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IPM

群馬県におけるキュウリIPM実証調査(群馬県 平成24年度)

背景と取組のねらい

 群馬県の館林・板倉地域は全国でも最大規模のキュウリ産地であるが、近年「黄化えそ病」や「退緑黄化病」などのウイルス病が問題となっている。これらのウイルス病は、ミナミキイロアザミウマ、タバココナジラミによって媒介されるが、増殖が速く薬剤も効きにくいため防除が難しくなっており、化学的防除に生物的防除や物理的防除を組み合わせたIPM(総合的病害虫管理)技術の確立が求められている。
 そこで、キュウリ栽培(促成+抑制作型)において、地域の栽培環境に合った防除体系を組み立てることを目的としてIPM技術の現地実証調査を行った。

対象場所

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(クリックで拡大します)

 館林・板倉地域は、群馬県の東南端に位置し、利根川と渡良瀬川に挟まれた標高10~25mの平坦な地域である。豊富な日照量と水を利用した施設栽培が盛んで、米麦との複合経営が特徴である。
 キュウリの栽培面積は約100ha、栽培戸数は約600戸である。1戸あたりの平均規模は約20aで、家族経営が主体となっている。作型は促成+抑制、仕立て方は摘心栽培が主であり、夏場の補完作物としてニガウリを栽培する生産者も多い。

実証圃の概要と調査内容

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ホリバーロールの設置作業

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スワルスキー放飼時の草姿(左)と放飼の様子(右)

●中位葉(表・裏両面)4枚×5株×3区で、おおむね10日おきに、アザミウマ類およびコナジラミ類の生息頭数を目視で計測した。幼虫(卵)・成虫は区別し、種の区別についてはアザミウマ類、コナジラミ類ともに行わなかった。
●青色および黄色粘着板(ホリバー、両面)を、各調査区および野外の地面から80cmの高さに設置し、おおむね10日おきにアザミウマ類およびコナジラミ類の捕殺数を調査した。アザミウマ類は青色に捕殺されたもの、コナジラミ類は黄色に捕殺されたもののみを数えることとした。
●ウイルス病(黄化えそ病、退緑黄化病他)、うどんこ病、べと病、褐斑病の発生状況について、目視および聞き取りにより調査した。
●中位葉(表・裏両面)4枚×5株×3区の天敵生息数について、おおむね10日おきに目視による見取り調査を行った。卵は除き、幼虫・成虫の区別はしなかった。
●使用した農薬の種類、日付、倍率について、実証農家の記帳により調査した。
●温度データロガーを各調査区に設置した。
●防除経費、IPMに係る資材費について試算した。

調査結果

(1)害虫の発生状況調査
 アザミウマ類の生息数およびトラップ捕殺数については、天敵+ロール区、天敵区で期間を通して少なく、対照区では中盤から徐々に増え、最大で生息数は幼虫66.4頭/葉、トラップ捕殺数は321頭/ホリバー1枚あたりが確認された(図1)。

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図1 アザミウマ類 幼虫(上)と成虫(下)の発生状況(1葉当たり)

 コナジラミ類の生息数およびトラップ捕殺数については、天敵+ロール区で前半やや多かったが、後半にかけて徐々に少なくなった。一方対照区では後半やや増加した(図2)。
 ハウス内のアザミウマ類の野外に対する割合は、天敵+ロール区で低い傾向にあった。
 一方、ハウス内のコナジラミ類の野外に対する割合は、場所や時期によって異なり、明確な傾向は確認できなかった。

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図2 コナジラミ類の卵・幼虫(上)と成虫(下)の発生状況(1葉当たり)

(2)病害の発生状況調査
 天敵を導入した区はいずれも4%未満と少なかったのに対し、対照区では9.6%とやや多かった。ウイルス病については、天敵+ロール区で退緑黄化病がやや多く、対照区で黄化えそ病が多かった(図3)。

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図3 ウイルス病の発生状況(9月21日:全株調査)

