探検! 食の最前線 【1】
2007年04月02日
●あなたは一生にどれだけの食材を食べるか知っていますか?
―食に関する数字を見る― 鈴木建夫(宮城大学食産業学部教授)
国民の盛衰は食べ方が決める!?
「国民の盛衰はその食べ方のいかんによる」とはフランスの生理学者で法律家、グルメの元祖ともされるブリア・サヴァランの言葉(1825年)である。フランスの話かと眉をひそめられた方には、道玄禅師の「法と食事は一如。食事作法も仏行そのものである」(典座教訓1237年、赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)1246年)がある。食が生活の根底にあるのは洋の東西を問わない。
しかしながら、昨今の食の乱れは何が原因で起こるのであろうか。「誰もが毎日行っていることだけに、誰もが良く知っている」と安易にとらえるところに誤りがある。食のプロが食について謙虚に学び、普及することこそが、「国民の盛衰」を決める礎になる。
一人一生の食材消費量は
我々日本人一人当たり、一生の間に、どれほどの食料を消費しているのであろうか。ご飯約11万杯分のオコメ6トンに始まり、野菜・果物の11.3トン、肉類2.2トン、魚介類3トンなど、実に大量の食材を消費している。タンパク質、炭水化物、脂質の三大栄養素で約13トンにも達する。これに含まれる水分の約60トンを加えれば、日本人一人一生の食材は実に70トンにも達する。
3人に2人は生活習慣病で命を落とす
そんなに大量に食べているのであれば、少しくらいいい加減な食事をしても良いのではないかと不遜な考えをお持ちの方々へは、日本の死亡原因を示したい。ガン、心臓疾患、そして脳血管障害が三大死因とされるが、糖尿病や肝硬変を含めたいわゆる生活習慣病で約65%の人が亡くなる。インフルエンザ、SARS(サーズ)、エイズなどの感染症(10%)や事故・自殺(25%)で亡くなる人を大きく凌駕する。
厚生労働省は生活習慣病を予防するための方策をまとめて提言しているが、タバコを喫わないこと、身体を清潔にすること、そして適度の運動をすることが、まず求められている。他の方策は、すべて食に関することで、黄緑色の野菜を食べましょう、熱過ぎるものは食べないように、など食に関する注意が並ぶ。病を予防するには食の力が極めて大きいことがわかる。生活習慣病イコール食習慣病なのかも知れない。
和食の良さを見直そう
「食は大切」を数字で示したが、和食は中でも優れている。食素材数をみると、欧米の食素材は約2000種類であるのに対して、東洋では雑食文化があるため約1万種類、日本では鮮度嗜好もあり約1万2000種類もの食材がある。健康のために30品目食べましょうのキャッチコピーは有名であるが、和食の素材数からすれば容易に達成できる。安全性についても、単純計算で欧米食の6分の1程度のリスクになる。和食の良さを見直す大切な数字であろう。食を大切にするためにも食に関する数字を述べてみた。(つづく)

すずき たてお
昭和18年仙台生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。同大学農学部勤務、農学博士。昭和51~53年米国立衛生研究所(心肺血液研究所)客員研究員。農林水産省・食品総合研究所、農林水産省研究開発課長等を経て、食品総合研究所長(第20代)。独立行政法人化により同・理事長。平成16年、宮城大学教授、現職。