提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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日本の大部分の地域で成虫が年に2回発生、つまり年2化するので、二化螟蛾と呼ばれています。かつてはイネの最大の害虫として恐れられていました。葉を食べるという被害ばかりではなく、幼虫がイネの茎に潜り込み、イネを心枯茎や白穂としてしまう場合、収量に及ぼす影響は甚大です。イネわらや刈株内で幼虫越冬し、関東では、越冬世代成虫は6月上中旬に、第一世代成虫は8月上中旬に発生のピークとなります。寒冷地では年1回、温暖地では年3回発生します。
●激減の原因は生息環境の変化
発生面積率の推移を図に示しました。1970年ころまでは40%の水田で発生がみられましたが、最近の発生面積率は5%程度まで減少しています。地域によってはほとんど発生がみられない場合もあります。
水田におけるニカメイガ第二世代の発生面積率
近年の発生の激減原因として、イネの作付けが早くなったこと、茎の細い品種が普及したため、幼虫が茎に潜りにくくなったこと、コンバインの普及によりイネ株が低い位置で刈り取られ、わらも破砕されるため、幼虫が越冬しにくくなったことなどが考えられます。このような衰退は生物の絶滅を考える上でも注目すべき事例です。たとえ大害虫として繁栄していたような種類であっても、生息環境の変化によっては絶滅の危機に陥ることがありうる例です。日本にはニカメイガに関する知見が非常に多く蓄積され
ており、種の繁栄から絶滅への過程を探るための貴重な情報を提供してくれる昆虫かもしれません。
全国的には発生が少なくなったといっても、滋賀県では2008年には防除情報、2009年と2010年は連続して注意報が出されており、地域によっては多発しているところもあります。ニカメイガは生息地の気候に適応した生活史をもち、イネの栽培条件の変化に対しても柔軟な適応力をもっています。殺虫剤に対する抵抗性も発達させます。再び大害虫として問題になる可能性を秘めています。
ニカメイガが多発し、防除が必要となる発生量が、被害株率や葉鞘変色茎率から明らかにされています。また、雄成虫を誘引するフェロモントラップのデータから殺虫剤の効果的な散布時期も各県で策定されています。このような要防除水準や薬剤防除の時期は地域によって異なるので、地元の防除所が出している情報を参考にしてください。多発の場合は、第一世代幼虫では育苗箱用殺虫剤を施用し、第二世代幼虫に対しては各種薬剤の本田散布をします。また、ニカメイガの越冬虫はわらに潜り込んでいることが多いので、発生地のわらを未発生地に持ち込まない、収穫後にわらや刈株を水田にすき込み、幼虫の越冬率を低下させるなどの対策も有効であると考えられます。
森本信生
農研機構 畜産草地研究所 飼料生産研究領域
病虫害グループ 虫害担当