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IPM

佐賀県におけるハウスミカンIPM実証調査(佐賀県 平成24年度)

背景と取組みのねらい

 ハウスミカンは薬剤抵抗性の発達等により病害虫防除に苦慮しており、さらに環境に配慮した安全・安心な農産物に対する関心の高まりを受け、天敵等を利用したIPM防除体系の検討を進めている。
 そこで、天敵を利用した生物的防除および防虫ネット等を利用した耕種的防除と化学農薬による防除を組み合わせたIPM防除技術の確立を図る。

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対象場所

 東松浦地域は、佐賀県の北西部に位置し、唐津市および玄海町からなっている。松浦川流域の平坦地域や上場台地・天山山麓の中山間地域などの多様な土地条件を活かして多様な農業が展開されている。
 ハウスミカンの栽培面積は、平成25年産において約90haであり、全国一の産地となっている。

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実証資材と実証ほの概要

●実証資材
(1)スワルスキーカブリダニ(商品名:スワルスキープラス)
(2)園外マルチ(商品名:タイベックソフト)

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●実証ほの概要
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*実証ほⅠは試験2年目、その他は試験1年目。実証ほⅡでは、品種・加温日の同じ慣行区(13a)も調査。
*実証ほⅠでは園外マルチも実証。

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*各実証ほの天敵は、スワルスキープラスを200パック/10a設置
*実証ほⅠの園外マルチは、ビニル開放期のH25年6月3日に設置

調査内容および方法

(1)ミカンハダニ、スワルスキーカブリダニの葉への寄生量調査
 園内をくまなく巡回しながら、500~600枚の葉に寄生するミカンハダニおよスワルスキーカブリダニの頭数を調査した。
(2)アザミウマ類(実証ほⅠ)
 園外マルチの設置区と未設置区において、ハウス内外に設置した粘着版で調査した。
(3)薬剤散布履歴
  使用した農薬の種類、日付等について、実証農家の記帳により調査した。
(4)労働時間と労賃コスト評価
 昨年度の調査より、天敵放飼:85分/人/10a(*SWプラス)、 薬剤散布:180分/人/10aとして、薬剤散布回数より労働時間を算出した。また、労賃は1,400円×労働時間で算出した。

調査結果

(1)ミカンハダニ、スワルスキーカブリダニの発生状況

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図1 実証ほⅠにおけるミカンハダニ、SWの発生状況

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図2 実証ほⅡにおけるミカンハダニ、SWの発生状況

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図3 実証ほⅢにおけるミカンハダニ、SWの発生状況

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図4 実証ほⅣにおけるミカンハダニ、SWの発生状況

 満開後放飼の実証ほⅠと実証ほⅡでは、放飼2か月後頃からハダニが発生し始めたが、増殖が遅く低密度で推移し、その後サイドビニル開放期頃まで殺ダニ剤の散布を0とすることができた。
 水切り期放飼の2園のうち、実証ほⅢでは放飼からサイドビニル開放までの約80日間に渡りハダニの発生がみられず、殺ダニ剤の散布も行わなれかった。一方、実証ほⅣでは、天敵放飼時にごく僅かであったがハダニの発生がみとめられ、天敵放飼を実施したがその後ハダニが急激に増加し、放飼1か月後に殺ダニ剤を散布された。

(2)アザミウマ類の発生状況
アザミウマ類は園外マルチの設置区、未設置区にかかわらず低密度で推移したが、7月以降は設置区のハウス内部においてアザミウマ類の捕殺数が0で推移した。

(3)薬剤と労賃を含むコスト評価

表1 各実証ほにおける薬剤と労賃コスト ipmH24_saga_h3.jpg
 薬剤費  :700L散布で算出
 天敵放飼 :85分/人./10a(*SWプラス)
 薬剤散布 :180分/人/10a
 労賃   :約1,400円/時間


(4)実証ほⅡのIPM区、慣行区における薬剤散布履歴

表2 実証ほⅡにおける薬剤散布回数とコスト試算
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結果のまとめと考察

(1)SW利用のハダニ防除について
 放飼時期にかかわらず、ゼロ放飼ができれば効果は高い。にせ黄斑病対策園では水切り期放飼では、ハダニの発生状況に注意が必要。
(2)SWの普及性について
 薬剤コストはやや高いが、労賃コストまで含めた総コストは慣行防除より低く、負担の軽減は大きい。普及性は高いが、防除技術の正しい理解が重要となる。
(3)その他IPM技術について
 循環扇、園外マルチ(タイベックシート)、防虫ネット(スリムホワイト)の効果は確認できた。園地条件や害虫発生状況に応じた普及を図る必要がある。

今後の取り組み

・ハウスミカン生産者に天敵利用マニュアルを配布
・産地での天敵普及実証試験を実施 ⇒ JAからつC地区では、農薬購入リストにSWの項目を追加
・中晩柑類(不知火、麗光等)での天敵利用試験を実施 ⇒ 本年度マーコットで実施した試験では、4月中旬にSWを放飼し、約3か月間のハダニ抑制効果があった

(佐賀県東松浦農業改良普及センター)