きょうも田畑でムシ話【141】
2024年12月09日
外来カメムシ――善と悪の分かれ目はどこだ?
立冬を過ぎたころから勢いを盛り返したミニトマトを見ながら、夏野菜とはなんだっけと考えてしまう。猛暑日、熱帯夜という用語さえもかすむ異常続きの暑さの前で、夏に収穫できない夏野菜になっていた。
もともとが情けないほど低レベルの菜園家なのだが、それにしても今年の天気はひどかった。8月も半ばを過ぎたころから花が咲かなくなり、わが家のミニトマトが家族の口に入らなくなった。雨よけ栽培キット改良版の「ハウスもどき」の中ではミニトマトの穴を埋めるようにニガウリが健闘したが、それさえも早々に切り上がった。
「えっ。ミニトマトもニガウリも駄目なのか?!」
菜園仲間にも、あきれ顔でそう言われたものである。
ところが霜月11月に入って株を片付けようとしたころから花が咲き始め、青いながら実もつけた。しかしそれは露地栽培ものだから、収穫は期待できそうにない。落葉の季節なのに若々しい葉が観賞できるだけでも良しとしよう。
不思議なのは、そんな状況の中でもカメムシ類が元気なことだ。ミニトマトやピーマン、ナスには例年通り、ホオズキカメムシが大集合したし、散歩に出れば何種類ものカメムシに出くわす。
その筆頭は、外来種のキマダラカメムシだ。1700年代のおわりに国内で初めて見つかったが、その後150年ほど姿を消したという謎の虫として知られる。ところが20世紀もまもなく終わるというころになって西日本で次々と見つかり、そのあとは急速に北進しているそうだ。
左 :ホオズキカメムシはたいてい、集団で汁を吸う。独りぼっちの食事はさびしいのかな?
右 :葉上のキマダラカメムシ。これから吸汁するつもりなのかわからないが、ただじっとしていた
だからというわけでもないが、キマダラカメムシはわが地元・千葉市でもどんどん増えている。もはや、外出すれば見ない日はないくらいの普通種だ。
なにしろデカい。体長は2cmぐらいあるので、木の幹にでもとまっていれば否応なしに、目に入る。
しかもその数が、ハンパではないのだ。わが菜園で常連となっているホオズキカメムシのように群れる習性はないようだが、ここに1匹、あそこに2匹、そのまた先に1匹、2匹......といった具合で、場所によっては1本ずつに個々の縄張りがあるかのように存在する。
そんなにいては、農業への影響が心配だ。どんな作物が被害に遭っているのだろう、樹木にへばりつくところを見るのがもっぱらだから、果樹被害が大きいのか......。心配してネット情報を探ると、猛威をふるっているといった記述がいくつも見つかった。
右 :仲が良いキマダラカメムシ3匹。でも2匹は交尾しているね
しかし、よく読むとキマダラカメムシの名前を混ぜ込んでいるだけで、どう考えても別のカメムシだろうとツッコみたくなる情報も混じる。体長1cmもない小さなカメムシだと紹介するものもあるから、わがコラムよりもっとあやしい。キマダラカメムシに口がきけたら、「冗談じゃないよ!」と反論するだろう。
わが近辺に限れば、サクラの木で見る例が多い。そのほかにはエノキ、ケヤキ、サルスベリで見かける。樹種のわからない街路樹にもよくとまっているので、木があれば気にせずに寄りつくように思える。
農業とのかかわりが深い果樹でいえば、カキノキ、ウメなどで目撃例がある。柿の実の汁を吸うところを見た人もいるようだから、果実の吸汁被害もあるのだろう。だが、大駆除運動に乗りだしたという話は聞かない。
キマダラカメムシの説明でよく引き合いに出されるのが、クサギカメムシだ。見た目が似るだけでなく、体長は2cm近いから、クサギカメムシもけっこうな大型種だ。在来種なのに、チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシと並ぶ代表的な果樹カメムシとして指名手配されるほどの悪役となっている。リンゴやナシといった果樹だけでなく、大豆などのマメ類でも警戒される。だから、在来種だからいいヤツという理屈は成り立たないし、外来種ゆえ悪者だということもいえない。
外来生物が入り込めば、生態系に乱れが生じるのは避けられない。木の汁一滴でも吸われれば、巡りめぐって、自然界のどこかにひずみが生じるというのは正しいのだろう。
それでもなあ、とホオズキカメムシやウリハムシの大群にいたぶられる野菜を見慣れている菜園家としては、まあ少しぐらい吸わせてやってよ、とココロやさしくなる。
左 :クサギカメムシの幼虫。キマダラカメムシの幼虫に比べると、なんとも地味だ
右 :ツヤアオカメムシも果樹カメムシの代表種。アオキの青い実にへばりついていた
虫の話をする際には一般に、植食性とか草食性と呼ばれるベジタリアンは嫌われ者だとみるのが正しい。
イモムシ、ケムシがいい例だ。野菜や果樹の葉をむしゃむしゃとかじる。そんな目に遭えば光合成ができなくなり、生育にかかわる。楽しみにしている収穫物が手に入らないのは悔しい。
だから葉を食べるベジタリアン昆虫はよほどの理由がないと迫害されるが、雑草と栽培物の区別のしかたを教え込むのは難しい。
ということもあって、農家の人たちにいくらかでも歓迎されるのは肉食昆虫だ。
カメムシでいえば、たとえばヨコヅナサシガメがいる。体長は2cmを超すから、これまた最大級の大型種だ。しかも外来種ときている。
肉食だから、ほかの虫を襲う。食べるという表現をしないのは、物をかんだり、かじったりできるくちの構造ではないからだ。その点ではカメムシ仲間に共通する。水生カメムシとして有名なタガメ、タイコウチ、コオイムシなども同様で、彼らには針のようなくちしかない。しかも太短い。牙でもあると迫力が増すのだが、そうなったらカメムシ仲間からつまはじきにされるだろう。
ヨコヅナサシガメの幼虫は、相手が大物だと共同で狩りをすることもある。成虫になると堂々たる体躯にものをいわせて獲物を襲うようにみえるが、どちらにしても針型のくちでブスッと刺して消化液を注入し、溶けた肉を吸いとることに変わりはない。だからよく、昆虫界の吸血鬼にたとえられる。
右 :自分の何倍もある獲物を捕えたヨコヅナサシガメの幼虫。スゴすぎる!
肝心の獲物が何かで、批判されるか賞賛されるかが変わってくる。
被害昆虫がゴキブリだったら、「よくやった!」とほめる人もいよう。イモムシ、ケムシも嫌われ者であり農業害虫になるものも多いから、やはり悪くは言われない。
しかし、減少著しいチョウだったら、どうだろう。美しい声を聞かせる鳴く虫だったら、どんなふうに言われるだろう。少なくとも、激励の言葉は期待できまい。同じ個体であっても評価のがらっと変わるのが外来種のつらいところだろう。
草食か肉食かで区別されるのではなく、外来種だからと差別されるわけでもない。結局は何を襲ったか、何を食べたかで判断されるのが現実らしい。
してみると、外来昆虫はどう反論すればいいのだろう。ココロやさしいニンゲンは、ここでまた悩んでしまうのである。

たにもと ゆうじ
プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。