提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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麦・大豆

大豆編 栽培管理支援情報の活用

はじめに

 生産者人口の減少に伴い農業の経営規模は年々大きくなり、大豆作でも数10ha規模の生産者が珍しくなくなっています。一方で農地の集約化はそれほど進まず、多数の圃場の状況を正確に把握して適期に作業することが難しくなっています。
 こうした中で気象情報、土壌データ、過去の栽培データ等の農業情報を活用して圃場管理を合理化することが、大豆の生産性や収量の向上に非常に重要となってきています。そこで本項では、農業情報を活用した大豆栽培のスマート化について紹介します。

栽培データの管理と活用

「利用可能な栽培管理支援ツール」
 これまで栽培管理は各生産者が独自に作業日誌を作って記録してきましたが、近年ではさまざまな栽培管理支援ツールが開発されて利用されています。現在利用可能な主な記帳型の栽培管理支援ツールを、表にまとめました(2024年6月現在)。これらのほとんどは、大豆向けというよりも、作業記録のデジタル化や共有を目的とした汎用的なものです(表1)

表1 作業記録型栽培管理支援機能を持つ主なサービス(アルファベット順)
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「作業データの記録・共有」
クボタのKSASを例にとると、
●圃場ごとに位置情報、作目、耕起日、播種日、収穫日、収量、肥料、薬剤等をパソコンやスマホでデジタルの記録とすることができます。
●KSAS連携機を用いることで、機械の作業記録や作業時間などを自動入力することができます。またセンシング用ドローンの空撮データを取り込んで生育マップを作成することもできます。収量コンバインであれば、圃場ごとの収量マップや圃場内をメッシュマップ化(10m、15m、20m)した収量マップを作ることができます。
●圃場ごとの作業状況を色分けして見える化することで、全体の進捗状況を一目で把握でき、重複作業や作業忘れがなくなります。またスマホで情報共有が簡単にできるので、作業者に作業指示することもできます。

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図1 栽培管理支援ツールの例(KSASの表示画面)(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
入力はスマホ、パソコンから可能で、圃場を色分けすることで作業の進捗状況を簡単に把握できる


「蓄積データの活用」
●作業記録等が電子データとして記録されており、過去の栽培データが簡単に呼び出せるので、過去データを参考に施肥設計、排水対策、合理的な作業スケジュールの策定などを行うことができます。
●作付け計画から必要な肥料や農薬等の集計が簡単にできるので、必要資材を過不足なく準備できます。
●ザルビオなどの他のツールと連携して情報を記録・活用することができ、防除等の作業計画立案に活用できます。
●収量コンバインで作成した収量マップや、センシングドローンで作成した生育マップを参考に、次作設計時に自動で可変施肥マップができます。また、排水不良が低収要因と考えられる場合は、マップを参考に追加の潅排水対策などの対応もとることができます。

土壌・農業情報を活用した大豆の栽培管理

 大豆の単収向上のためには、圃場や生育状況を正確に把握し、適期・的確に作業する必要がありますが、圃場枚数が多くなると従来の圃場の見回りだけでは困難になります。こうした圃場や生育状況の把握に農業者が活用できる栽培管理支援ツールは数多くあり、さまざまな団体からさまざまなサービスが提供されています。ここでは、大豆の安定栽培のために活用できる情報サービスを紹介します。

「大豆の生育状況の把握」
●大豆の収量増を狙う上では、第一に、大豆の生育を数字として知る必要があります。
●収量コンバインとKSASのような営農・サービス支援システムの登場により、今まで正確に判らなかった圃場毎の大豆の収量や圃場内の収量のばらつきの情報が、簡単に入手できるようになっています(図2)

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図2 KSASでの収量地図の閲覧画面
収量マップは収量増の戦略をたてるための基本的な情報となります


●高価な収量コンバインを使用できない場合は、衛星等から得られる生育量を指標として活用できます。特に、開花期付近の正規化植生指数(NDVI)は、大豆の生育量をよく反映するので、この情報を使って大豆の生育を把握することができます。
●大豆は施肥反応が良くないので、追肥で生育を斉一化することはできませんが、生育抑制の原因が分かれば、次回作以降に対策を実施することができます。
●NDVIはザルビオ、Agri-Lookなどの商用サービスから簡単に入手できます。
●人工衛星データから無料でNDVIを閲覧することもできます。EO-Browser(巻末の表2参照)からSentinel-を選択すると、その地域について衛星写真のストックがある年月日がリストで表示されます。ここから開花期付近の写真を選ぶと、10mメッシュのNDVIを閲覧することができます(図3)。ただしサイトは英語で操作も煩雑なため、活用の敷居は高いです。

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図3 衛星画像からみた大豆の生育量(NDVI)地図
8/10のデータ。緑が濃い圃場は水稲、比較的薄い圃場は大豆の作付圃場。他の大豆圃場に比べ矢印付近はNDVI値が高く、図2の収量が高い地域と一致しています


「湿害対策の改善」
●圃場の標高は水の動きを決定する重要な情報です。
●1m刻みといった高さ方向について、高精細な地理情報は、ザルビオの「標高マップ」により提供されています。
●国土交通省の「電子国土Web」からも無料で情報を入手できます。ただし操作が煩雑になります。
●電子国土Webは、通常の表示では標高をかなり粗く表示していますが、これを0.5~1m間隔に変更し、詳細な圃場間の高低を把握します。これを実行するには「標高・土地の凹凸→自分で作る色別標高図」を選択し、0.5~1m間隔に自分で色分けします(図4)

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図4 「電子国土Web」でみた圃場の標高
図3でも示した矢印付近から左上に向かって土地が低くなっており、土地が低い地域では湿害が収量を低下させている可能性が判ります。このデータは圃場ごとの優先順位など、排水対策の策定の参考にできます


●標高データと収量または生育データを見較べると、「標高が高いのに湿害が生じている」などさまざまな気づきがあります。これらの情報を参考に圃場条件に応じた排水対策を実施します(排水対策の項参照)。
●標高以外の排水性に関与する情報として「昔の土地利用」「土壌図」および「地表水分」があります。
●昔の土地利用は、電子国土Webの航空写真から確認できます(図5)。現在の標高データなどからは分からないが、排水の悪い地帯は昔の湿地だった、などのケースあります。

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図5 昔の土地利用の確認
左は現在(2023年)の圃場、右は1974~1978年の圃場(電子国土Web)で、現在は昔と全く異なる土地利用を示していることが分かります。過去の河川跡などが、排水性や生育のばらつきなどに影響している場合があります。


●土壌に関する情報は、「日本土壌インベントリー」から閲覧できます(図6)
●ここで得られる土壌型が、「グライ低地土」「灰色低地土」「湿性褐色低地土」のいずれかの場合、地下水位が高く、帯水しやすい土壌だと判断できます。ただし、同サイトの情報は1970年代の調査の結果なので、現在では状態が変化している可能性がありますので、実際に見て確認する必要があります。

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図6 日本土壌インベントリー
「日本土壌インベントリー」の「土壌図」を選択すると、右クリックから知りたい土地の土壌型が表示されます


「乾燥害対策の改善」
●大豆は湿害だけでなく干ばつにも弱い作物です。干ばつによる落花・落莢や充実不足は収量減の大きな要因になっています。近年の温暖化傾向により乾燥害のリスクが高まり、ますます灌水の重要性が高まっています。
●葉のしおれなど外観から判断できる頃にはすでに乾燥害が相当進行していることが多い上に、灌水は雑草や病害の発生を助長することから、適期の見極めが難しい作業です。誰でも灌水適期を判断できるように開発された適期灌水のためのツールが「灌水支援システム」です。このシステムはビジョンテック社の栽培管理支援情報サービス SAKUMOから提供されています。

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図7 SAKUMOの灌水支援システムの画面

●灌水支援システムに圃場や播種日などを登録すると、9日先の天気予報機能も含め、大豆が乾燥ストレスを受けるタイミングをリアルタイムで表示させることができます(図8)。畝間灌水が可能な生産者は、この情報を適期灌水に活用できます。

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図8 灌水支援システム
乾燥ストレス(SAKUMOでは「水ストレス」と表現)が灌水の閾値を超えると赤くなり、灌水適期であることを知らせます。また、点線は将来の予測値であることを示しており、7/30付近に強い乾燥ストレスがあることが推定されています(図は7/23に閲覧した結果)


●灌水支援システムの利用方法の詳細は、農研機構のサイトを参照ください。

「雑草管理の支援」
●雑草防除は適期に実施しないと十分な効果が得られないことが多いのですが、予測に基づいてあらかじめ作業計画を立てることで、適期の防除が可能になります。
●BASFデジタルファーミング社のザルビオには「雑草管理プログラム」が搭載されています。これは、雑草のリスクを監視し、最適な撒布を支援するものです。
●土壌種類や雑草種などを設定すれば、「雑草管理プログラム」がその年の天候や大豆の生育状況を解析して、最適な防除時期をアラートで提示してくれます。

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茎葉処理剤散布適期のアサガオ(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
アサガオ類の茎葉処理剤による防除は3葉期までの散布効果が高い


「大豆の生育ステージ予測」
●除草剤散布、殺虫剤散布などは、葉齢や開花期など大豆の生育ステージにより、散布可能期間に制限があります。また中耕培土などは適期を過ぎて実施すると大豆の生育が進んでしまい、踏みつけなどのダメージを与えることがあります。
●SAKUMOまたはザルビオから、大豆の播種期等のデータを入力すると、発育ステージを予測(ザルビオでは生育ステージ予測と表現)してくれるツールがあります。
●これらのツールは大豆の開花期、子実肥大始期、成熟始期などをリアルタイムで推定しますので、その年の気象に合わせた、薬剤散布などの作業の調整に活用できます。

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開花期の大豆(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
莢実害虫の防除は開花後10日~2週間目頃から開始、除草剤のベンタゾン(大豆バサグラン)は開花前まで使用可能など、開花日予測は作業計画策定の判断材料となる


表2 本文中で紹介したWebサイト(登場順)
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執筆者
高橋 智紀
農研機構中日本農業研究センター

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