 うどんこ病、べと病については、すべての区で発生したものの、効率的な薬剤散布により問題ないレベルに抑えられた。褐斑病については、天敵+ロール区、天敵区ではほとんど発生しなかったが、対照区では生産者の体調により防除が難しかったため徐々に拡大し、収穫終了を早める一因となった(表1)。

表1 病害の発生状況
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(3)天敵(スワルスキーカブリダニ)の定着状況調査
 天敵+ロール区(8月17日放飼)では、放飼から25日後の9月11日に最大4.6頭/葉が確認され、その後徐々に減少したものの、定着が確認できた。天敵区(8月21日放飼)では、放飼から9日後の8月30日に最大2.4頭/葉が確認されたが、その後徐々に減少し、後半は確認が困難であった(図4)。

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図4 天敵の生息数(葉1枚あたり)

(4)コスト試算
 栽培期間等が異なるため単純比較はできないが、天敵+ロール区は対照区の233%(差額48,808円)、天敵区は対照区の199%(差額36,423円)となった(表2)。

表2 10aあたり防除経費
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 ※農薬散布労賃は、1,000円/時で試算
 ※農薬は定植以降に使用したもの
 ※IPM経費はホリバーロールおよびホリバーの費用、ホリバーロールの設置作業労賃を計上

考察と今後の課題

 実証ほでは、アザミウマ類の発生数が対照ほよりも低く推移し、黄化えそ病の発生もわずかであった。
 コナジラミ類は、天敵+ロール区でやや多く、それに伴い退緑黄化病の発生もやや多かった。とくにハウス東側でコナジラミ類が多かったことから、ハウス北東の扉付近の約5cm四方ほどのすき間(2ヵ所)から侵入したものと考えられる。このため、コナジラミ類に対する黄色粘着ロールの効果は判然としなかった。
 アザミウマ類に関しては、野外に対するハウス内のトラップ捕殺数の割合が、天敵+ロール区の方でやや低く推移しているため、ある程度の効果はあったものと考えられるが、実証ほのアザミウマ類の発生が全体的に少なかったため、判然としなかった。

 実証ほでは、アザミウマに登録がある農薬の使用を対照ほの2分の1に抑えてもアザミウマ類がほとんど問題にならなかったのに対し、対照ほでは中盤から徐々に増え、薬剤の効果もあまりないまま収穫終了となった。このことから、実証ほではスワルスキーの効果があったものと考えられる。
 天敵+ロール区に比べ、天敵区でスワルスキーの定着がやや劣った。原因としてはエサとなるコナジラミ類・アザミウマ類が少なかったことや、スワルスキーが十分に増えていない状態で、やや影響のある殺虫剤(ベストガード水溶剤など)を使用したことなどが影響したものと考えられる。

 試算では、天敵+ロール区は対照区と比べて48,808円/10aのコスト高となったが、これをキュウリの出荷量に換算すると、299円/kg(県指標)の場合で163kg(約33箱)/10aに相当する。
 同様に天敵区は対照区と比べて36,423円/10aのコスト高となったが、これをキュウリの出荷量に換算すると、299円/kg(県指標)の場合で122kg(約23箱)/10aに相当する。ウイルス病の発生により、これ以上の減収が見込まれる場合であれば、コストをかけても取り組む価値があると言える。

 また、栽植密度を1,000株/10aと仮定すると、収量6,000kg/10a(県指標)の場合はキュウリ1株あたり6kg収穫できることになる。つまり差額充当分に換算すると、天敵+ロール区でキュウリ27株分、天敵区でキュウリ20株分となる。IPM技術導入前の、ウイルス病に感染して抜き取り処分を行っていた株数と、IPM技術を導入してもウイルス病に感染して抜き取り処分を行わなければならない株数の差がこれを上回ると考えられる場合も、コストをかけても取り組む価値があると言える。

 今後はこれらのメリットやデメリット、成功するための条件等について講習会等で説明し、十分に理解が得られた農家に対して導入支援を行い、事例を積み上げて技術を確立していきたい。

(平成24年度 群馬県館林地区農業指導センター、群馬県農政部技術支援課)