農業機械よもやま話 【3】
2008年02月13日
静電気と農業技術
津賀 幸之介
冬になって空気が乾燥すると、”静電気”のパチパチ・・・が起こり、敏感な方には不愉快なことでしょう。多湿な夏は、静電気が発生してもすぐに放出されるのですが、冬は空気中の水分が少ないため、衣類などに摩擦でたまった静電気が、"パチパチ"と放電したり、衣類などがくっついたりする現象が起こりやすくなります。
(画像は静電散布の原理図(共著 津賀幸之介:農薬散布、)新版 静電気ハンドブック、オーム社、p754、1998)
このように、静電気は、生活を煩わしくしたり、工場などで災害発生の要因となったりすることもあります。
しかし一方で、静電気はたいへん役に立っています。身近には、静電印刷を原理とするコピー機や、静電集塵を原理とする部屋の空気清浄機などがあり、塗装、植毛、選別、集塵技術などいろいろな産業に静電気が利用されています。
10年ほど前の話で恐縮ですが、静電気学会誌に「静電気と農業技術」について巻頭言を書かせていただいたことがあります。誌面には、その分野のご専門の方が、農業に役立つ静電気について解説がありました。
題名を紹介しますと、「電界・空気イオンと植物」、「農薬散布と静電気」、「霧(ヤマセ)被害の軽減」、「静電気と遺伝子工学」、「放電による雑草除去」についてで、このうち、「農薬散布と静電気」は、農薬粒子に静電気を帯びさせて散布し、クーロン力で作物体にひきつけ、葉裏にも付着良好とする技術です。この分野の研究は1940年代から行われ、図は1950年代の製品カタログです。
(静電散粉機のカタログ : Electric Motor & Transformer Company, Agritronics sales Co. )
当初は粉剤の静電散布に始まり、近年になって、噴霧機の液体微粒子を帯電させた静電散布機が研究されています。繁茂した作物では帯電した粒子が表層に付着しやすく、作物群の内部についてその効果を確かめることが重要ですが、すでに国内外に多くの製品があります。
ところで、車から降りる時に、ドア等の金属部分に触れた瞬間、バシッと放電してびっくりする時があります。これは、乗っている間に帯電するのではなく、主に車を降りる時にシートと衣服の摩擦によって人体が帯電するためで、車から降りる前に車の金属部分を触りながら降りると良いそうです。
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つが こうのすけ
大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー