提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
MENU
トビイロウンカ(写真左)とセジロウンカは、主な餌植物がイネに限られるため日本では越冬不可能で、中国南部などから毎年梅雨時期に飛来して水田で2~3世代増殖します。2005年以降、西日本を中心にトビイロウンカが毎年多発生の傾向にあり(図)、イネの生育後期から収穫期にかけて、「坪枯れ」と呼ばれる大きな被害がみられています(写真右)。とりわけ、ここ数年は海外からの飛来量はそれほど多くないものの、8月下旬から9月下旬頃に気温が高い年には、稲作後期のウンカの増殖率が高くなり、被害が大きくなる事例があります。これも温暖化の影響の一つといえます。
図 九州地域におけるトビイロウンカとセジロウンカの発生面積率の推移
(JPP-NETのデータによる)
セジロウンカはトビイロウンカに比べて日本への飛来量が多く、西日本に限らず、場合によっては北海道まで飛来します。また、稲作の生育初・中期に密度が増加しますが、生育後期には水田から移出するため、通常はトビイロウンカの「坪枯れ」のような大きな被害は見られません。しかし、九州南部や西岸地域などでは飛来量が多いので、飛来成虫の吸汁や産卵によって、イネの葉鞘(茎部)が褐色に変化して生育阻害の被害が見られます。飼料イネ品種の一部などでは、セジロウンカの増殖率が極めて高くなる品種がありますので、セジロウンカが多飛来する地域では、それらの品種を作付けする際には注意する必要があります。また、セジロウンカは最近、イネ南方黒すじ萎縮病という新しいウイルス病を移すことがわかってきました(「イネ南方黒すじ萎縮病」について)。
日本に飛来するトビイロウンカとセジロウンカは、2005年以降、一部の育苗箱施用薬剤に対して、種ごとに違う種類の薬剤に対して抵抗性が発達していることがわかっています。このため、ウンカ類の飛来量が多い地域では、それぞれのウンカ種に効果の高い薬剤を選ぶことが重要です。特にトビイロウンカは稲作後期まで発生を繰り返すため、多回数の飛来がある場合には、箱施用薬剤に加えて、必要に応じて本田の基幹防除や臨機防除を行う必要があります。また、梅雨明けが遅くなる場合にはトビイロウンカの飛来時期が7月下旬まで続きます。7月下旬頃に多飛来がある場合、移植時期が6月上旬以前の水田では薬剤の効果が切れかかってくるため、本田の追加防除が必要になる場合があります。本田防除の際に気をつける点として、トビイロウンカはイネの株元に多く生息するため、薬剤が株元まできちんと到達するように散布することが重要です。
松村 正哉
(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター 生産環境研究領域