ぐるり農政【184】
2022年07月20日
第2次米粉ブーム
ジャーナリスト 村田 泰夫
第2次米粉ブームが到来中なのだそうだ。ロシアによるウクライナ侵攻で、小麦の国際相場が高騰し、高くなった小麦粉の代替品として米粉が注目されているそうだ。米は国内で生産されるので、食料自給率の向上にも役立つと期待する声があがっている。
第1次ブームは、2009(平成21)年から2013年までで、第2次ブームは17年から始まっていて、22年の現在は「ブームの真っただ中」だそうだ。と言われても、ピンとこない。ウクライナ侵攻により小麦粉の価格が高騰し、米粉の価格が相対的に安くなったというニュースで、米粉が話題になっていることを知るぐらいだ。
米粉といえば、私の記憶に残るのは、秋田県大潟村の「大潟村あきたこまち生産者協会」の涌井徹会長である。もう十数年前のこと、いまから思えば第1次ブームのころだった。大潟村のあきたこまち生産者協会を訪ねたことがある。涌井さんは「これからは米粉の時代」だと言って、米粉麺など米粉製品の生産を増強するのだと熱弁を振るっていた。その後、さっぱり話を聞かなくなったと思っていたら、近年になって「ブームに踊らされ、失敗だった」という趣旨の話を聞いた。
とはいうものの、涌井さんは、米粉がアレルギーを起こさないグルテンフリー食品であることに目をつけ、海外に輸出するなど、ちゃんと米粉事業を復活させている。さすが稀代の経営者だと感心している。第1次ブームがなぜ、しぼんでしまったのかを分析することが、第2次ブームを長続きさせるカギとなる。
第1次ブームのきっかけとなった09年は、主食用米の需要が減って生産を減らさざるを得なくなり、米粉用米や飼料用米に作付け転換を促す法律が施行された年だった。「米穀の新用途への利用の促進に関する法律」という転作奨励政策のおかげで、米粉用米の生産量は急増した。それにつれ米粉の需要量も09年の5千tから、年々増えて、13年には2万5千tになった。ところがその後の16年までの3年間は2万5千tを下回ったままで、ブームは去ってしまった。
もともと米粉は、わが国では「上新粉」と呼ばれ、団子をつくる原料として古くから使われてきたが、米粉用のイネの種類が栽培されていたわけではなく、主食用米を粉にしたものだった。第1次ブームのときは、ごはんとして食べる主食用米が余っているので、なんとかして他に用途を見つけることしか頭になかったのであろう。「それなら、小麦粉の代わりに粉にしたら」とか「家畜のエサにしたら」と思いついたのではないか。
小麦や家畜の飼料は、その大部分が輸入である。輸入穀物の代替品として、米が活用されれば、食料自給率の向上にもなる。だから、当初の米粉は、あくまでも小麦粉の代替品として扱われたのである。
技術的なことは私にはわからないが、主食用米を機械で粉砕する際、でんぷんが壊れてしまうそうだ。すると、米粉を使ったパンは、焼いても膨らまないし、味も小麦粉のパンとは違ってしまう。しかも、輸入した小麦粉と比べ国産の米粉の価格が高く、業務用に広く使われることはなかった。すっかり人気をなくして、ブームは去ってしまったのである。
それが、17年ごろから、米粉が見直され始め、第2次ブームと言われるようになったのは、米粉用のイネの品種が開発されたうえ、粉にする技術が向上したからである。農研機構が米粉用の専用米として「ミズホチカラ」と「笑みたわわ」を開発した。いずれも米粒がもろく、最新の機械を使うと細かな粒子の米粉ができるうえ、粉に粉砕してもでんぷんが傷つきにくい。これらの米を使ってパンを焼くと、米粉パンのよさである「モチモチ感」が際立つのだという。
また、米粉を使う用途によって米粉を選べるように、農林水産省が「用途別基準」を制定したことも普及を後押しした。小麦粉には、天ぷらの衣やお菓子に使う「薄力粉」、うどん用の「中力粉」、パン用の「強力粉」がある。米粉にも含まれるアミロースの含有率によって「菓子・料理用」、「麵用」、「パン用」というふうに、用途別に分け、使い勝手をよくした。
改良された米粉でつくった米粉麺や米粉パスタの食感は、小麦粉を使ったものと遜色なくなった。小麦粉につきものの「グルテン」は、ねばりと弾力を生む効果があって、おいしさのもとなのだが、人によっては小麦アレルギーの原因となる。そこに目をつけ、米粉製品をアピールして輸出を伸ばしているのが「大潟村あきたこまち生産者協会」なのである。
つまり、第2次ブームは、小麦粉の代替品としてではなく、米粉でなければ実現できない特徴をいかした食品であることをアピールしたところが、第1次ブームとは違う。米粉パン特有のモチモチ感をうりにしたり、グルテンフリー食品であることを消費者に訴えたりして、支持を得ているのである。
そこにウクライナ侵攻が起きた。日本は小麦大国であるウクライナ、ロシアから小麦を輸入していないが、国際相場が高騰した。価格はこれまで小麦粉の方が安かったが、米粉と変わらなくなって、ブームに拍車をかけているのである。(2022年7月19日)

むらた やすお
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。