提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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促成ナスの栽培期間は10か月と長期に渡るため農薬散布回数が多くなり、薬剤抵抗性を発達させた微小害虫が散見される。
平成21年から23年まではスワルスキーカブリダニ(以下、スワルスキー)を核とした総合防除体系を実証試験した結果、安定した害虫の防除効果が認められなかった。そこで、土着天敵であるタバコカスミカメ(以下、タバコ)を併用した新たなIPM防除体系を検討した。
●福岡県みやま市瀬高町、柳川市
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福岡県南筑後地域は、福岡県南部に位置しており、矢部川流域に広がる平坦地で有明海に面している。年平均気温が16℃で、温暖な気候を活かしたイチゴ・ナスなどの施設園芸が盛んに行われている。
福岡県は中長なすの産地で、生産面積は100ha、生産者数は500戸、販売金額は40億円となっている。栽培品種は筑陽で、9月定植で栽培終了が7月の促成栽培が中心となっている。
●耕種概要
●試験区の構成
※スワルスキーの放飼量は、50頭/㎡
※タバコの放飼量は、1頭/㎡
スワルスキー(左)とスワルスキーの放飼(右)
ゴマに寄生したタバコカスミカメをゴマごとネットに入れ、ハウスに導入
●天敵導入日
(1)天敵及び害虫の個体数調査
天敵及び害虫数調査:上位葉30葉の葉裏の天敵と害虫類を計数。
(2)被害度調査
長さ10cm以上の果実30果について、アザミウマ類による被害の程度を調査し、被害度を算出した。
(3)農薬散布実績調査
薬散布回数、成分数及び経費
(4)気温調査
ハウス内気温
(1)天敵及び害虫数
①スワルスキー・タバコ区
スワルスキーは放飼後、1頭/葉程度で推移した。
タバコは放飼後、最大で1頭/葉が確認され、12月以降は0.2頭/葉程度で推移した。
アザミウマ類は定植直後から最大で1頭/葉程度、コナジラミも最大で1頭/葉程度の低密度で推移した。年明け後も両害虫の発生密度は低く推移し、栽培期間中2種の天敵による害虫の抑制効果があった。
スワル・タバコ区(A氏):害虫を完全に抑制
②スワルスキー区
スワルスキーは放飼後、順調に増加したが、その後1頭/葉以下に減少した。
D氏においてアザミウマ類が12月下旬に密度が急激に増加したことで、薬剤防除により抑制した。その後、4月になってから急激に密度が高まりスワルスキーでは抑制できなくなった。
一方、コナジラミ類は定植直後に最大2頭/葉程度であったが徐々に少なくなり、その後も低い密度で推移した。
スワル区(D氏):害虫を抑制
③対照区(A氏)
アザミウマ類が10月下旬と12月中旬に最大3頭/葉以上になるなど、年内に2回のピークがあり高密度で推移したので、継続して薬剤防除を行った。
一方、コナジラミ類は0.3頭/葉以下で推移した。
対照区(A氏):害虫は多かった
(2)被害度
被害度はすべての試験区で、調査期間中、0であった(データ省略)。
(3)農薬散布実績
農薬散布回数は、スワルスキー・タバコ区 < スワルスキー区 < 対照区の順に少なかった(表1)。
表1 農薬散布履歴
(1)促成ナスにおいて、定植直後からスワルスキーとタバコカスミカメを併用する防除体系は、アザミウマ類とコナジラミ類に対する防除効果が高く、かつ、防除回数が減少したことによるコスト低減が図られた。
(2)スワルスキーのみを放飼する防除体系は、アザミウマ類に対して安定した防除効果がなかった。
(3)今年度取り組んだ農家の感想、評価は「防除作業時間が減少し、労力負担を軽減できた」「傷果は無く、品質は問題ない」、「次回作も取り組んでみる」であった。
(4)薬剤防除の留意点は、天敵導入前の育苗段階から防除の際は天敵に影響の少ない薬剤を用いること、また、天敵導入後は天敵と害虫の発生密度を確認し、必要であれば天敵に影響の少ない薬剤で防除することがポイントである。また、アブラムシやダニ及びチョウ目の害虫についても、天敵に影響の少ない薬剤で防除を行う必要がある。
(福岡県農林水産部経営技術支援課 福岡県筑後農林事務所南筑後普及指導センター)