は、成虫が茎頂部に、幼虫が葉部に多い傾向にあった。
慣行区では、薬剤防除が徹底されていたことから、茎頂部では1月上旬、葉部では4月上旬までほとんど確認されなかったが、その後増加し始め、特に葉部において5月上旬以降急激に増加した。
図2 ミナミキイロアザミウマの発生推移
(2)カブリダニ類
実証区1では、放飼後から最終調査までの調査期間を通じて、リモニカスカブリダニは低密度で推移した。ただし2月中旬以降はミナミキイロアザミウマの発生畝を中心に生息が確認された。
実証区2では、茎頂部で放飼後から常時0.1頭/茎頂部以上が確認された。また、葉部でも放飼直後から常時確認され、12月中旬から1月中旬に減少したものの1月下旬から再度増加し始め、4月下旬からは急増し、5月中旬には7.6頭/葉に達した(図3)。なお、リモニカスカブリダニ以外に土着のヘヤカブリダニの発生も認められ、茎頂部において1月下旬まではヘヤカブリダニが優占していた。
図3 カブリダニ類の発生推移
生息葉位別にみると、放飼直後には中位葉で多く見られ、その後は中位葉を中心に上位葉、下位葉でも見られた。
図4 実証区におけるカブリダニ類の部位別密度推移
(3)その他害虫類
実証区1は、期間を通じて発生は確認されず、慣行区では5月下旬に低密度で確認された。
実証区2は、期間を通じてタバココナジラミの発生が確認されたが低密度であった。
その他の害虫の発生は確認されなかった。
2.粘着トラップ調査
(1)アザミウマ類の誘殺(青色+黄色粘着トラップ)
各区において、定植前後の9月中旬から10月上旬に0.5~2.3頭/トラップ/日が認められた。うち、ミナミキイロアザミウマの割合は3.2~48%で、誘殺数は0.1~0.4頭/トラップ/日であった。その後3月上旬までは、その他のアザミウマは誘殺されたもののミナミキイロアザミウマはほとんど誘殺されなかった。しかし、3月下旬から誘殺数が増加し始め、5月上旬から急増し、ミナミキイロアザミウマの割合は20~48%となり、誘殺数は0.6~2.7頭/トラップ/日であった。
実証区2のハウスサイド部に展張した防虫ネットの種類別のミナミキイロアザミウマ誘殺数をみると、春期において、野外ではほとんど差が見られなかったが、ハウス内では、サンサンネット、クロスレッド、e-レッドの順に多くなり、サンサンネットはe‐レッドの3~12倍、クロスレッドの2~11倍の誘殺数であった。
図5 実証区2における粘着トラップを用いた防虫ネットの種類によるアザミウマ類の誘殺虫数の推移
注)項目中、外は野外、内はハウス内を示す
(2)コナジラミ類の誘殺(黄色粘着トラップ)
野外の誘殺数は12月上旬まで多かったが、それ以降減少していき、3月下旬まで認められなかった。しかし、4月以降誘殺数が増加し、特に実証区1で急増した(図6)。
実証区2のハウスサイド部に展張した防虫ネットの種類別の誘殺数をみると、春期において、野外とハウス内のいずれも、クロスレッドを展張した箇所で他の種類のネットに比べ誘殺数が多く、その差が顕著であった(図7)。
図6 粘着トラップ(黄色)におけるコナジラミ類の誘殺虫数の推移
図7 実証区2における粘着トラップを用いた防虫ネットの種類によるコナジラミ類の誘殺虫数の推移
注)項目中、外は野外、内はハウス内を示す
(3)黄化えそ病の発生調査
実証区1の発生は、栽培終期の5月下旬以降見られ始めたが、最終の発病株率が0.5%と少なかった(表1)。
実証区2での発生は、定植後主枝の摘心頃から見られ始め、1月末に発生株率が1.0%であった。発生株はハウス内全体で点在し、徐々に発生が続いたが、感染の疑いのある株の除去を続けた結果、12月末から4月上旬まで新たな発生はほとんど見られなかった。しかしその後増加し始め、栽培終了時には発生株率が6.3%に達した。
慣行区での発生は、12月下旬頃より、ハウス西側のサイド近くでまとまって見られ始めた。1月末時点では、発生株率は2.6%であり、感染の疑いのある株の除去を続けたものの発生し続け、5月以降に急増し、栽培終了時には発生株率が17.3%に達した(表1)。
表1 キュウリ黄化えそ病の発生状況
(4)病害発生調査
実証区1では、12月にべと病の発病葉率が10%となったことから、薬剤散布を行ったところ、3月まで発生を抑制できたが4月、5月に再発した。また12月には、つる枯病が発生が見られ始めたので、薬剤散布を行ったが、最後まで抑制できず、最終的に調査対象外であった炭疽病と合わせて約50%の株が枯死した(図8)。
実証区2では、1月にべと病及びうどんこ病が発病葉率で61%、11%と確認されたが、3月から4月には一旦抑制できた。しかし、べと病の発生は5月に急増した。
慣行区では、定植直後にうどんこ病の発生がわずかに確認されたが、3月までの病害発生は少なかった。しかし3月以降べと病が多発した。また、3月以降つる枯病が発生し、5月の発病株率は10%となった(図8)。
図8 病害の発生消長
(5)温湿度調査
実証区における日平均気温は、厳寒期の12月から2月の期間において、実証区1では17.5~19.6℃、実証区2では15.9~19.4℃で推移し、実証区1が実証区2に比べやや高く推移した。
実証区における日平均湿度は、厳寒期において、実証区1では92~99%、実証区2では85~94%で推移し、実証区1が実証区2に比べやや高く推移した(図9)。
図9 実証区における日平均温度及び湿度の推移
(6)防除履歴調査
実証区1では慣行区と比べ、殺虫剤の使用回数は54%、使用剤数は58%、殺菌剤の使用回数は91%、使用剤数は156%であった。
実証区2では慣行区と比べ、殺虫剤の使用回数は31%、使用剤数は38%、殺菌剤の使用回数は82%、使用剤数は148%で、両区とも慣行区と比べ使用回数は殺虫剤、殺菌剤とも減少した。ただし、使用剤数については、殺虫剤は減少したのに対し、殺菌剤は2~3剤の混用での使用が多く増加した(表2)。
防除実施回数は、実証区1が85%、実証区2は73%と防除の省力化につながった。
表2 化学農薬の使用回数および使用剤数、防除実施回数の比較
(7)農薬等の経費調査
害虫対策としての経費は、慣行区に比べ殺虫剤代は実証区1が49%、実証区2が56%と削減できたが、生物農薬代を含めた経費は慣行区に比べ、実証区1が156%、実証区2が159%となった。また、病害が多発した実証区では、殺菌剤代が慣行区に対し、実証区1は220%、実証区2は195%となり、慣行区の2倍前後に増加した(表3)。
表3 農薬等の経費の比較
(1)実証区1
●天敵が見られず不安だったが、ミナミキイロアザミウマや黄化えそ病の発生も少なく、成功と言えるのではないか。
●ミナミキイロアザミウマに対して殺虫剤が効きにくいので天敵放飼は有効だと思う。
●農薬散布回数も減り、省力化につながっていると思う。
●栽培初期に病気の発生が少なかったため、農薬散布を控えていたら12月中旬から炭疽病やつる枯病が発生し、殺菌剤の使用数が増えてしまった。初期からの定期的な病気の予防散布の必要性を痛感した。
(2)実証区2
●栽培の初期から黄化えそ病の疑いのある株を除去したが、すべてが黄化えそ病の罹病株であったかは不明である。12月末以降は一旦発生が収まっていたが、春先からまた発生した。
●ミナミキイロアザミウマに対して効果がある殺虫剤が少なく、天敵を利用する前は、春先にミナミキイロアザミウマが増え始めると殺虫剤を散布しても抑えきれず、一気にミナミキイロアザミウマが増え、黄化えそ病の蔓延と果実への食害が問題となっていた。天敵の利用により、ミナミキイロアザミウマの増殖を抑え、黄化えそ病の発生も少なく抑えることができ、秀品率が向上していると思う。
●今後も天敵を活用していきたい。
●クロスレッドは0.4mm目のサンサンネットに比べ、風通しが良いように感じる。
●以上の結果から、定期的に薬剤処理を行っている慣行区と比べ、リモニカスカブリダニを中心とした防除体系のミナミキイロアザミウマに対する防除効果は高いと考えられた。
●とくに、3月下旬以降は、収穫や栽培管理が忙しくなり、定期的な薬剤防除が遅れがちになるとミナミキイロアザミウマが急激に増加するため、本防除体系による防除効果は優れていると考えられた。さらに、害虫防除のための化学農薬の使用回数を大幅に削減することが可能で、薬剤散布労力の削減にもつながると考えられた。また、管内ではミナミキイロアザミウマの薬剤感受性低下が顕在化しているが、殺虫剤の使用が削減されたことから、抵抗性発達の回避につながると考えられる。
●なお、実証区2、慣行区とも発病株の抜き取りを行ったにも関わらず、慣行区のみで冬期間も新たな発病が認められた。このことから、実証区2ではリモニカスカブリダニにより圃場内での保毒虫の発生が抑えられたと推察された。ただし、慣行区を含め、殺菌剤の使用回数が多いことから、抵抗性品種の利用とともに病害の種類や発生時期に合わせた効果的な防除体系の検討が必要であると考えられた。
●粘着トラップへのアザミウマ類の誘殺数は、野外に比べハウス内は明らかに少なく、防虫ネットのハウス開口部への展張が、害虫の侵入防止に高い効果があることが認められた。防虫ネットの種類については、クロスレッドは、e‐レッド、0.4mm目合いのサンサンネットと同等以上の効果が認められた。しかし、コナジラミに対しては効果が低い可能性が示唆された。
●実証区1ではベリマークSCを定植前に処理したが、定植翌日にアファーム乳剤を処理したこともあり、効果は判然としなかった。ただし、実証区1では3月上旬までミナミキイロアザミウマや黄化えそ病の発生が認められなかったことから、ベリマークSCを用いた定植前の薬剤防除は有効と思われる。
●圃場内の害虫発生のモニタリングや捕獲のために、ホリバーの青色と黄色を圃場内に吊り下げたが、春先まで圃場内のミナミキイロアザミウマの密度が低く抑えられていたことや、農家の害虫管理に対する意識向上につながると考えられたことから、防除体系に組み込む有意性が示された。
●慣行区に比べ殺虫剤の経費は削減できたが、生物農薬が高価であるため、害虫対策としての農薬代を合計すると慣行区に比べ、増加した。
●リモニカスカブリダニの個体数の少なかった実証区1の方が実証区2よりも高温・高湿で推移しており、本種の定着と温湿度の関係については判然としなかった。